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葉隠メンヘラ〜武士道とは、推しと死ぬことと見つけたり〜  作者: 江戸川竜也


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第七話:討入(ホスト)

作戦会議は、深夜の「地獄極楽」で行われた。

「今回のターゲットは、Club Luciferのホスト・涼介」

私はホワイトボードに、涼介の顔写真を貼った。ゆめかわが特定した、卒業アルバムの写真だ。

「本名、田中翔太。25歳。埼玉県出身。——そして、詐欺と恐喝の前科持ち」

「前科持ちなの!?」

ぴえんが叫んだ。

「ゆめかわが調べた。3年前に詐欺で逮捕されてる。執行猶予中にホストになった」

「そんな奴に、あたし……」

「騙されてたんだ。お前は悪くない」

私はぴえんの肩を叩いた。

「今夜、全部清算する」

 

***

 

【作戦概要】

①涼介の出勤日(土曜)を狙う

②閉店後、涼介が店を出るのを待つ

③自宅に向かう途中で接触

④「社会的死」に追い込む

「物理は使わないの?」

病み子が聞いた。

「使わない。今回は完全に社会的に殺す」

私はスマホを取り出した。

「涼介の裏アカ、客を馬鹿にしてる投稿が山ほどある。これを——」

「店に送りつける?」

「それもあるけど、もっと効果的な方法がある」

私は笑った。

「涼介の客、全員にDMする」

 

***

 

土曜日、深夜3時。

Club Luciferの閉店時間だ。

私たちは、店の近くのビルの影に隠れていた。メンバーは私、ぴえん、ゆめかわ、病み子の四人。

「出てきた」

ゆめかわが囁いた。

涼介が店から出てきた。金髪が街灯に照らされている。

一人だ。

「追うぞ」

私たちは、涼介の後をつけた。

涼介はスマホをいじりながら歩いている。警戒心ゼロ。

舐めてる。

 

***

 

涼介が路地裏に入ったところで、私たちは動いた。

「涼介」

私が声をかけた。

涼介が振り返る。

「……誰?」

「先週、店に来た客だよ。覚えてない?」

「あー……さくらちゃん?」

覚えてた。まあ、一週間前だからな。

「わざわざ会いに来てくれたの? 嬉しいな」

涼介がニヤニヤ笑いながら近づいてくる。

「でもごめんね、今日はプライベートだから——」

「知ってる」

私は涼介の目を見た。

「田中翔太くん」

涼介の顔から、笑顔が消えた。

「……は?」

「本名、田中翔太。25歳。埼玉県川口市出身。3年前に詐欺で逮捕されて、執行猶予中。——合ってる?」

涼介の顔が、みるみる青くなっていく。

「お前……何者だ」

「ただの客だよ。お前に騙された、ただの客」

私の後ろから、ぴえんが出てきた。

「……久しぶり、涼介」

「ぴえん……!?」

涼介が後ずさる。

「お前、なんでここに——」

「会いに来たの。お礼を言いに」

ぴえんが笑った。泣いてない。初めて見る、ぴえんの笑顔だ。

「200万、ありがとう。おかげで、あたし強くなれた」

「何言って——」

「で、これからお返しするね」

ぴえんがスマホを取り出した。

「涼介の裏アカ、面白いこといっぱい書いてあったよ」

涼介の顔から、完全に血の気が引いた。

「『ぴえんとかいうデブ、200万貢がせたwww』——これ、お店の人に見せたら、どうなると思う?」

「待て、それは——」

「あと、涼介の客、全員にもDMしようかなって」

「やめろ!」

涼介が叫んだ。

「やめてくれ……それやられたら、俺——」

「俺、何?」

私が聞いた。

「店クビになる……客も全員飛ぶ……」

「そうだね」

私は冷たく言った。

「社会的に、死ぬね」

 

***

 

涼介が土下座した。

「頼む……許してくれ……」

「許す?」

私は涼介を見下ろした。

「お前、ぴえんに何した? 200万騙し取って、『お前なんかどうでもいい』って言ったんだろ?」

「あれは……営業で……」

「営業で200万? 営業で人の心を踏みにじった?」

「……」

「許すわけないだろ」

私はスマホを取り出した。

「今から、涼介の裏アカのスクショを、涼介の客全員にDMする。店にも送る。あと、涼介の地元の同級生にも送る」

「地元の——!?」

「Facebookで繋がってるだろ。友達327人。全員に送る」

涼介が泣き出した。

「やめてくれ……頼む……何でもするから……」

「何でも?」

「何でもする……」

私はぴえんを見た。

「ぴえん、お前が決めろ」

「……え?」

「こいつをどうするか。お前が決めていい」

ぴえんが涼介を見た。泣きながら土下座している男を。

「……涼介」

「……何」

「あたしのこと、好きだった?」

「……」

「嘘でいいから、答えて」

涼介が顔を上げた。

「……好きだった」

「嘘つき」

ぴえんが笑った。

「でも、ありがと。その嘘で、あたし生きてこれた」

ぴえんが私を見た。

「らむね。送って」

「いいのか」

「いい。——介錯、お願い」

私は頷いた。

そしてスマホの画面を、タップした。

 

***

 

翌週。

Club Luciferから、涼介が消えた。

SNSも全部削除。電話も繋がらない。

噂では、地元の埼玉に逃げ帰ったらしい。

「……終わったね」

ぴえんが言った。私たちは「地獄極楽」で、打ち上げをしていた。

「終わった」

「あたし……スッキリした」

「そうか」

「でも、ちょっとだけ寂しい」

「……寂しい?」

「だって、涼介のこと、本当に好きだったから」

ぴえんの目から、涙がこぼれた。

「好きだったのに、騙されてた。それが、悲しい」

私はぴえんの頭をぽんぽんと叩いた。

「泣いていい。今日だけは」

「……うん」

ぴえんが泣いた。声を上げて泣いた。

ゆめかわが、病み子が、姐さんが、黙ってそれを見守っていた。

これが、終わりの儀式だ。

泣いて、吐き出して、そして前に進む。

それが、私たちのやり方だ。

 

***

 

『葉隠』にはこうある。

「恥を知る者は強し」

——恥を知る者は、強い。

逆に言えば、恥をかかせれば、相手は弱くなる。

そして、弱くなれば——死ぬ。社会的に。

そういうことだと私は解釈している。

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