プロローグ
初めてこちらに投稿させていただきます。
まだ勝手がわからない新参ですが、お気づきの点がありましたらお知らせ下さい。
序
闇の中、音を立てて薪が爆ぜた。
ちりちりと、小さな火の粉が舞い上がる。
粗末な小屋、土間の中心、土を掘り石で組んだ囲炉裏で薪が燃えている。
囲炉裏の周りには食器が複数組と、織物の敷布。
遠く、波の音が聞こえる。
火の側には幼子を膝に抱いた女が一人。鉄の火掻き棒で火をかき混ぜて、新しい薪をくべる。ぱちりと音がする。
女の膝で、幼子は手の中のものを炎にかざす。
オレンジ色の明かりを照り返す珠。太陽の光の下で見たなら、月の光のようにほのかに輝く乳白色に見えただろう。
それは大粒の真珠だった。
「おかあさん」
舌足らずの言葉で、女の顔を見上げ尋ねる。
女は愛情を湛えた微笑みを返し、少し首を傾げてみせる。
「これはどうやってできるの?」
真珠を指でつまみ、女に差し出す。
「これはね」
答えながら、幼子の指の間からこぼれた真珠を空中で受け止める。
「海の中の貝から採れるの」
重ねて問いを投げてくる幼子の手に真珠を返して、そのまま幼子を抱いて立ち上がった女は、入り口に下がった織物をどけて外に出る。
晴れ渡った夜空の中天に輝く満月の周りには、沢山の星々が華を添えていた。
「ほら、お月様はいつも、ああして私たちを、見ていてくれているでしょう? いつも空から見てるとね、たまに、とっても哀しいものを見るときがあるの。そんな時お月様は一粒だけ、涙をこぼすの。その涙は海に落ちて、それを貝が大事に大事にしまいこむのよ」
幼子の手にある真珠は柔らかい月光を受けて、本来の輝きに近い仄白さを見せている。
「これはおつきさまのものだから、こんなにおつきさまににてるんだね」
今更ながら、面白そうに真珠を手の中で転がしていた幼子は、ふと新たな疑問を口にした。
「なんで、かいはおつきさまのなみだをしまいこむの?」
「そうね……」
しばし考えるような沈黙。
穏やかな風と波の音だけが聞こえる。
「こぼれた涙の理由を、忘れない為かもね」
女はやさしい溜息をついて幼子の尻を軽くポンポンと叩き、火の側へ戻っていった。
そんな親子のやりとりを、月だけが静かに見守っていた。