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人々に愛されたからだ

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/06/30

 

 あぁ、こんなに可愛いのに。

 どうして、そんな予言をされたのだろう?


 女性はそう疑問に思いながら我が子を愛した。

 愛し続けた。


 そう。

 予言は予言。

 愛情を持って育ててれば予言だってきっと外れる。

 そう思いながら女性は我が子を教育した。


 心優しい人に育つよう愛を伝えた。

 大切にせねば人はすぐに傷つくことも。

 優しく振る舞えば人と理解し合えることも。

 人々を愛しながら暮らせば、人々から愛されることも。


 武術より歌を教えた。

 魔術より踊りを教えた。


 強い存在にならないよう気をつけた。

 暴力に触れぬよう心がけた。

 そして、何よりしつこいくらいに愛を教え続けた。


 そうすればきっと。

『魔王になる』なんて予言、きっと叶いっこないから。



 *



 女性がこの世を去ったあと。

 稀代の悲劇作家が世に現れた。


 心優しく誰からも愛される人だったけれど、劇は目を覆いたくなるような悲劇、惨劇をテーマにしたものばかり。


 晩年。

 多くのファンからの『何故、このような作品を描けるのか?』という問いに、その人はただ一言返すばかりだ。


「とても愛されたからだ」


 彼が残した数え切れないほどの悲劇と惨劇は今日でも様々な場所で上演されている。

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