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2日目(前)

 



 今日は琴乃とおでかけだ。

 しかも今回は〇△モール。夏休みに行ったきり、行く機会もなかったので、琴乃だけでなく僕も少々上機嫌だ。

 けど、今回は前回とは違う。夏休みは琴乃をチャリの荷台に乗せて、二人乗りで駅まで突っ走っていた僕らだけど、今回はなんと車だ。

 モールまで直行。両親がいた時以来の優雅な移動。早く18になりたいもんだね。切実に車の免許が欲しい。


 さて、こうなると誰がこの車を運転しているんだという話になるわけだが、今日の送迎係は翔真君のお兄さんだ。

 冬休みから何度か顔は合わせているけど、いつもはヴァイスが間にいたから会話に困ることはなかった。実を言うと、お兄さんと二人で会話らしい会話をしたことはほぼ無い。

 運転中だし、あんまり話しかけない方がいいのかな……なんてのはただの言い訳だ。そもそもヴァイスは運転中だろうが死ぬほど話しかけていたし、お兄さんも別に気にしてなさそうだった。


 くぅ、後部座席で慣れた様子で楽しげに会話している琴乃と翔真君が羨ましい。混ぜて欲しい切実に。


「兄さん、テントや調理器具は全て眞白さんが用意してくれるんでしたよね?」


 そんな僕の心のうちの願いが聞きつけたのか、琴乃が絶妙なタイミングで話題を振ってくれた。流石は自慢の妹だ。


「うん、そうだよ。バーベキューの機材は一式持ってるんだと」

「凄いですね、そういうのって現地で借りたりするものだと思ってました」


 琴乃の隣に座る翔真くんも会話に入ってくる。

 スポーツ刈りで短く丸めた髪型なのに、頭の形が綺麗で小顔だからめちゃくちゃハンサムだ。面長の僕からすると羨ましくて仕方がない。

 翔真君とは何度か会って話しているけれど、お兄さんと違って気さくで本当に取っ付きやすいやつだ。

「いかにも元気なスポーツ少年!」というノリの中に、押し付けがましくない爽やかさがある。まさに正統派イケメン。


 こんな男子、さぞモテることだろう。うちの妹はとんでもなくスペックの高い子を落としたもんだ。

 ……まぁ当然と言えば当然だがな!? なんたって琴乃なんだし。


「借りるのが一般的かもね。今回行くキャンプ場も実際貸出してるし」

「へー、それじゃ全部自前の眞白さんってアウトドア大好きなんですかね」


 翔真くんもまだヴァイスとの面識はあまりない。今回の主催者であるヴァイスの事は気になるのだろう。


「良くも悪くも、エネルギッシュな奴だからな」


 運転席から視線を前方に固定したままのお兄さんが言う。低く芯のある声。普段の寡黙な感じと鋭い切り目が合わさって相変わらず近寄り難い雰囲気が出てる。


「キャンプするってなって、勢いのまま全部買った……ってのがオチな気もするが、アウトドアが好きなのは間違いないんじゃないか」


 ヴァイスなら有り得そうだなぁ。

 一回目のキャンプがどういった経緯で行われたかは知らないけれど、ヴァイスの車の後部座席に乱雑に積み上げられたキャンプ道具たちを思い出すと、まともな置き場も考えずに買いまくったと言うのも頷ける話だ。


「兄ちゃんって、眞白さんと仲良いもんな」

「いや、そんなこと無い。ゲーセンで遊ぶくらいしかしてねぇよ」


 翔真くんの言葉を一蹴するお兄さん。

 しかし意外だな。ヴァイスとお兄さんは結構仲良しなイメージだ。ヴァイスは僕の事をあっちゃこっちゃと連れ回すから、てっきりお兄さんともそんな感じなのかと思っていた。


「普段の様子を見ていたら、とりあえず行動するタイプなのは分かる。ああいうタイプは外出も好きだろ」


 実際そうだな。

 スキーにも誘われてたし、今はアイドルを推すことにもハマって、ライブとか行ってるみたいだし。


「でも、バーベキューの機材一式揃えてるってのは、さすがヴァイスって感じがするよ」

「いち大学生がポンと出せる額ではないことは確かだな」


 おかげさまでこうしてみんなでバーベキューを気軽に行えるわけだし、ヴァイスには感謝だな。

 本当は今日もヴァイスを呼びたかったのだけど、それこそアイドルのイベントがあるらしく断られた。


「……見えてきましたね」


 琴乃が窓に視線を向けたまま呟く。視線に促されるように窓の外に目をやると、遠目に〇△モールが見えた。

 さて、琴乃との久しぶりのショッピングを楽しもうじゃあないか!!

 と、意気込んでいた僕ではあったのだけれど、モールに入ったところでその出鼻は無事に挫かれた。


「では、キャンプに必要なものを買う前に少しデートしてきます」


 淡々と、当然かのように琴乃は僕にそう告げると、翔真くんとともに僕に背を向けてモールの人混みに消えていく。

 待ってくれ〜と手を伸ばして涙を流す僕。それを冷ややかな目で見つめてくる翔真くんのお兄さん。

 琴乃と離れ離れになるってだけでも悲しいのに、お兄さんと2人っきりだと!? 勘弁してくれ!!


「まぁ、俺らは保護者みたいなもんだしな。適当に時間を潰そうか」

「……はい」


 お兄さんと共にモールのフードコートへ向かって歩く。お兄さんが気まずく黙る僕に振り返る。


「でもほんと君と琴乃ちゃんは仲がいいね」

「え、あ、そうですかね」


 急に振られた話題についたじろいでしまう。


「歳が離れすぎてるわけでもないだろう。ここまで仲がいいのは珍しいと思うな」

「どこの家庭もこんなもんじゃないんですかね」

「そんなことないだろ。君らは特に仲がいいさ」


 流石に琴乃が僕に抱く気持ちについてはバレてないだろうけれど、やはり仲が良すぎるというのは違和感として周りには伝わってしまっているのだろうか。

 今までは周りに仲がいいと言われても、素直に受け取るだけだったんだが、琴乃との一件があってからは少々ナイーブになってしまっているのかもな僕は。

 お兄さんは少し口元を緩めながら、前に向き直る。


「大事な家族だ。仲がいいに越したことはない」

「……それはそうですね」


 性別は違えど弟妹を持つ者同士。やはり下の子は可愛くて仕方ないよな。


 それからまたしばらく無言が続いて、フードコートに到着する。

 僕とお兄さんは、ドーナツ屋で2つほど適当にドーナツを見繕い、空いてる席へ腰掛けた。

 向かい合うように座って、無言のままドーナツを口に入れる。

 スマホを見てこの空気を誤魔化したいところだけれど、2人きりなのに相手を無視してスマホを1人でいじってしまうというのは、やはり気が引ける。

 助けてくれ!ヴァイス!!


「そ、そういえばヴァイスとゲーセン以外で会ったりするんですか?」


 心の中でヴァイスに助けを求めたついでに、お兄さんと僕との共通の話題はヴァイスの事だと思いついた。

 悪いなヴァイス。お前のことをこの場を乗り切るのに使わせてもらうぜ。


「いや、ないな」

「え、ないんですか?」

「ない。強いて言うなら、君が琴乃ちゃんを迎えに来た夜くらいのものだな」

「あー……あの時はどうもお世話になりまして……」


 3ヶ月前の冬休み。琴乃が無断外泊を行った夜に、唐突に押しかけてしまった出来事が脳裏に浮かぶ。

 しかも他人の家で大声を張り上げて兄妹喧嘩したわけである。迷惑をかけてしまっただろう……。

 お兄さんも別に皮肉のつもりで言ったわけではないようで、クールな表情のまま話題を続けてくる。


「個人的な連絡もほとんどとってない。あいつと会う時はだいたい君もセットだしな」

「じゃあそもそも2人で遊んだりしないんですか?」

「滅多にない。偶然ゲーセンで会うとか以外には遊ばないな」


 意外だな。ヴァイスことだからガンガン誘って遊んでるとばかり思っていた。


「まぁ、俺としてはありがたいけどな」

「ありがたい?」

「俺はそこまで他人と時間を共有するタイプじゃないんだ。1人でいる方が好きでな」


 いいなあ。イケメンが言うと孤高な感じがして格好いい。僕がそのセリフを真似たところで拗らせた陰キャにしか見えないだろう。


「あいつの踏み込んでこない絡み方は、好感を持てる」

「……踏み込んでこないかなあ?」


 どちらかと言うと、ヴァイスはガツガツ踏み込んでくるタイプに思えていたけれど。

 何にも遠慮がないというか、猪突猛進な感じというか、僕の内心を僕より理解していて、グイグイと僕の中に入ってきた奴なんだよなぁ……。


「君にはそういう風に見えてるんだな」

「はい……。かなりパーソナルエリアが狭いやつだなあって印象が強いですね」

「なるほどな……。まぁ、人によって使い分けているんだろう。器用なやつだ」


 器用なのだろうか。ヴァイスは裏表もなくて、素直で、言葉を選ばずに言うならバカ正直な奴、という印象なんだけれど。

 誰に対しても心を開いていて、誰に対しても自分の意思を通す。そんな良くも悪くも信念が一本体に通った女の人だと、思っている。

 これは、僕がヴァイスの印象を良く受け取りすぎなだけなのだろうか。


「ただ、単純に君のことが好きなだけなのかもしれんけどな」

「いやいや、ないですよ」

「なんだ? 違うのか?」

「僕とヴァイスは友達ですよ。恋愛っぽくなったことは無いです」


 冬休みに抱きしめられたことはあったけれど、あれは恋愛的というより母性的な感じだった。

 僕を落ち着かせようとして身体を張ってくれたのだと思う。

 それに、僕はヴァイスの事をそういう風に見ていない。ただ、もちろん可愛いしスタイルもいいし、女性的な魅力を感じないと言うと嘘になる。

 ヴァイスの豊満な胸をつい目で追ってしまうことも多々ある……けれども! ヴァイスと恋仲になりたいとか、具体的に考えたことは一度もない。


「そうなのか、もしかして付き合ってるのかと思ってたけれど」

「いやいや、無いですよ。僕なんかには勿体ないですし」

「そうか? まぁ君が言うならそうなんだろうな」


 そう言って、お兄さんはドーナツをひとつ食べ切る。

 僕も砂糖の粉をポロポロと口から落としながら、ドーナツを口に頬張る。

 しかし、ヴァイスと僕の様子は、傍から見ると恋人に見えなくは無い、のか。

 そう思うとなんだがむず痒い気がする。何を隠そう今まで恋人のひとりも出来たことのない僕だ。考えれば考えるだけ、もしかして僕はヴァイスの事を好きなのか? なんて考えが顔を出してくる。

 哀れなり思春期の童貞。こりゃ琴乃が毎度僕を揶揄うのも納得できてしまうな。




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