第十七話:接近(御曹司)
柊翔太。28歳。柊グループの御曹司。
インスタのプロフィールには「投資家/実業家」と書いてある。
嘘つけ。親の金で遊んでるだけだろ。
「この男に、どうやって近づく?」
私は「地獄極楽」で、作戦会議を開いていた。
「インスタのDM送る?」
ぴえんが言った。
「それだと怪しまれる。向こうは毎日、女からDM来てるだろうし」
「じゃあ、どうすれば……」
「直接会う」
もこが、静かに言った。
「え?」
「この人、毎週金曜日に同じ店に行ってます」
「なんで分かるの?」
「インスタのストーリー、全部見ました。位置情報と背景から、特定しました」
私は、もこを見た。
こいつ、成長してる。
「どこの店?」
「六本木のクラブです。『VANITY』っていう」
「六本木か……」
「行きますか?」
私は考えた。
六本木のクラブ。高級店だ。ドレスコードもある。私たちが普通に行っても、場違いになる。
でも——
「行く。——潜入する」
***
金曜日。六本木。
私ともこは、クラブ「VANITY」の前に立っていた。
今日の服装は、いつもの地雷系じゃない。姐さんに借りた、高そうなワンピース。メイクも、ゆめかわにやってもらった。
「らむねさん、緊張してます?」
「してない」
嘘だ。心臓がバクバクしている。
「大丈夫ですよ。私がついてます」
「お前がいると、逆に不安なんだけど」
「ひどい……」
もこが泣きそうな顔をした。
冗談だよ。
***
店内に入った。
暗い照明。大音量の音楽。キラキラした人たち。
六本木のクラブは、歌舞伎町とは違う空気だ。金持ちの匂いがする。
「いた」
もこが囁いた。
VIP席に、柊翔太がいた。
周りには、女が5人くらい。全員、モデルみたいな美人だ。
翔太は、シャンパンを片手に、上機嫌で笑っている。
典型的なボンボンだ。
「どうやって近づきますか?」
「待て。様子を見る」
私たちは、カウンターに座って、翔太を観察した。
***
30分後。
チャンスが来た。
翔太が、一人でトイレに向かった。
「行く」
私は立ち上がり、翔太の後を追った。
トイレの前の廊下で、わざとぶつかった。
「あっ——」
「おっと、ごめん」
翔太が、私を見た。
「大丈夫?」
「はい、すみません、私がよそ見してて……」
「いいよいいよ。——ってか、君、可愛いね」
来た。
「え、そんな……」
「マジで。俺好みだわ」
翔太が、ニヤニヤ笑った。
「一人? よかったら、俺のとこ来ない?」
「え、でも、お連れの方が……」
「いいのいいの。あいつら、ただの飾りだから」
最低だな。
でも、好都合だ。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「よっしゃ。こっちこっち」
翔太に手を引かれて、VIP席に向かった。
潜入、成功。
***
VIP席で、翔太と話した。
「俺、翔太。投資家やってんの」
「すごいですね……」
「まあね。若くして成功しちゃったから」
親の金だろ。
「お名前は?」
「……さくら、です」
また偽名だ。潜入の時は、いつもこれを使う。
「さくらちゃんか。可愛い名前。——で、何やってんの?」
「えっと、普通のOLです……」
「OLか。大変だよね、毎日働いて」
「はい……」
「俺なんか、週3しか働いてないけど、月収500万あるからね」
絶対嘘だろ。
「すごい……どうやったら、そんなに稼げるんですか?」
「投資だよ、投資。金が金を生むの」
「投資……私には難しそう……」
「大丈夫大丈夫。俺が教えてあげるよ」
翔太が、私の手を握った。
「今度、二人で会わない? もっと詳しく教えてあげる」
かかった。
「え、いいんですか……?」
「いいよ。俺、さくらちゃんのこと気に入ったから」
「じゃあ、ぜひ……」
「よし。LINE交換しよ」
翔太がスマホを取り出した。
私は、偽名で作った捨てアカウントのQRコードを見せた。
「『さくら』ね。登録したよ」
「ありがとうございます……」
「じゃあ、また連絡する。——楽しみにしてて」
翔太が、ウィンクした。
気持ち悪い。
でも、第一段階はクリアだ。
***
店を出た後、もこと合流した。
「どうでした?」
「LINE交換した。次のアポも取れそう」
「さすがです……!」
「これからが本番だ。翔太から情報を引き出す」
「どうやって?」
「色仕掛け——は無理だから、別の方法を考える」
「別の方法?」
「翔太は自己顕示欲が強い。自慢話が好き。——だから、褒めて、持ち上げて、喋らせる」
「なるほど……」
「男は単純だ。気持ちよくさせれば、何でも喋る」
私はスマホを見た。
翔太からのLINE。
「今日は楽しかった!また会おうね(笑顔)」
馬鹿が。
お前は今、地雷を踏んだんだよ。
***
『葉隠』にはこうある。
「敵の懐に入るべし」
——敵の懐に入れ。
外から攻めても、城は落ちない。
内側から、崩す。
それが、忍びの道だ。




