襲撃
セーラが村にやってきてから数週間が過ぎた。
その間マリアたちに魔法や剣の修業をしてもらったが、残念ながら大きな上達は見られなかった。
「私、何もできない…」
セーラは己のふがいなさに涙を浮かべる。
「大丈夫よ。これから頑張れば」
しかし何の戦力にもならないことが悔しかったのか、いつまでもすすり鳴く声が聞こえた。
そしてまた数週間、セーラの修業は相変わらずであったが、少しの上達は見られるようになった。
そんなある夜、本を読んでいたセーラはふと外が騒がしいことに気がついた。
外の様子を見に行こうと立ち上がった瞬間マリアの声が聞こえる。
「セーラ!起きてる!?」
「は、はい! 外が騒がしいので今見に行こうと」
「どうやら魔物の襲撃を受けているらしいの! あなたも来て!」
「はい!」
いったい私に何ができるのだろうかと考えながらもマリアについていった。
外に出てみると村人たちが大勢の魔物と戦っていた。
ところどころ火の手が上がっている。
「おじいさまの姿が見えない! セーラ、あたしはおじいさまを探してくる! あなたは子供たちを避難させて!」
「わかりました!」
泣き声を頼りに子供を見つけ出し、安全な場所に連れていってやる。
そのうち、とりわけ大きな魔物が村人と戦っているのが見えた。その魔物は青紫色の体毛を身に纏った巨大な虎であった。
「セーラ、こっちへ!」
「あっ、カイさん、アレフさん!」
「あそこで戦っているのがオレたちの親父だ」
「ええ!そうなんですか!?」
「多分親父たちの相手が、攻めてきた魔物たちのボスのはずだ」
「俺たちが言うのもなんだが、親父たちはこの村で五本の指に入る強者だ。勝てばいいが負ければこの村は全滅だろう」
「そんな…」
「しかしなんだって魔物たちはこの村を襲ってきたんだ?」
「思い当たるとすれば、この村のどこかにあるという天界の斧だ」
「なぜ魔物がそんな斧を狙うんだ?」
「わからん。だいたい斧の話もただの言い伝えでしかない」
「そうですね…」
「とにかく今は、親父たちが勝つのを祈るしかない」
だが、力の差は歴然であった。
魔物は炎や吹雪を吐き、パーティーのHPを削り取っていく。
反撃する間もなく、パーティーは全滅した。
「親父!」
「父さん!」
「ああ! カイさん! アレフさん!」
カイとアレフは怒りに我を忘れて、魔物に飛びかかって行く。
しかし魔物の一撃をくらい動けなくなってしまった。
「なんだこいつらは。まあこんなゴミはどうでもいい。俺様にはやることがあるのだ」
そう言うと魔物は村の奥へ消えて行った。
「アレフさん! カイさん!」
「ちきしょう……歯がたたねえ……」
「しゃべらないで!」
セーラは持っていた薬草を二人に使うと、先ほどの魔物を追いかけた。
(何か武器が必要……)
ふとセーラはマリアの家の壁に飾ってあった斧を思い出した。
そしてマリアの家に行き壁の斧を手に取ってみる。
「これ……私にも装備できる!」
セーラは斧を持ち再び魔物を追った。
しかし黒い珠と斧がわずかに光を帯び始めたことには気がつかなかった。
そのころ長老ジムラは先ほどの魔物と対峙していた。
「おまえたちは一体何のためにこの村を襲ったのじゃ」
「ふん、この村にはかつて力天使が使ったという大斧があるだろう。そいつをもらいに来たのだ」
「そんな物は聞いたことがないな」
「とぼけても無駄だ。死にたくなければ、とっととその斧を差し出せ!」
「知らぬ」
「ならば力ずくでもらっていくだけだ」
「マリア、おまえはそこで見ておれ」
「は、はい」
戦いが始まった。
魔物は先ほどと同じく息攻撃を仕掛ける。だがジムラは歴戦の賢者であった。
ジムラは多彩な魔法で応戦する。
「きさまがこの村一番の使い手か。ではこれではどうだ」
魔物は仲間を呼んだ。
ワーウルフが現れた。
ワーウルフは封呪の魔法を唱えた。
ジムラは魔法を封じられてしまった!
戦いは力対力となったがこの展開はジムラに不利であった。
徐々に押されていき、ついに痛恨の一撃を受けてしまった。
「おじいさま!」
「マリア。く、来るな」
「まったく手間をかけさせやがって。おい、そこの 地面の扉を開けて中を探してみろ」
「は! バルガ様!」
魔物たちは扉をこじ開け、中を探し始めた。
そのうち一本の斧を持って出てきた。
「こんな錆びれた斧が? おいじじい、答えろ。これが天空の斧なのか?」
「知らぬ。わしもその斧は初めて見る」
「そうか。それではおまえは用済みだ」
そう言うとバルガはジムラにとどめを刺した。
「おわぁぁぁー!」
「おじいさま!!」
マリアが叫ぶ。と同時にカイは待っていたように人体複製の魔法を唱えた。
≪メタモルフォーゼ≫
カイはマリアに姿を変えた。
服を脱ぎ全裸姿をスマホカメラに映して興奮しだした。
「カイ! こんな時に何をしているの!」
「こんな時だからさ。どうせ死ぬなら一番したかったことをするんだ。あふぅん」
カイはカイの胸と股間を触り始めた!
モンスターは見とれている!
「マリア! 待って!」
カイを無視してマリアがジムラにかけ寄ろうとしたとき、セーラが現れた。
「よくも……よくもジムラさんを!」
セーラの構える斧が輝き出した。
「またゴミが現れたか。おい、おまえたちで片づけておけ」
「そうはいかないわ!」
セーラはハエ男に殴りかかった。
会心の一撃でハエ男を葬り去る。
そのあとも襲ってくる魔物たちを、セーラは同様に会心の一撃で倒していった。
「すごい……! セーラにこんな力があったなんて! それにあの光っているのは家宝の斧?」
ふと魔物が持っている天使の斧を見ると、こちらもうっすらと光っているように見える。
バルガが動いた。
「いまいましいゴミめ。このオレ様が直々に相手をしてやろう」
セーラの攻撃はすべて重い会心の一撃となり、バルガに命中していく。
セーラはさらにダメージを加えていき、バルガの動きは徐々に鈍っていった。
「きさま、何者だ? くそう、あのじじいにやられていなければ」
だがセーラの優勢は長くは続かなかった。
バルガが吐いた炎がセーラを直撃し、これが致命傷となりセーラは気絶した。
「この女一体? ここで殺しておくか」
「バルガ様! お父様がまだかと催促されています!」
「ちっ、運のいいやつめ。ものども、引き上げだ!」
魔物たちは去って行った。
周りの散々たる有り様にマリアは気を失った。