せめてできることを
入学してから一週間が経った。
クラスが決まり、授業が本格的に始まり、兄は進路を真面目に考えているころだろうか。
まあ当然のことながら友人はできない。
日本人の皆様ならわかってくれるだろうが、君子危うきに近寄らず。といった具合でいじめの標的は遠巻きにされるのが普通なのだろう。
『(聞き飽きた罵倒)』
もはや聞きすぎて逆に記憶に残らない罵詈雑言を聞き流し、兄に言われたように反撃はせずニコニコと営業スマイルを浮かべる。
笑顔と挨拶…つまりコミュニケーションは社会人の基本。これやっとけば味方が増える現代社会万歳。
現在はどうかって?なに言ってんだ一次大戦後が現代社会なわけないだろ。
つまり味方は近所のおじさんおばさんくらいしかいない。
「ほんとハイドリヒはよく我慢できるなあ…今は俺もハイドリヒか」
殴られてるときに切ったのか口内に溜まった血を吐き捨て、帰るために校門へ向かう。
荷物を奪ってくるような奴らではないだけ幸運なのだろう、隠されて探す手間がない分学校にいる時間は短縮できる。
さて、帰り道は手持無沙汰なので、ずっと繰り返して毎回同じ結論に至る真面目な考え事をしよう。
まず考えるべきは帰れる可能性はあるのか、ということだろう。
これに関してはもう七割くらい諦めている。
そもそもこの時代に生まれてしまった理由がようわからんのだ。
なんだよ本に吸い込まれるって。それでできるのは付喪神だろふざけやがって。
次に十年後くらい、どれだけ遅くても1940年代までには始まる、始まってしまう第二次世界大戦時の話だ。
まあこれを回避するにはヒトラーの当選を防げばいいのだが、現時点でハインツに選挙権はないし、あったとしても現プロイセン大統領がヒトラーの当選を目論んでいるのだからどうしようもない。
ナチ党とかいう文言が最近新聞で出てきたのでヒトラー当選からドイツ第三帝国の成立までは確定路線とみていいだろう。
じゃあどうする?亡命?
……歴史の授業を少しでも覚えていればわかると思うが、二次大戦時において安全なのは南米くらいだし、その南米も激戦地たるヨーロッパやアジアに比べれば安全程度でしかない。
つまり歴史を変える方向で動けば南米が戦場になる可能性もある。
ハイドリヒ亡命で親衛隊の構造が変わって最終的に最悪になる可能性もあるのでこれは却下。
完全に安全なのは軍隊で上り詰めてドイツを二次大戦に勝たせること。
これに関しては歴史オタクなのが幸いして昇進さえしてしまえば可能だ。
だがこれは終戦後、特にヒトラー死去後がわからなさすぎる。
内部分裂したドイツがアメリカなどの介入で民主化してそこが武力でドイツをまとめ上げるのが最高ではあるが、二次大戦に負けたアメリカが史実通りにCIAを各所に展開する余力が残っているとも限らないし、何よりも昇進できるかの要素が強すぎるので保留。
最後に完全に史実通りに動くこと。
この場合私は最終的に自殺する。
まあハイドリヒがあれやるから弟の私は終戦後の裁判でいろいろあれだろうし判断としてはあまり間違ってない。
さらに親衛隊に所属することになるので面倒ごとしか降ってこないだろうというのは想像に難くない。
営業スマイルには限界があると昼間に証明してしまったことだしな。
……と、ここまで考えたところでちょうど玄関前につける。
「ただいま」
そういって玄関のドアを開けた。
「ハインツ。少しいいか」
珍しくハイドリヒ…ラインハルトが私に相談事だろうか。
「将来的にナチ党に入ろうと思っているんだがどう思う?」
助けてください。もう私が知らない世界の歴史が始まりそうです。
はい。まずは読んでくださる方。
もしくは居るのならば待ってくださっていた方に御礼申し上げます。
なんで私って一話ごとの間隔長いのにそこまで内容詰まってなんですかね。
わかりきっております。私が思いついた時しか書かないから投稿までに時間がかかるのがすべての原因です。
これからも絶対零度とまではいかずとも期待のない目で見守ってくださると幸いです。




