表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉隠メンヘラ〜武士道とは、推しと死ぬことと見つけたり〜  作者: 江戸川竜也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/25

第十五話:予兆(新章)

平和な日々は、また長くは続かなかった。

日曜日の夜。

私のスマホに、一本の電話がかかってきた。

「……もしもし」

「姫咲らむね、だな」

男の声だった。

低い。冷たい。——聞いたことのない声。

「……誰」

「名乗る必要はない。用件だけ伝える」

「……」

「お前たち、調子に乗りすぎだ」

私の背筋が、凍った。

「健太を潰した。涼介を潰した。斎藤を潰した。——やりすぎだ」

「……何が言いたい」

「警告だ。これ以上続けるなら、こっちも動く」

「こっちって、誰」

「知らなくていい。——お前たちの敵だ、とだけ言っておく」

電話が切れた。

 

***

 

私は、スマホを握りしめていた。

手が震えていた。

脅迫だ。

誰かが、私たちの活動を快く思っていない。

健太、涼介、斎藤——私たちが潰した男たち。その後ろに、誰かがいる?

それとも、歌舞伎町で暗躍している別の組織?

分からない。

でも、一つだけ分かることがある。

私たちは、目をつけられた。

 

***

 

「地獄極楽」に、緊急招集をかけた。

深夜1時。全員が集まった。

「電話の内容は、今話した通りだ」

私は、メンバーを見回した。

「誰かが、私たちに警告してきた。『これ以上続けるなら、動く』と」

「動くって……何をするつもりなの……」

ぴえんが、怯えた声で聞いた。

「分からない。でも、ただの脅しじゃない気がする」

「なんで?」

「声のトーン。本気だった。——あれは、実行する奴の声だ」

姐さんが、腕を組んだ。

「心当たり、あるか」

「ないです。健太も涼介も斎藤も、個人犯だった。組織のバックは見えなかった」

「じゃあ、別の線か」

「たぶん。——姐さん、何か知ってますか?」

姐さんが、少し考えた。

「……一つ、思い当たることがある」

「何ですか」

「歌舞伎町には、裏の顔役がいる」

「裏の顔役……?」

「表向きは合法的なビジネスをしてる。でも、裏では——」

姐さんが、声を落とした。

「ロマンス詐欺、ホストの売掛回収、風俗への斡旋。——全部、仕切ってる奴がいる」

「全部……?」

「そう。歌舞伎町で男が女を食い物にするビジネス、全部の元締めだ」

私は、息を呑んだ。

「そんな奴がいるんですか」

「いる。——柊グループっていう」

 

***

 

【柊グループ】

姐さんが知っている情報を、すべて話してくれた。

・歌舞伎町を拠点とする半グレ組織

・表向きは不動産、飲食、人材派遣

・裏では、詐欺、恐喝、風俗斡旋など

・トップは「柊」と呼ばれる男。本名不明。

・警察にも手が回っていて、なかなか摘発されない

「健太も、涼介も、斎藤も——」

姐さんが言った。

「もしかしたら、柊グループと繋がってたのかもしれない」

「繋がってた……?」

「詐欺で稼いだ金の一部を上納してた、とか。指示を受けてやってた、とか」

「そんな……」

「だとしたら、お前たちがやったことは——」

姐さんの目が、鋭くなった。

「柊グループのビジネスを邪魔したことになる」

 

***

 

沈黙が流れた。

メンバー全員が、言葉を失っていた。

ぴえんが、泣き出しそうな顔をしている。

ゆめかわが、珍しく真剣な表情をしている。

病み子が、マスクの下で何かを呟いている。

もこが、震えている。

「……らむね」

姐さんが言った。

「ここで止めるか?」

「……」

「止めるなら、今だ。これ以上深入りしたら、引き返せなくなる」

私は、考えた。

止める?

ここで止めて、普通の生活に戻る?

——できるわけがない。

「止めません」

私は言った。

「え……らむね……」

ぴえんが、私を見た。

「止めない。——逃げたら、武士じゃない」

「でも……危ないよ……」

「危ないから、何だ」

私は立ち上がった。

「今まで、何度も危ない目に遭った。健太にナイフを向けられた。警察に事情聴取された。それでも、私は戦い続けた」

「……」

「なんでか分かる?」

「……分かんない」

「逃げたら、今まで救った人たちに顔向けできないから」

私は、メンバーを見回した。

「もこ。お前を救った。斎藤を潰した。——それを、なかったことにできるか?」

「……できない、です」

「ぴえん。お前を救った。涼介を潰した。——逃げていいのか?」

「……逃げたく、ない」

「ゆめかわ。病み子。お前たちも、戦う理由があるだろ」

「……ある」

「あります」

「なら——」

私は、拳を握った。

「戦おう。最後まで」

 

***

 

姐さんが、笑った。

「……いい目だ、らむね」

「姐さん」

「お前、本物の武士になったな」

「……どうですか」

「ああ。認めてやる。——お前は、歌舞伎町の侍だ」

姐さんが、グラスを持ち上げた。

「いいだろう。あたしも付き合ってやる。——柊グループ、潰すぞ」

「姐さん……!」

「あたしも昔、あいつらに女を取られた。借金漬けにされて、風俗に沈められた女を、何人も見てきた」

姐さんの目に、暗い炎が燃えていた。

「そろそろ、落とし前をつける時だ」

 

***

 

その夜、私たちは誓いを立てた。

「柊グループを潰す。歌舞伎町から、クズ男を駆逐する。——そのために、命を懸ける」

全員が、頷いた。

新しい戦いが、始まる。

今までとは、スケールが違う。相手は個人じゃない。組織だ。

でも、怖くはなかった。

仲間がいるから。

私は、窓の外を見た。

歌舞伎町の夜景が、広がっている。

ネオンが瞬いている。

この街には、まだ泣いている女がたくさんいる。

救わなければならない。

それが、私の——私たちの武士道だ。

 

***

 

『葉隠』にはこうある。

「大敵を前にして怯むなかれ。武士の本懐は、戦いにあり」

——大きな敵を前にして、怯えるな。武士の本当の喜びは、戦いにある。

これは……たぶん、本当に葉隠に書いてある。たぶん。

まあ、いい。

戦いは、これからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ