表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉隠メンヘラ〜武士道とは、推しと死ぬことと見つけたり〜  作者: 江戸川竜也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/25

第二十二話:潜入(本部)

決行日。

午後8時。新宿区、柊グループ本部ビル。

私と翔太は、ビルの裏口に立っていた。

「緊張してる?」

翔太が聞いた。

「してない」

嘘だ。心臓がバクバクしている。

「嘘つけ。手、震えてるぞ」

「……うるさい」

翔太が、少し笑った。

「大丈夫。俺がついてる」

「お前がついてるから不安なんだけど」

「ひでえ」

軽口を叩き合う。

でも、それで少し気が楽になった。

 

***

 

翔太が、裏口のドアを開けた。

「セキュリティは?」

「俺のカードで解除できる。まだ、アクセス権は剥奪されてない」

「親父、油断してるな」

「俺のこと、舐めてんだよ。『あいつに何ができる』って思ってる」

翔太の声に、怒りが滲んでいた。

「見返してやる」

「ああ。——行くぞ」

私たちは、ビルの中に入った。

 

***

 

廊下は、静かだった。

翔太の情報通り、下っ端は外に出されている。

「親父のオフィスは、5階だ」

「エレベーターは?」

「使わない。監視カメラがある。——階段で行く」

私たちは、非常階段を上り始めた。

足音を殺して、慎重に。

 

***

 

5階。

廊下の突き当たりに、大きな扉があった。

「あれが親父のオフィス」

「会議は?」

「隣の会議室でやってる。——今、真っ最中のはずだ」

翔太が、耳を澄ませた。

「……声が聞こえる。まだやってる」

「よし。今のうちに——」

「待て」

翔太が、私の腕を掴んだ。

「誰か来る」

 

***

 

足音が近づいてくる。

私たちは、物陰に隠れた。

男が一人、廊下を歩いてきた。

スーツ姿。40代くらい。

「あれは?」

「幹部の一人。山本だ」

山本が、会議室のドアを開けて入っていった。

「……セーフ」

「行くぞ。今しかない」

私たちは、柊誠一郎のオフィスに向かった。

 

***

 

オフィスのドアの前。

翔太が、カードキーをかざした。

ピッ。

緑のランプが点灯。

ドアが開いた。

「入れ」

私たちは、オフィスの中に滑り込んだ。

 

***

 

柊誠一郎のオフィスは、想像以上に広かった。

豪華な家具。絵画。観葉植物。

金持ちの趣味全開だ。

「パソコンはどこ」

「あそこ。デスクの上」

翔太が指さした先に、大きなデスクがあった。

その上に、ノートパソコンが置いてある。

私たちは、デスクに近づいた。

「ロックは?」

「かかってる。でも——」

翔太がパソコンを開いた。

指紋認証の画面が表示される。

「親父の指紋なんか持ってないぞ」

「大丈夫。裏口がある」

翔太が、キーボードを叩いた。

「親父、ITに弱いんだ。パスワード、全部同じやつ使ってる」

「マジで」

「マジ。——誕生日だよ」

翔太が、数字を入力した。

カチッ。

画面が開いた。

「入った……!」

「急げ。時間がない」

私は、USBメモリを取り出した。

翔太がフォルダを開いていく。

「これだ。『取引記録』」

「コピーして」

「やってる」

進捗バーが動き始めた。

10%……20%……30%……

遅い。

「あとどのくらい」

「5分くらい」

「長いな」

「データ量が多いんだ。我慢しろ」

40%……50%……60%……

 

***

 

その時——

廊下から、声が聞こえた。

「会議、終わったみたいだな」

「やばい」

翔太の顔が青ざめた。

「親父が戻ってくる」

70%……80%……

「まだ終わらないのか!」

「あと少し——」

足音が近づいてくる。

90%……95%……

「翔太、隠れろ」

「でも——」

「いいから!」

私は翔太を押して、デスクの下に隠れさせた。

そして、自分は——

隠れる場所がない。

98%……99%……

ドアノブが回る音。

100%。

コピー完了。

私はUSBメモリを抜き取り、ポケットにねじ込んだ。

そして——

ドアが開いた。

 

***

 

柊誠一郎が、オフィスに入ってきた。

そして——私を見た。

数秒間、沈黙。

「……誰だ、お前は」

低い声。冷たい目。

これが、柊誠一郎。

「……」

「どうやって入った。——いや、そんなことはどうでもいい」

柊誠一郎が、一歩近づいてきた。

「何をしていた」

私は、答えなかった。

答えられなかった。

体が、凍りついていた。

殺される。

本能が、そう告げていた。

「答えろ」

柊誠一郎の手が、私の首に伸びてきた。

——その時。

「親父」

翔太が、デスクの下から出てきた。

「翔太……?」

柊誠一郎の目が、見開かれた。

「お前、何をして——」

「俺が連れてきた」

翔太が、私の前に立った。

「この女を、ここに連れてきたのは俺だ」

 

***

 

『葉隠』にはこうある。

「窮鼠猫を噛む」

——追い詰められた鼠は、猫をも噛む。

私は今、追い詰められている。

でも——まだ、噛める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ