俺、少しだけ信じてみようと思う。大切な人たちのことを。
夜明け前、屋敷に緊急の鐘が鳴り響いた。
「盗賊だ!女性たちを屋敷の奥へ!」
目を覚ましたユウトは、騒然とする中庭へ駆け出した。屋敷の壁は一部破られ、武装した盗賊たちが押し入ってきていた。
「ユウト様、下がって!危険です!」
執事の制止も聞かず、ユウトは一人の盗賊の前に立ちはだかった。
誰かが悲鳴を上げた瞬間——
鈍い音がして、ユウトは地面に倒れていた。
◆ ◆ ◆
気づくと、天井が揺れていた。
「ユウト様っ!」「……目を、覚まして……!」
泣きそうなセリア、叫ぶリリア、ミーナもいつになく眉を下げていた。
「あ……俺、生きて……る?」
「……はい。傷は浅いです。あなたが庇ってくれたから、私たち、無事で……」
ユウトは黙って目を閉じた。数日前までなら、自分が他人のために傷つくなんて、想像もできなかった。
でも今は違う。
「……前の俺なら、怖くて逃げてた。全部、見ないふりして」
「でも今は——大切な人ができたから」
◆ ◆ ◆
翌日、ユウトは屋敷中を歩き、備品と配置の見直しを始めた。自分が守れなかった悔しさと、守りたいという気持ちが、初めて行動に変わっていた。
「次また来たら、今度はちゃんと追い返す。俺が、みんなを守る」
皆もその言葉に応えるように、警備や避難ルートを一緒に整えていった。
そして数日後——
予想通り、盗賊たちは再び現れた。
◆ ◆ ◆
だが今回は、違った。
ユウトは冷静に指示を出し、隠し扉を開き、リリアが仕掛けた火薬罠で敵を分断。セリアが剣を構え、ミーナは書庫から魔術書で援護。
全員が、自分の意思で動いていた。
盗賊たちはあっけなく撤退。屋敷に勝利の空気が流れる。
「……今のあなたは、昔のあなたじゃないわね」
セリアが微笑んだ。ユウトは少しだけ、照れくさそうに目をそらす。
「まぁ……成長期ってやつかも」
◆ ◆ ◆
事件の後、ユウトの部屋には一通ずつ、手紙が届いた。
セリア:「私は、あなたの隣にいられるだけで嬉しいです」
リリア:「ずっと友達でいてほしいなっ!」
ミーナ:「……私にとって、大事な“はじめて”です。あなたが」
そして、三人とも最後に同じことを書いていた。
「一夫多妻でもいい。でも、まずは“あなたの友達”になりたい」
ユウトは手紙を胸に、窓の外を見た。風が春の匂いを運んでいた。
「……ありがとう。俺、ちょっとだけこの世界を好きになれそうだ」
——おわり。