第十四話:休息(日常)
戦いの後には、休息が必要だ。
詐欺師・斎藤を倒してから一週間。私たちは、久しぶりの平和な日々を過ごしていた。
***
火曜日。
ぴえんと一緒に、新大久保に行った。
「らむねらむね! このパック、めっちゃいいらしいよ!」
「……1200円もするじゃん」
「投資だよ、投資! 自分への!」
「その投資、リターンあんの?」
「あるある! 肌がもちもちになる!」
「もちもちになってどうすんの」
「えっと……モテる?」
「お前、男に懲りてないの?」
「懲りてるけど、懲りてない!」
意味が分からない。
でも、ぴえんと一緒にいると、なんか楽しい。
結局、パックを2枚買った。1枚はぴえんに奢られた。
「らむね、いつもありがとね」
「……何が」
「いろいろ。一緒にいてくれて」
「……別に」
「えへへ」
ぴえんが笑った。
最近、この子はよく笑う。泣く回数より、笑う回数の方が多くなった。
成長、なのかもしれない。
***
水曜日。
ゆめかわと、カフェでお茶をした。
「らむね、聞いて聞いて」
「何」
「私、新しい趣味見つけたの」
「何。また男のSNS特定?」
「違うよ。——観葉植物」
「は?」
「観葉植物。育ててるの。サンスベリア」
「……お前が?」
「そう。毎日水あげて、話しかけて」
「話しかけて?」
「『今日も元気だね〜』とか『大きくなったね〜』とか」
「……」
「何。変?」
「いや……意外すぎて」
ゆめかわが、スマホで写真を見せてきた。
窓際に置かれた、緑の植物。確かにサンスベリアだ。
「名前、つけたの。『さんちゃん』って」
「……」
「可愛いでしょ」
「……まあ、いいんじゃない」
「らむねも育てなよ。癒されるよ」
「私は……いいや」
観葉植物に話しかけるゆめかわ。
想像したら、ちょっと怖かった。
***
木曜日。
病み子のライブを見に行った。
場所は、新宿の小さなライブハウス。キャパ30人。客は——
5人だった。
いや、増えてる。前は3人だったはず。
「みんなー、今日は来てくれてありがとー」
病み子がステージで歌い始めた。
暗い曲だった。歌詞は「消えたい」「つらい」「でも生きてる」みたいな内容。
でも、不思議と心に響いた。
隣のぴえんが、泣いていた。
「病み子ちゃん……すごい……」
「……泣くほどか?」
「泣くよ……だって、分かるもん……この気持ち……」
ライブが終わった後、病み子が私たちのところに来た。
「……来てくれて、ありがとう」
「よかったよ。——ファン、増えたな」
「……うん。2人増えた」
「すごいじゃん」
「……らむねのおかげ」
「私?」
「葉隠組のこと、歌にしたら……響いたみたい」
病み子が、少し笑った。
「……私、居場所ができた」
「……そうか」
「ありがとう、らむね」
居場所。
私にも、できたのかもしれない。
***
金曜日。
もこの訓練をした。
「いい? これがスクショの基本」
「はい!」
「まず、証拠になりそうな画面を見つけたら、迷わず撮る」
「迷わず!」
「日付と時間が分かるように、上のバーも入れる」
「上のバー!」
「で、撮ったらすぐクラウドにバックアップ」
「クラウドにバックアップ!」
もこが、真剣にメモを取っている。
素直な子だ。
「次、魚拓の取り方」
「魚拓!」
「ウェブページは、いつ消されるか分からない。だから——」
「保存する!」
「そう。Wayback Machineか、archive.todayを使う」
「うぇいばっくましーん……あーかいぶとぅでい……」
「覚えた?」
「覚えました! たぶん!」
たぶん、が不安だ。
でも、まあいい。繰り返せば覚える。
「もこ」
「はい!」
「お前、向いてるかも」
「え? 本当ですか!?」
「ピュアだから、警戒されにくい。潜入向きだ」
「潜入……! かっこいい……!」
もこの目が、キラキラ輝いた。
こいつ、絶対に騙されやすいタイプだな。
でも、それが武器になることもある。
***
土曜日。
姐さんの店で、みんなで食事をした。
「おう、全員揃ったな」
姐さんが、料理を運んできた。
焼きそば、唐揚げ、枝豆、ポテトサラダ。
「姐さん、料理上手いですね」
「まあな。昔、スナックじゃなくて居酒屋やろうかと思ったこともある」
「へー」
「でも、居酒屋は酔っ払いの相手がめんどくさいからやめた」
「スナックも酔っ払い来るでしょ」
「スナックの酔っ払いは、まだ可愛い。居酒屋のは、本気でうざい」
何が違うんだ。
みんなで、ご飯を食べた。
ぴえんが「おいしー!」と叫び、ゆめかわが「さんちゃん元気かな」と呟き、病み子が黙々と食べ、もこが「幸せです……」と涙ぐんだ。
カオスだ。
でも、心地いいカオスだった。
「らむね」
姐さんが、私の隣に座った。
「楽しそうだな」
「……そうですか?」
「ああ。お前、笑ってるぞ」
「……」
私は、自分の顔に手を当てた。
確かに、口角が上がっていた。
「笑っていいんだよ」
姐さんが言った。
「お前は、もう十分戦った。——たまには、笑え」
「……はい」
私は、笑った。
久しぶりに、心の底から。
***
『葉隠』にはこうある。
「武士もまた人なり。食い、眠り、笑うべし」
——武士もまた人間だ。食べて、眠って、笑うべきだ。
これも、私が作った。
でも、真実だと思う。
戦うためには、休まなければならない。
だから今日は、休む。
明日からまた、戦うために。




