第二十四話:暴露(決壊)
「地獄極楽」に戻った時、全身が震えていた。
アドレナリンが切れて、恐怖が押し寄せてきた。
「らむね!」
ぴえんが、私に抱きついてきた。
「無事でよかった……! 心配したんだから……!」
「……ごめん」
「泣いてる!? らむねが泣いてる!」
「泣いてない」
泣いていた。
自分でも気づかないうちに、涙が流れていた。
「怖かったんだね……」
「……うん」
「でも、帰ってきた。——それが、一番大事だよ」
ぴえんが、私の頭を撫でた。
いつの間にか、立場が逆転している。
この子、本当に成長したな。
***
姐さんが、私の前に座った。
「データは?」
「ここに」
私は、USBメモリを渡した。
「全部入ってます。取引記録、振込先、脅迫の証拠——全部」
「よくやった」
姐さんが、USBメモリをパソコンに挿した。
画面に、ファイルの一覧が表示される。
「……これは、すごいな」
ゆめかわが、画面を覗き込んだ。
「政治家の名前もある。警察幹部も。——これが公開されたら、大騒ぎになるよ」
「公開する」
私は言った。
「今夜中に、全部公開する」
「どうやって?」
「SNS。マスコミ。——全部にばら撒く」
***
深夜2時。
準備が整った。
「これから、柊グループの犯罪記録を公開する」
私は、メンバーを見回した。
「公開したら、もう後戻りできない。柊は、本気で私たちを殺しに来るかもしれない」
「……」
「それでも、やるか」
全員が、頷いた。
ぴえんが、言った。
「やる。——あたしたち、武士だから」
ゆめかわが、言った。
「やる。——もう、逃げない」
病み子が、言った。
「やります。——ここが、私の居場所だから」
もこが、言った。
「やります。——信じた人を裏切る奴は、許せないから」
翔太が、言った。
「やる。——俺の復讐だ」
姐さんが、言った。
「やれ。——あたしが、ケツを持つ」
私は、深呼吸した。
そして——エンターキーを押した。
***
【拡散開始】
まず、Twitterに投稿した。
「【拡散希望】歌舞伎町の闇組織・柊グループの犯罪記録を公開します」
添付したのは、柊誠一郎の顔写真と、取引記録の一部。
続いて、他のSNSにも同時投稿。
さらに、複数のマスコミに匿名でデータを送信。
「新聞社5社、テレビ局3社に送った」
ゆめかわが報告した。
「あとは、勝手に広がる」
***
30分後。
Twitterが、爆発した。
「え、これマジ?」
「柊グループって聞いたことある」
「政治家の名前もあるじゃん」
「警察幹部も……?」
「これ、やばすぎない?」
1時間後。
トレンド1位になった。
「#柊グループ」
「#歌舞伎町の闘」
「#拡散希望」
ハッシュタグが、次々と生まれていく。
2時間後。
ニュースサイトが、記事を書き始めた。
「歌舞伎町の闇組織・柊グループの犯罪記録が流出 政治家・警察幹部の名前も」
3時間後。
テレビのニュース速報が流れた。
「警視庁は、柊グループの関係先を家宅捜索する方針を固めました」
***
「……やった」
私は、画面を見つめていた。
「やった……!」
ぴえんが叫んだ。
「柊、終わったよ! 終わった!」
「まだだ」
姐さんが言った。
「まだ、捕まってない。油断するな」
「でも、家宅捜索——」
「逃げるかもしれない。海外に飛ぶかもしれない。——決着がつくまで、気を抜くな」
私は、頷いた。
「分かってます。——でも、第一段階は成功した」
私は、窓の外を見た。
夜明けが近づいている。
歌舞伎町の空が、少しずつ明るくなっていく。
「あとは、警察に任せる」
「任せていいの?」
「汚職警官は、名前が出た。もう、かばえない。——まともな警察が、動くはずだ」
私は、深呼吸した。
長い夜だった。
でも、終わりが見えてきた。
***
翌日。午後3時。
ニュースが流れた。
「柊グループの代表・柊誠一郎容疑者を、詐欺および恐喝の疑いで逮捕しました」
画面には、手錠をかけられた柊誠一郎の姿が映っていた。
顔を伏せている。
あの鋭い目つきは、もう見えなかった。
「……逮捕された」
私は、呟いた。
「逮捕されたね」
翔太が、隣に立っていた。
「……後悔してる?」
「してない」
翔太が、テレビを見つめた。
「あの男は、俺の親父じゃない。——ただのクズだ」
「……」
「ありがとう、らむね」
「何が」
「俺に、復讐の機会をくれた」
翔太が、少し笑った。
「これで、俺の人生、やっと始められる」
***
『葉隠』にはこうある。
「悪を滅ぼすは武士の本懐なり」
——悪を滅ぼすことは、武士の本望である。
柊誠一郎は、逮捕された。
柊グループは、崩壊した。
私たちは、勝った。




