第十二話:包囲(証拠)
証拠が、続々と集まってきた。
「これ、私がユウト……じゃなくて、斎藤に振り込んだ記録です」
被害者Aが、通帳のコピーを持ってきた。
「これ、斎藤からのLINE。『必ず返すから』って書いてあります」
被害者Bが、スクショの束を差し出した。
「これ、デートの時に撮った写真。顔、はっきり映ってます」
被害者Cが、スマホを見せた。
「これ、斎藤が使ってた偽名のリスト。私の時は『ケンタ』でした」
被害者Dが、メモを読み上げた。
私はホワイトボードに、全てを書き出していった。
***
【斎藤雄大・犯罪の全貌】
■使用した偽名
・ユウト(もこの時)
・ケンタ(Dさんの時)
・リョウ(Aさんの時)
・タクミ(Bさんの時)
・ソウタ(Cさんの時)
■騙し取った金額
・合計550万円以上
■手口
・マッチングアプリで接近
・「IT企業勤務」「年収800万」と詐称
・3ヶ月で信頼を築き、金を要求
・限界まで搾り取って消える
■前科
・詐欺罪で2回逮捕(いずれも執行猶予)
***
「これだけ揃えば、十分だ」
私は言った。
「あとは、タイミングを決めるだけ」
「タイミング……?」
もこが聞いた。
「いつ、どうやって公開するか。それを間違えると、効果が薄くなる」
「どういうこと?」
「例えば、平日の夜に投稿しても、あまり拡散されない。でも、週末の昼間なら——」
「みんな、スマホ見てる……」
「そう。バズらせるには、タイミングが命」
ゆめかわが口を挟んだ。
「あと、ハッシュタグも重要だよ。『#詐欺師に注意』『#ロマンス詐欺』『#拡散希望』——この辺を付ければ、検索に引っかかりやすくなる」
「さすがゆめかわ」
「ふふ。伊達に前科ついてないよ❤️」
それは自慢にならない。
***
決行日は、土曜日の昼12時。
場所は、全員バラバラ。自宅から、同時に投稿する。
「合図は、私が『GO』ってLINEを送る。それを見たら、全員一斉に投稿」
「分かりました」
「内容は、事前に確認したやつをコピペするだけ。絶対に、アドリブで余計なことを書かないで」
「はい」
「投稿したら、お互いのをリツイート。いいね。拡散しまくる」
「了解です」
私は被害者たちを見回した。
「いい? これは戦争だ。一発で仕留める」
全員が頷いた。
準備は整った。
***
土曜日。昼12時。
私はスマホを握りしめていた。
心臓がバクバクしている。
これから、一人の男の人生を終わらせる。社会的に。
躊躇はない。
あいつは、五人の女から金を騙し取った。信じていた人を裏切った。何度捕まっても、同じことを繰り返した。
許される理由がない。
時計を見る。
11:59。
あと1分。
私は、LINEのグループを開いた。
グループ名は「被害者の会」。
12:00——
「GO」
送信した。
***
Twitterが動き出した。
「【拡散希望】結婚詐欺師・斎藤雄大にご注意ください」
もこの投稿が、最初に上がった。
添付されているのは、斎藤の顔写真。デートの時に撮ったやつ。はっきりと顔が映っている。
続いて、被害者A、B、C、Dの投稿。
全員が、同じ男に騙されたことを告白している。
「私も被害者です」
「私も騙されました」
「同じ人です。名前を変えて、何人も騙してます」
五人の声が、一斉に上がった。
***
30分後。
もこの投稿が、1000リツイートを超えた。
「うわ、これマジ?」
「こいつ最低じゃん」
「私の友達も似たような被害に……」
「通報した方がいい」
「警察動けよ」
コメント欄が、怒りで埋まっていく。
1時間後。
5000リツイートを超えた。
ニュースサイトが、記事を書き始めた。
「マッチングアプリで連続詐欺か 被害者5人が告発」
2時間後。
トレンド入りした。
「#斎藤雄大」がTwitterのトレンド1位に。
3時間後。
テレビ局から、取材の依頼が来た。
***
「……バズった」
私は、スマホの画面を見つめていた。
「バズったね」
ゆめかわが、隣で笑っている。
「これ、もう逃げられないよ。顔も名前も、全国に知れ渡った」
「……ああ」
「斎藤雄大、終わったね」
「……終わった」
私は、深呼吸した。
勝った。
また、勝った。
でも——
「らむねさん」
もこが、私に近づいてきた。
「ありがとうございます……本当に……」
もこの目から、涙がこぼれていた。
「私、ずっと自分を責めてたんです。騙された私が悪いんだって。バカだったんだって」
「……」
「でも、違ったんですね。悪いのは、あの人だったんですね」
「当たり前だ」
私は、もこの頭をぽんぽんと叩いた。
「お前は何も悪くない。信じることは、罪じゃない」
もこが、泣き崩れた。
声を上げて、泣いた。
これでいい。
泣いて、吐き出して、そして前に進む。
それが、終わりの儀式だ。
***
『葉隠』にはこうある。
「一人の力は小なり、されど束ねれば山をも動かす」
——一人の力は小さい。でも、束ねれば山をも動かせる。
これは葉隠の言葉じゃない。私が今、作った。
でも、真実だ。




