第十三話:炎上(斎藤)
斎藤雄大の人生が、音を立てて崩れていった。
***
【炎上から24時間後】
・Twitterのトレンド1位を12時間キープ
・ニュースサイト15社が記事を掲載
・テレビのワイドショーで取り上げられる
・斎藤の実家の住所が特定される
・斎藤の親の勤務先が特定される
・近所の人が「あの家の息子は昔から……」とインタビューに答える
***
「やりすぎじゃない……?」
もこが、不安そうに言った。
「親御さんとか、関係ないのに……」
「関係なくない」
私は答えた。
「親は、あいつを育てた。あいつがクズになったのは、親にも責任がある」
「でも……」
「それに、私たちがやったのは事実を公開しただけ。あとは勝手に燃えてる」
「勝手に……」
「インターネットは、そういう場所だ。火をつけたら、あとは風向き次第で広がる」
私はスマホを見た。
斎藤雄大の名前で検索すると、罵詈雑言の嵐だった。
「死ね」
「クズ」
「消えろ」
「刑務所行け」
自業自得だ。
***
【炎上から48時間後】
警察が動いた。
被害者5人が揃って被害届を提出。これだけ世間の注目を集めれば、警察も無視できない。
「斎藤雄大容疑者を、詐欺の疑いで逮捕しました」
ニュースで、そう報じられた。
もこから、LINEが来た。
「らむねさん……逮捕されました……」
「見た」
「私……まだ信じられないです……」
「信じなくていい。事実だけ見ろ」
「事実……」
「あいつは逮捕された。お前は勝った。——それだけだ」
しばらく、返信がなかった。
そして——
「ありがとうございます。本当に」
「礼はいらない」
「でも、言わせてください。らむねさんは、私のヒーローです」
ヒーロー、か。
似合わない言葉だ。
私は、ただの地雷系メンヘラだ。元カレに裏切られて、武士道に目覚めた、ただの無職だ。
でも——
悪くない気分だった。
***
【炎上から一週間後】
斎藤雄大の裁判が決まった。
今度は執行猶予なしの実刑になるだろう、と弁護士が言っていた。三回目だから、情状酌量の余地がない。
被害者たちには、返金の可能性も出てきた。斎藤の資産を差し押さえて、分配するらしい。全額は無理でも、いくらかは戻ってくる。
「よかったですね」
病み子が言った。
「……ああ」
「らむねさん、嬉しくないんですか」
「嬉しいよ。ただ——」
「ただ?」
「こういう奴は、また出てくる」
「……」
「斎藤を潰しても、第二の斎藤、第三の斎藤が現れる。騙す奴がいる限り、騙される人は減らない」
私は窓の外を見た。
歌舞伎町のネオンが、今日も瞬いている。
「だから、私たちがいる」
「……らむねさん」
「騙す奴が現れたら、潰す。何度でも。それが、葉隠組だ」
***
その夜。
「地獄極楽」で、打ち上げが行われた。
メンバー全員が集まっていた。私、ぴえん、ゆめかわ、病み子、姐さん。そして、もこ。
「かんぱーい!」
ぴえんが叫んだ。
「斎藤、ざまあみろー!」
「ぴえん、声でかい」
「だって嬉しいんだもん! また勝ったんだもん!」
ぴえんが私に抱きついてきた。
「らむね、最高! 大好き!」
「……ありがと」
「えへへ」
ぴえんは、すっかり泣かなくなった。
いや、まだ泣くけど。でも、前より強くなった気がする。
「らむね」
姐さんが声をかけてきた。
「今回の件、よくやった」
「……ありがとうございます」
「お前、成長したな」
「そうですか?」
「最初に会った時は、死にそうな顔してた。でも今は——」
姐さんが、私の顔を見た。
「生きてる顔してる」
「……」
「それでいい。生きろ、らむね。——お前は、まだ死んじゃダメだ」
私は、姐さんの目を見た。
「はい。——まだ、戦いますから」
***
もこが、私のところに来た。
「らむねさん」
「なに」
「私、決めました」
「何を」
「葉隠組に、入りたいです」
私は、もこを見た。
「お前、ピュアすぎるだろ。向いてないよ」
「向いてなくても、いいです」
「なんで」
「だって——」
もこが、真っ直ぐ私を見た。
「私みたいに騙される人を、もう出したくないから」
「……」
「私は、人を信じすぎる。それは変わらないと思います。でも、だからこそ——」
もこが、拳を握った。
「信じた人を裏切る奴は、許せない」
私は、少し笑った。
「……いいセリフだな」
「本心です」
「分かった。——じゃあ、入れてやる」
もこの目が、キラキラ輝いた。
「本当ですか!?」
「本当。——ただし、訓練が必要だ」
「訓練……?」
「スクショの取り方。魚拓の残し方。SNS特定の基本。——全部、叩き込む」
「はい! 頑張ります!」
もこが、敬礼した。
天使が、武士になろうとしている。
世も末だ。
でも、悪くない。
***
『葉隠』にはこうある。
「仲間は宝なり」
——仲間は、宝である。
これも、私が作った言葉だ。
でも、葉隠に書いてあってもおかしくない。
仲間がいれば、何でもできる。
それが、私が武士道から学んだことだ。




