第十一話:追跡(詐欺師)
詐欺師・斎藤雄大の情報が、次々と集まっていった。
「こいつ、常習犯だね」
ゆめかわがノートパソコンの画面を見せてきた。
「過去2年間で、少なくとも5人の女から金を騙し取ってる」
「5人……」
「分かってるだけで、ね。実際はもっといるかも」
私はホワイトボードに、被害者リストを書き出した。
【斎藤雄大の被害者(判明分)】
・Aさん(23歳)→ 80万
・Bさん(26歳)→ 120万
・Cさん(21歳)→ 50万
・Dさん(28歳)→ 200万
・天使もこ(20歳)→ 100万
「合計550万……」
ぴえんが呟いた。
「こいつ、550万も騙し取ってるの……?」
「そう。しかも、これは氷山の一角」
私はスマホを取り出した。
「こいつの手口、調べた。毎回同じパターンだ」
***
【斎藤雄大の手口】
①マッチングアプリで女を物色
②「IT企業勤務」「年収800万」などと嘘のプロフィール
③3ヶ月ほど交際して信頼を築く
④「起業したい」「投資で増やせる」などと言って金を要求
⑤限界まで搾り取ったら、連絡を絶って消える
⑥別のアプリで、別の名前で、また同じことを繰り返す
***
「典型的なロマンス詐欺だ」
姐さんが言った。
「こういう奴は、捕まっても反省しない。出所したらまた同じことをやる」
「だから二回も捕まってるのに、まだやってるんですね」
「そういうことだ。——で、らむね。どうする」
私は考えた。
警察に通報する? でも、もこが被害届を出しても、立件されるかどうか分からない。詐欺の立証は難しい。「貸した」のか「騙し取られた」のか、線引きが曖昧だからだ。
民事で訴える? 弁護士費用がかかる。しかも、相手に金がなければ、勝っても取り返せない。
じゃあ、どうする?
答えは一つだ。
「社会的に殺す」
「また、それ?」
ぴえんが聞いた。
「また、それだ。でも今回は、ちょっとスケールが違う」
私はホワイトボードに、大きく書いた。
「被害者の会」
「被害者の会……?」
「こいつに騙された女、全員集める。そして、全員で声を上げる」
「声を上げるって……」
「SNSで拡散する。マスコミにタレコミする。こいつの顔と名前を、日本中に知らしめる」
私はメンバーを見回した。
「一人の声は小さい。でも、五人、十人の声が揃えば、無視できなくなる」
姐さんが、ニヤリと笑った。
「いいね。——それ、やろう」
***
被害者を探すのは、意外と簡単だった。
ゆめかわが、斎藤雄大の過去のSNSを徹底的に洗った。フォロワー、いいね、コメント。そこから、交際していたと思われる女性を特定していく。
「この子、たぶんそう」
「この子も、匂う」
「あ、この子は違うな。友達っぽい」
病み子のファン(3人)も動員した。彼らは、尾行と張り込みのプロだった。
「推しのためなら、何でもやります」
病み子のファン代表・田中(32歳・会社員)が言った。目が据わっている。
怖い。でも、頼もしい。
***
一週間後。
私たちは、被害者4人とのコンタクトに成功した。
全員、斎藤雄大に騙されていた。全員、泣き寝入りしていた。
「誰にも言えなかったんです……恥ずかしくて……」
「警察に相談したけど、証拠が足りないって……」
「もう諦めてました……」
でも、私たちが声をかけたことで、彼女たちの目に光が戻った。
「私だけじゃなかったんですね」
「他にも被害者がいたんですね」
「一緒に戦えるんですか……?」
「戦える」
私は言った。
「私たちと一緒に、あいつを地獄に落とそう」
***
被害者の会が結成された。
メンバーは、もこを含めて5人。被害総額は550万円。
「まず、全員の証拠を集める」
私は指示を出した。
「LINEのスクショ、振込の記録、デートの写真——何でもいい。あいつとの繋がりを証明できるもの、全部持ってきて」
「分かりました」
「それから、証言をまとめる。いつ、どこで、何を言われたか。どうやって騙されたか。全部、文章にして」
「はい」
「揃ったら、動く。——一斉に」
被害者たちが頷いた。
全員の目に、復讐の炎が燃えていた。
いい目だ。
***
その夜。
私は「地獄極楽」で、一人で酒を——ウーロン茶を飲んでいた。
「らむね」
姐さんが声をかけてきた。
「今回の件、本気だな」
「……本気です」
「なんで、そこまでやる」
「なんで……」
私は考えた。
もこのため? 被害者たちのため?
違う。
自分のためだ。
「私も、騙されたから」
「……健太か」
「はい。私も、信じてた人に裏切られた。だから——」
私はグラスを置いた。
「同じ思いをしてる人を、見捨てられない」
姐さんが、私の頭をぽんぽんと叩いた。
「お前、成長したな」
「……そうですか?」
「昔のお前は、自分のことで精一杯だった。でも今は、他人のために戦ってる」
「……」
「それが武士ってやつか?」
私は、少し笑った。
「かもしれないですね」
***
『葉隠』にはこうある。
「小事を大事にすべし」
——小さなことを、大きなことのように扱え。
一人の被害者は、「小さな事件」かもしれない。
でも、五人集まれば、「大きな事件」になる。
声を集めろ。力を合わせろ。
それが、弱者の戦い方だ。




