第二十五話:武士道(終章)
柊グループの崩壊から、一ヶ月が経った。
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【その後の柊グループ】
・柊誠一郎:詐欺・恐喝・組織犯罪処罰法違反で起訴。実刑は確実。
・幹部5人:全員逮捕。芋づる式に組織が壊滅。
・汚職警官:3人が懲戒免職。2人が逮捕。
・汚職政治家:1人が辞職。捜査継続中。
・被害者への補償:柊グループの資産を差し押さえ、分配が始まっている。
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歌舞伎町は、少しだけ変わった。
柊グループが消えて、街の空気が軽くなった気がする。
もちろん、まだクズ男はいる。詐欺師もいる。女を食い物にする奴もいる。
でも、前より少し、マシになった。
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「らむね」
姐さんが、私を呼んだ。
「来い。話がある」
私は、「地獄極楽」のカウンターに座った。
「何ですか」
「お前、これからどうする」
「これから……?」
「葉隠組、続けるのか」
私は、考えた。
柊グループは潰した。
でも、それで終わりじゃない。
歌舞伎町には、まだ戦うべき相手がいる。
「続けます」
「そうか」
「まだ、泣いてる女がいる。騙されてる女がいる。——助けを求める声がある限り、私は戦います」
姐さんが、笑った。
「いい答えだ」
姐さんが、グラスを差し出した。
中身は、ウーロン茶。
「乾杯だ」
「何にですか」
「お前の、武士道に」
私は、グラスを受け取った。
そして、姐さんと乾杯した。
***
翌日。
「地獄極楽」に、メンバー全員が集まった。
私、ぴえん、ゆめかわ、病み子、もこ。
そして、姐さん。
「今日、集まってもらったのは、一つ報告があるから」
私は、みんなの顔を見回した。
「葉隠組、正式に継続します」
「おおー!」
ぴえんが、拍手した。
「やったー! 葉隠組、永遠に!」
「永遠かどうかは分からないけど」
私は、笑った。
「でも、私たちがいる限り、歌舞伎町の女を守る。——それだけは、約束する」
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「それと、もう一つ」
私は、翔太を見た。
翔太は、部屋の隅に立っていた。
「翔太。お前、これからどうする」
「俺?」
「柊グループはなくなった。お前の居場所も、なくなった」
「……ああ」
「よかったら——」
私は、翔太に手を差し出した。
「葉隠組に、入らないか」
翔太が、目を見開いた。
「俺が……?」
「お前は、親父を裏切った。私たちに協力した。——もう、仲間だ」
「……」
「それに、男がいた方がいい場面もある。お前みたいなのが一人いると、助かる」
翔太が、私の顔を見つめた。
そして——笑った。
「……いいのか」
「いい。——ただし、調子に乗るなよ」
「乗らないよ」
翔太が、私の手を握った。
「よろしく、リーダー」
「よろしく、新入り」
***
窓の外、歌舞伎町のネオンが瞬いている。
ドン・キホーテの観覧車が、ゆっくり回っている。
私は、この街で生まれ変わった。
男に裏切られ、社会に見捨てられ、死にかけていた私が——
武士になった。
仲間を得て、居場所を見つけて、戦う理由を手に入れた。
***
「らむね」
ぴえんが、私の隣に来た。
「何」
「あたしね、らむねに会えてよかった」
「……急にどうした」
「だって、本当のことだもん」
ぴえんが、笑った。
泣いてない。最近、この子は本当に泣かなくなった。
「らむねがいなかったら、あたし、まだ泣いてた。男に騙されて、自分を責めて、死にたいって思ってた」
「……」
「でも今は、違う。——あたしは、武士だから」
「……そうだな」
「らむねのおかげだよ」
「私のおかげじゃない」
私は、ぴえんの頭をぽんぽんと叩いた。
「お前が、自分で強くなったんだ」
「……えへへ」
ぴえんが、私に抱きついてきた。
「らむね、大好き」
「知ってる」
***
夜が明けていく。
歌舞伎町に、朝日が差し込む。
私は、窓辺に立って、街を見下ろした。
ここが、私の戦場だ。
ここで、私は生きていく。
スマホが鳴った。
知らない番号からの着信。
「……もしもし」
「あの、姫咲らむねさんですか?」
若い女の声。泣いている。
「……そうですけど」
「あの、友達から聞いて……困ってる女の人を助けてくれるって……」
私は、微笑んだ。
また、新しい戦いが始まる。
でも、怖くない。
仲間がいるから。
「——何があったの。話を聞かせて」
***
『葉隠』にはこうある。
「武士道とは死ぬことと見つけたり」
——武士道とは、死ぬことだと見つけた。
私は、この言葉を自分なりに解釈した。
死ぬ覚悟があれば、何でもできる。
死ぬ覚悟があれば、誰でも救える。
死ぬ覚悟があれば、どんな敵も倒せる。
それが、私の武士道。
令和の、歌舞伎町の、地雷系メンヘラの——
私だけの、武士道だ。
***
歌舞伎町の朝。
ネオンは消え、陽の光が街を照らしている。
私は、仲間たちと一緒に、街に出た。
新しい一日が始まる。
新しい戦いが始まる。
でも、大丈夫。
私たちは、葉隠組だから。




