表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バベル大陸  作者: nekorovin2501


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

【第9話 多言語の辞典と、広がる輪】

ルミナスの街に戻ったカイは、宿屋の部屋で机に向かっていた。

古びた羊皮紙を広げ、インク壺を手に取る。

転生して以来、初めての「プロジェクト」。

多言語辞典の作成。

「これで、少しずつ……伝わるようになるかも」

カイは呟いた。人間の言葉で、スラスラと。

地球での吃音が嘘のように。

でも、他の種族の言葉はまだ壁の向こう。

エルフの歌、獣人の唸り、ドワーフの振動、神聖語の響き。

それらを繋ぐための、最初の試み。

最初に、エルフのページから。

リリアとの出会いを思い出す。

美しい旋律を、音符のように記す。

「感謝の歌」──人間語で「ありがとう」に相当するメロディーを、

五線譜風に描く。

隣に、ジェスチャーの絵: 胸に手を当てる。

感情のメモ: 温かさ、喜び。

次に、獣人。

市場での唸り声。

低周波の波形を、曲線で表現。

「挨拶の唸り」──威嚇に聞こえるが、実際は歓迎。

尻尾の振り方、耳の動きをイラストで追加。

感情: 安心、仲間意識。

ドワーフの石語。

ハンマーのリズムを、ドットで表す。

ドン、ドン、ドン──「手伝え」の意味。

振動の強さを、線の太さで。

肩を叩く仕草の絵。

感情: 信頼、協力。

神聖語は難しい。

女神の声の記憶を、抽象的な波線で。

教会の聖典の解釈をメモ: 「光よ、寄り添え」──自分の感覚。

感情: 優しさ、悲しみ。

カイはペンを置いて、ため息をついた。

一冊の辞典で、世界が変わるわけじゃない。

でも、始まりだ。

地球で、言葉が出なくて孤立した日々。

ここで、同じことを繰り返したくない。

翌朝、カイはギルドへ。

リアがいつもの笑顔で迎える。

「カイさん、昨日から何してるの? 顔が疲れてるわよ」

「これ……作ってる」

カイは羊皮紙を見せた。

リアは目を輝かせた。

「これ……辞典? 種族の言葉の?」

「うん。まだ粗いけど……みんなに、広めたい」

リアは少し考えて、言った。

「じゃあ、教会に持って行ってみたら? 司祭様なら、興味持つかも」

カイは頷いた。

教会へ向かう道中、街の人々がざわついている。

魔王の噂が、まだ残っていた。

北方の影──あの孤独な声。

誤解の産物かもしれない。

教会に着くと、老司祭が聖典を読んでいた。

「また来たかね、カイ君」

「これ……見てほしい」

カイは辞典のページを広げた。

司祭はメガネをかけ直し、じっくり見た。

「ほう……神聖語の解釈も、書いてあるな。

君の感覚かね?」

「はい。女神の声、直接聞いたから……」

司祭は微笑んだ。

「面白い。教会の解釈とは違うが……心で聞く言葉じゃ。

これを、広めてみるかね?」

カイは目を見開いた。

「広める……?」

「うむ。種族の代表を呼んで、集会を開こう。

君の辞典を基に、話し合ってみるのじゃ」

カイの胸が熱くなった。

初めての、輪。

数日後、教会の広間に、各種族の代表が集まった。

エルフのリリア──美しい銀髪を揺らし、歌で挨拶。

獣人の狐女性──名はサラ──唸り声を低く。

ドワーフのリーダー──髭の男、ゴラン──ハンマーを叩く。

人間のリアと司祭。

そして、カイ。

言葉は通じない。

でも、カイの辞典が、橋になる。

カイは中央に立ち、辞典を開いた。

「みんな……聞いて」

人間語で話し、ジェスチャーを交える。

リリアの歌を、五線譜で示す。

サラに、唸りの波形を見せ、尻尾の振り方を真似。

ゴランに、リズムをハンマーで叩き返す。

司祭に、神聖語の波線を指差す。

最初は、混乱。

リリアの歌が、獣人の耳に威嚇に聞こえ、

サラの唸りが、エルフを怯えさせる。

ゴランの振動が、教会の床を震わせ、

司祭の言葉が、皆を困惑させる。

でも、カイは諦めない。

絵を描き、仕草をし、感情を伝える。

「これが、君たちの言葉」

「これが、意味」

「伝わって……ほしい」

徐々に、変化が起きた。

リリアが、獣人の唸りを聞き、歌で応じる。

優しい旋律が、唸りを包む。

サラが、ドワーフのハンマーに耳を傾け、尻尾を振る。

ゴランが、神聖語の響きを、振動で真似。

司祭が、皆の感情を、祈りで繋ぐ。

カイの目が、潤んだ。

地球で、詰まって伝えられなかった。

ここで、みんなが、少しずつ繋がる。

集会の終わり、リリアが歌った。

サラが唸り、ゴランが叩き、司祭が呟く。

融合の響き。

カイは辞典に、新しいページを加えた。

「融合の言葉」──種族の橋。

外に出ると、星空。

輪が、広がる。

魔王の影も、きっとこの輪に。

カイは微笑んだ。

涙が、希望の涙。

第9話 終わり

(次回、第10話 魔王の真実と、女神の降臨)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ