第1章:世界設定ウィンドウ、起動
人は誰もが一度くらい、思うことがあるだろう。
「もし俺が世界を自由に作り変えられたら」と。
夢の中でさえ、そんな力は手に入らない。
現実ではなおさらだ。
ルールは固く決まり、運命は見えない糸に操られるように進む。
抗うことすら許されない、ちっぽけな存在——それが俺たちだ。
でも、もし、本当に「もし」があるとしたら。
気がつけば、そこは見知らぬ世界だった。何度目かの異世界転生。
繰り返されるループに、俺はもう慣れっこになっていた。
だが今回は、ただの転生じゃない。
俺の手には、この世界そのものを握り潰すほどの権限が与えられていた。
そう、これはゲームだ。
俺がプレイヤーで、俺がルールブック。
地形をひっくり返し、種族を弄び、魔法も死すらも思いのまま。
管理者権限——まるで神の視点だ。
何をしようか。
この世界を楽園に変えるか、混沌に叩き込むか。
それとも、ただの玩具にして遊んでみるか。
俺は笑った。
「……面白いじゃねえか」。
ここから先は、俺の意志が全てだ。
この物語に正解はない。
だって、ルールを作るのは俺なんだから。
「……またこのパターンかよ」
気がつくと、俺は知らない場所にいた。
目の前には青々とした草原、見上げれば雲ひとつない快晴。
明らかに日本ではないし、周囲に人の気配もない。
異世界転生。何度目かは覚えていない。
最初は戸惑い、次は期待し、やがて諦めた。
だが、今回はいつもと何かが違う。
【管理者権限を確認しました】
頭の中に直接響くような無機質な声。
視界の端に、ゲームの設定画面のようなウィンドウが浮かんでいた。
《世界設定》
何気なくタップすると、リストがズラリと表示される。
【地形変更】→「山を平地に」「海を砂漠に」「ランダム生成」
【種族の強さ】→「人間 × 1.0」「魔族 × 3.0」「ドラゴン × 10.0」
【魔法の概念】→「あり/なし/特殊ルール適用」
【死の概念】→「通常/蘇生可能/完全削除」
「……冗談だろ」
震える手で画面をスクロールする。
試しに「天候」を開いて「雷雨」を選択してみた。
——ゴロゴロ……!!
次の瞬間、快晴だった空に黒雲が広がり、雷が轟く。
ふざけてるわけじゃない。
本当に、俺がこの世界のルールを変えられるらしい。
「なるほど……そういうことか」
俺はこの世界の管理者。
もう神だの王だのに振り回されることはない。
この世界をどうするかは、俺が決める。
——さあ、遊ぼうか。
つづく