世界観プロローグ
ここは「バベル大陸」。
古の時代、神々が種族ごとに全く異なる言語を与えたため、種族同士の完全な意思疎通は不可能となった世界。
人間の言葉は、エルフにはただの美しい音楽に聞こえる。
エルフの歌は、獣人には意味不明な旋律にしか響かない。
獣人の咆哮は、人間には威嚇の唸り声にしか感じられない。
ドワーフは音ではなく振動で語り、神々は人間に発音すら許さぬ「神聖語」を操る。
共通語は存在しない。
交易はジェスチャーと物々交換で成り立ち、誤解は日常茶飯事。
教会は神聖語の聖典を独自に解釈し、信仰を強いるが、その解釈が正しいかどうかは誰も証明できない。
そして魔法は、まさに「言葉の力」そのもの。
母語でしか正しく詠唱できず、他種族の魔法を学ぶことはほぼ不可能。
人間の論理的な呪文、エルフの歌魔法、獣人の咆哮強化、ドワーフの振動鍛冶──それぞれが独自の文化と歴史を宿している。
そんな世界に、現代日本から転生した一人の青年が降り立つ。
彼は女神から「言語理解の欠片」を授かり、感情や意図だけは伝わるようになった。
しかし、完全な言葉はまだ遠い。
彼はジェスチャーと絵と根気で、種族の壁を越えようとする。
誤解から生まれる笑いと涙、戦争寸前の危機、信仰の対立。
そして、誰もが恐れる「魔王」の正体に迫る中で、彼は気づく──
この世界の本当の敵は、魔物でも神でもなく、
「言葉が通じないこと」そのものかもしれない、と。
──これは、言葉を繋ぐことで世界を変えようとする、
一人の通訳者の物語。




