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田舎のチンピラ、ド爆乳聖女に転生す

「あーあーあー、ったくンなはずじゃなかったってのによぉ……」


 口からぷかりとヤニ臭い煙を吐き出しながら、柳児(リュウジ)はぽつりと呟いた。

 そんな彼の尻の下には、つい先ほど柳児にノされた派手な装いの男が二人、下敷きになって伸びていた。


 そんな二人を気にすることなく、柳児は空を見上げてさらに呟く。


「大人になりゃあよぉ……ビッグんなって金持ちんなって、でっけー乳の女侍らして、ウハウハやってるもんだと思ってたってのによぉ。未だにテメェらみてぇな半端なヤンキー相手に喧嘩するハメになるたぁ、つまんねぇなあ。ええおい、そう思うだろテメェらも」


 言いつつ、柳児が足の裏でごりっ、と男のうちの一人を踏みつける。

 足蹴にされた男は、「う、ウッス、つまんねえ大人っス!」と痛みに呻きながら、媚びた声で答えた。


 それを聞いた柳児は眉間にしわを寄せ、さらにゲシっと頭を蹴りつけた。


「だぁれがつまんねえ大人だ、オイコラ! 蹴り飛ばすぞこのクソガキ!」

「も、もう蹴ってるっス! 痛ェっす!」

「ガタガタ抜かすなカスがよぉ! 半端なヤンキーのくせして最初にケチつけてきたのはテメェだろうが!」

「さ、サーセンっす!」

「……で。テメェ年齢(トシ)はいくつだ?」

「……は? 年齢、すか?」

「いいから答えろ」

「は、二十歳っスけど……」

「なら、誠意」

「……は?」

「誠意。寄越せや。形でよぉ」


 言いながら、男二人に向かって柳児はちょいちょいと指先を動かして見せた。


  ***


 十分後。

 柳児の指先には、二本の千円札が挟まれていた。先ほどノした男たちから巻き上げた『誠意』である。


 それをポケットに適当に突っ込みながら、詰まらなそうに吐き捨てる。


「チッ。成人したてのヒヨコじゃこんなもんかよ。シケてやがんな」


 そう言う柳児の言葉に罪悪感はない。元より向こうから売ってきた喧嘩。その癖負けたのだから、金ぐらい巻き上げられて当然、というのが彼の論理だ。


 柳児はいわゆるヤンキーである。

 あるいはチンピラ、と言い換えてもいいかもしれない。学生時代からずっと喧嘩続きで、大人になって多少は落ち着いたといっても血の気の多さに変わりはない。


 おまけに彼の住む田舎では、その血の気をぶつける相手にも困らない。住んでいるのはオタクか半端なヤンキーばかりで、くすぶった感情を他人にぶつけたいような輩ばかりだ。

 結果として今日のように、返り討ちにした相手から金を巻き上げたり、時には集団でやり返されて金を巻き上げられるのが柳児の日常であった。


「……ま、これで源ちゃんとこのラーメンでも食いに行ってやるとするか」


 巻き上げた金の使い道を考えつつ、柳児が原付(バイク)へとまたがる。

 昔憧れた漫画の主人公が乗っていたバイクにちなんで、ボディを赤く塗り直した柳児の相棒だ。五年前に叔母から譲り受けて以来、大事に大事に乗り回している。


「ッシシ、最近だいぶ冷え込んできたしよぉ、味噌でも食ってあったまっかー?」


 エンジンをかけ走り出したところで、馴染みのラーメンの味を思い出しながらニシシと笑う。

 原付とはいえ、バイクや車に詳しい友人の手を借りてちょこっと改造してある原付はぐんぐんと順調に速度を上げていき、すぐに時速は80キロ近くまで迫った。


 肌を撫でていく風の心地よさに、柳児が目を細めた、その瞬間である。


「――!?」


 前方にてんてんと野球ボールが転がってきたかと思うと、それを追ってまだ十歳かそこらの少年が道路へと飛び出してきたのである。


 突然のことに、思わず柳児の頭が真っ白になる。

 それでも、子どもを避けようとして彼がとっさに原付のハンドルを切れたのは、『彼』の言葉があったからだった。


『どんなにダサくてもよぉ、自分(テメェ)自分(テメェ)にケチつけたりすんじゃねぇぞ、柳児』


(……あんちゃん!!)


 最後にそう思った柳児の体は、時速八十キロで子どもではなく、電柱へと衝突した。


  ***


「――リア。ねぇ、起きなさいってばマリア!」


 遠くからそんな声が聞こえてきて、柳児の意識が不意に浮上した。


(……ん? あれ、俺無事なのか? てっきり事故って死んだもんかと……)


 そんなことを思いつつも、周囲を見回してみれば真っ暗闇だ。

 どういうことかと内心柳児が首を傾げていると、さらに声が聞こえてくる。


「マリア! もうっ、礼拝の時間が迫ってるのよ? いつもは貴女、もう起きてる時間じゃない。ねぇったら!」

「ん……」


 声と同時に、ゆさゆさと肉体を揺するような衝撃。

 そう、《《肉体》》。あるのだ、体が。そして身体があるとなれば、恐らくは《《まぶた》》も開けるはず。


 そう思った柳児は、まぶたを開いた。


 すると視界に映るのは白い天井。一瞬、「病院か?」と思ったが、それにしては薬臭いという感じの空気でもない。


「ここはいったい……どういう状況だ?」


 場所と自分の状態を把握しようとして柳児が身を起こすと、先ほどから耳にしていた声が隣から聞こえてきた。


「マリア、起きたのね! もう、珍しく寝坊するから心配しちゃったじゃない!」

「んぇ、お、おお? ほぉぉぉぉ!?」


 そちらへ目を向けてみれば、見慣れぬ金髪の、それもシスター服に身を包んだ女性がそこにいた。

 胸は小さいがとんでもない美人だ。細身でスレンダー。あと服の上からでも分かるほどに尻がデカい女であった。


「お、おお、おおお女!? いやてか、めっちゃいい女だな! 付き合ってください!」

「もうっ、マリアったら何を寝ぼけているの? そんなことより、ほら、はい、礼拝まで時間がないわよ。着替えなさいってば」


 そんなことを言いながら、彼女が柳児のことをマリア呼ばわりしながらシスター服を押し付けてくる。

 それから、壁の方を指さして、


「急いで!」


 と、言った。


 彼女に釣られて、指さされた方へと柳児が視線を向けてみれば、そこにあるのは大きな姿見である。

 そして、その鏡の中に映っていたのは。


「……お、お、おっぺぇ、めちゃデッケー!!」


 銀髪碧眼でスタイル抜群な、ド爆乳の美女であった。

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