第二十一話:内通(翔太)
翔太との密会は、深夜の「地獄極楽」で行われた。
「ここが、お前たちのアジトか」
翔太が、店内を見回した。
「アジトって言うな。姐さんの店だ」
「姐さん?」
「私の恩人。——そして、葉隠組のバックアップ」
姐さんが、カウンターから出てきた。
「お前が柊の息子か」
「……元、息子です」
翔太が、苦笑いした。
「今は、ただの他人の子供ですから」
***
メンバー全員が集まっていた。
私、ぴえん、ゆめかわ、病み子、もこ。そして姐さん。
翔太は、全員の視線を受けながら、ソファに座った。
「で、何を話せばいい」
「柊グループの全部」
私は言った。
「組織の構造。資金源。弱点。——知ってること、全部吐け」
「……分かった」
翔太が、深呼吸した。
そして、話し始めた。
***
【柊グループの実態】(翔太の証言)
■組織構造
・トップ:柊誠一郎(通称「柊」)
・幹部:5人(それぞれが部門を統括)
・構成員:約50人
・協力者:警察、政治家、弁護士など
■主な収入源
・ロマンス詐欺(年間推定3億円)
・ホストクラブの売掛回収(年間推定2億円)
・風俗店への女性斡旋(年間推定5億円)
・不動産投資(表向きの合法ビジネス)
■拠点
・本部:新宿区内のビル(表向きは不動産会社)
・倉庫:江東区(会議・取引に使用)
・その他:歌舞伎町に複数の店舗
***
「年間10億……」
ぴえんが、呆然と呟いた。
「そんなに稼いでるの……」
「表に出てる数字だけだ。実際はもっとあるかもしれない」
翔太が言った。
「親父は、金の流れを徹底的に隠してる。俺でも、全部は把握してない」
「警察に通報しても、動かないの?」
もこが聞いた。
「動かない。——警察にも、金が流れてるから」
「そんな……」
「汚職警官が何人かいる。柊グループの情報を流したり、捜査を妨害したり。——だから、今まで一度も摘発されてない」
私は、腕を組んだ。
思った以上に、根が深い。
「じゃあ、どうやって潰す」
「方法は一つしかない」
翔太が、私を見た。
「親父の犯罪の証拠を、直接押さえる」
***
「証拠?」
「親父は、重要な取引の記録を全部残してる。誰にいくら渡したか、誰を脅したか、全部」
「なんでそんなもの残すの」
「保険だ。いざという時、道連れにするための」
翔太が、スマホを取り出した。
「その記録は、親父のパソコンに入ってる。——本部のオフィスに」
「本部……」
「警備は厳重だ。でも、俺なら入れる」
「お前が、盗み出すってこと?」
「そうだ」
翔太の目が、真剣だった。
「俺は、親父に裏切られた。28年間、息子だと思ってたのに、道具として使われてただけだった」
「……」
「だから、俺が裏切る番だ」
***
姐さんが、翔太を見つめていた。
「……本気か」
「本気です」
「失敗したら、殺されるぞ」
「分かってます」
「それでもやるのか」
「やります」
翔太が、立ち上がった。
「俺の人生は、全部嘘だった。親父に与えられた金も、地位も、全部まやかしだった」
「……」
「でも、これだけは本物だ。——俺の怒りは、本物だ」
翔太が、私を見た。
「らむね。お前たちに協力する。その代わり、一つだけ約束してくれ」
「何を」
「親父を、地獄に落としてくれ」
私は、翔太の手を握った。
「約束する。——武士に二言はない」
***
作戦会議が始まった。
「決行日は、三日後」
翔太が、ホワイトボードに書いた。
「毎月25日、親父は本部で経理の確認をする。その日は、幹部も全員呼ばれる」
「警備は?」
「本部にいるのは親父と幹部だけ。下っ端は外に出される」
「じゃあ、その隙に——」
「俺が、親父のオフィスに忍び込んで、データをコピーする」
「一人で?」
「一人じゃ無理だ。——誰か、一緒に来てくれ」
私は、メンバーを見回した。
ぴえんは、怯えた顔をしている。
ゆめかわは、考え込んでいる。
病み子は、無表情だ。
もこは、震えている。
「……私が行く」
私は言った。
「らむね!?」
ぴえんが叫んだ。
「危ないよ! もし見つかったら——」
「見つからない。翔太がいるから」
「でも——」
「リーダーが逃げたら、誰がついてくる」
私は、立ち上がった。
「私が行く。翔太と一緒に、柊の本部に潜入する」
***
姐さんが、私の肩に手を置いた。
「らむね」
「何ですか」
「……死ぬなよ」
「死にません」
「約束しろ」
「約束します。——まだ、やることがあるから」
姐さんが、少し笑った。
「いい顔になったな、お前」
「……そうですか?」
「ああ。最初に会った時とは、別人だ」
姐さんが、私の頭をぽんぽんと叩いた。
「行ってこい。——武士として」
***
『葉隠』にはこうある。
「死地に入りて生を得る」
——死地に飛び込んでこそ、生き延びることができる。
私は今、死地に向かおうとしている。
でも、怖くない。
仲間がいるから。
信じてくれる人がいるから。
それが、私の強さだ。




