第二十話:裏切(血縁)
翔太が、全てを話し始めた。
「俺さ、ずっと親父に認められたかったんだ」
ソファに座り、酒を飲みながら、翔太は語った。
「親父は厳しい人だった。俺が何をやっても、褒めてくれなかった」
「……」
「勉強頑張っても、『そんなの当たり前だ』。スポーツで結果出しても、『まだまだだ』。何やっても、認めてもらえなかった」
翔太がグラスを傾けた。
「だから、大学辞めて、親父の仕事手伝い始めた。認めてもらえると思って」
「仕事……」
「最初は、簡単な事務作業。そのうち、もっと深い仕事も任されるようになった」
翔太の目が、暗くなった。
「でも、今日分かった。親父は、最初から俺を認める気なんかなかったんだ」
「どういうことですか……?」
「会議で言われたんだ。『お前に継がせる気はない。お前は、俺の血を引いてない』って」
血を引いてない?
「どういう意味ですか……?」
「俺、親父の本当の子供じゃないらしい」
翔太が、自嘲的に笑った。
「母親の不倫相手の子供なんだって。親父はずっと知ってて、でも黙ってた」
「そんな……」
「28年間、俺は『柊家の跡取り』だと思って生きてきた。でも、全部嘘だった」
翔太の目から、涙がこぼれた。
「俺の人生、何だったんだよ……」
***
私は、翔太の隣に座った。
こいつを利用しようとしていた。
柊グループを潰すための、道具として。
でも今、目の前にいるのは——傷ついた、一人の男だ。
「翔太さん」
「……何」
「私、本当のこと言います」
翔太が、私を見た。
「私、あなたに近づいたの、目的があったから」
「……え?」
「あなたのお父さん——柊誠一郎を、潰すため」
翔太の顔が、凍りついた。
「……何、言って……」
「私の名前は、姫咲らむね。『葉隠組』っていうグループのリーダー」
「葉隠……組……?」
「あなたのお父さんが仕切ってる詐欺とか、ホストの売掛回収とか、風俗への斡旋とか——全部、私たちが潰してきた」
翔太が、立ち上がった。
「お前……俺を騙してたのか……」
「騙してた。ごめん」
「ふざけんな!」
翔太が、テーブルを蹴った。
グラスが倒れて、床に落ちた。
「俺は……お前のこと……!」
「分かってる。——でも、嘘はつきたくなかった」
「今さら本当のこと言って、何になるんだよ!」
「分からない。でも——」
私は、翔太の目を見た。
「あなたも、お父さんに裏切られたんでしょ」
翔太が、言葉を詰まらせた。
「私も、男に裏切られた。だから、復讐を始めた。——あなたと、同じだ」
「……」
「私たちは、敵同士かもしれない。でも——裏切られた痛みは、同じだ」
***
沈黙が流れた。
翔太が、ゆっくりとソファに座り直した。
「……何が目的だ」
「柊グループを潰すこと」
「親父を……潰す?」
「そう。あなたのお父さんは、たくさんの女を傷つけてきた。借金漬けにして、風俗に沈めて、使い捨てにしてきた」
「……」
「私の仲間にも、被害者がいる。——だから、許せない」
翔太が、頭を抱えた。
「俺に……どうしろって言うんだ」
「協力してほしい」
「協力……?」
「あなたは、柊グループの内部を知ってる。情報があれば、潰せる」
「親父を売れってことか」
「そう」
翔太が、私を睨んだ。
「……ふざけんな。いくら何でも、それは——」
「できない?」
「当たり前だろ。俺は——」
「あなたは、28年間騙されてた。息子だと思われてなかった。跡取りにする気もなかった。——それでも、守る価値ある?」
翔太が、黙った。
「あなたのお父さんは、あなたを道具としか思ってない。金だけ与えて、飼い殺しにしてた。——違う?」
「……」
「私は、あなたを利用しようとした。それは認める。——でも、あなたのお父さんも、同じことをしてた」
翔太の目から、また涙がこぼれた。
「……何で、こんなことに……」
「考えて。今すぐ答えは出なくていい」
私は、立ち上がった。
「私の連絡先、知ってるでしょ。——決まったら、連絡して」
***
マンションを出た。
夜の港区。高層ビルが立ち並んでいる。
私は、空を見上げた。
賭けだ。
翔太が協力してくれるか、分からない。
逆に、親父にチクられるかもしれない。
でも——やるしかない。
正面から組織と戦っても、勝てない。
内側から崩すしかない。
そのためには、翔太が必要だ。
***
三日後。
翔太から、LINEが来た。
「話がしたい。——協力する」
私は、スマホを握りしめた。
勝負の時が、近づいている。
***
『葉隠』にはこうある。
「血は水よりも濃し、されど恩義はさらに濃し」
——血の繋がりは強い。でも、恩義はもっと強い。
翔太と柊誠一郎には、血の繋がりがなかった。
だから——切れる。




