山奥の洋食店
男はほとんど知られていない飲食店をめぐることを趣味としていた。そのとき、とあるブログで見つけた「人気のない山奥の洋食店」。男が山道を進んでいくと左にL字に曲がった道の突き当たり、男からみて右手に洋食店が現れた。
なるほどこれは誰にも知られまい。と納得して店に入ると狭いながらほぼ満席だった。すぐに座れたものの男は落胆した。地元民が結構いるのは構わないが、よく見れば外から来たと思われる奴もいる。なんだ結構知られているじゃないか。とにかく食べようとメニューを見るとミートスパだけ。この一品だけで客が入るのだから、相当うまいのだろうと思い、男の機嫌も良くなった。
料理を待っている時、ひとりの男が文句を言い始めた。このスパゲティはマズ過ぎる。やっぱりだ。男は思った。こいつはブログを見てきたに違いない。
ブログは正確な情報ではない。一般人が思った事を書いているだけなのだ。だから自分の口に合わなかったからといってブログ主にあたるのはまだわかる。だが紹介された店にあたるなど言語道断。別に来いとは言ってもないし、載せてくれと頼んだわけではないのだ。
シェフが謝り、話は奥でとそいつを店の奥に連れて行った。まったくマナーの悪い奴だ。同じブログチェッカーとして恥ずかしい。
カップルと思われる二人組が席を立ったが妙に気になった。
顔面は蒼白。震えてるようにもみえる。料理も残しているし、具合でも悪いのだろうか。ごちそうさまと言って出て行った。すると地元民らしきふたりがさっと外へ出て、すぐに戻ってきた。
「突然倒れた。医者を呼んでくるから置いといてくれないか。」
奥からコックが出てきて、「では奥へ寝かせておきましょう。」と連れて行った。おいおいまさか食中毒じゃないだろうな。でも他の人は平気なようだ。
やっと料理が運ばれてくる。待ってましたとばかりに食らいつこうとしたが、男はぎょっとし驚きとまどった。
目玉がのっている。一瞬、人間の、と頭に浮かんだがそんな馬鹿なと苦笑した。豚か何かの目玉だろうか。なかなか珍しい。と平静を装いながらおそるおそるそれを口にする。吐きそうになった。ほとんど生だ。でも私は目玉なぞ食ったことがない。こういうものなのだろう。ソースも血の味がして気味悪さを増幅したが、それについては疑問は抱かなかった。血を固めて作ったソーセージがあるぐらいだ。血のスープぐらい普通だろう。しかしさすがに男も食べる手を止めざるを得なかった。
男はそれをソーセージだと思った。だがそれは指だった。人間のもののような、爪の先から付け根まで丸々ひとつ。
男の顔から冷や汗がたれた。目の前にあるものが人だったと気づいたから。早く出よう。そして立ち上がろうと思ったが、あることが頭をよぎった。あのクレーマーはどうした?なぜ医者は来ないんだ?男は考えた末、この店を出る方法を思いついた。
時間をかけておいしそうに料理を食べ、最後に思い切って指を丸呑みした。男は立ち上がるとコックに勘定を払い、「おいしかったよ、ごちそうさま。」とほほえみを浮かべて店を出た。
平静を装いながら目の前の道を歩いていく。店が見えなくなるところで辺りをうかがう。誰もいないことを確認すると茂みに入っていき、いままで我慢していたものを吐きだした。
ごぼぼっおえげぶげぶごほっごほっ、はー、はー、はー。
目の前には細切れになったスパと目玉の残骸と指。吐けるものは全部吐いたというのに体はまだ拒絶していた。
道に戻ると男はあわてて駈け出した。だれかに見つかるのが怖かったから。殺されるのが怖かったから。
でたらめに山道を下っていくと急に目の前が開けた。そして恐怖。あいつらの村なのではないだろうか。
しかし男には希望がわいてきた。駐在所を視界にとらえたのだ。警察なら安心だ。男は駐在所に駆け込んだ。
男が事情を話すと駐在さんはなるほどと言って電話をかけた。助かった・・・。男は安堵し、激痛とともに気を失った。
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洋食店の前で駐在はひとりの男を背負っていた。
「コックさん、連れてきましたよ。」
「わざわざごくろうさまです。ささっ、奥へ。」
男が連れて行かれたのは打ちっぱなしの空間。壁からのびる鎖には裸の人間がつながれていた。
読んでくださいまして誠にありがとうございます。
文章力が低いためたいへん読みづらかったと思いますが楽しんでいただけたなら幸いです。