全てを、絶望の月
「我が呪いの秘術をよくぞ打ち破った。さすがだぞルーテ」
魔導師は誇らしげに言った。
「……わたしの名前はセーラよ。お父さん…」
「父と呼ぶか」
「名前を知らないですもの」
「ハッハッハ…」
魔導師は表情を変えず続けた。
「我らに名前などは無い」
「……本当は貴方と戦いたくない、けど、わたしは貴方を……倒さなくちゃならない」
「そうだ、お前の秘めた真の力を我に見せてみよ」
「行きます!」
セーラは四枚の翼を羽ばたかせ超スピードで魔導師に突っ込んだ。
セーラの輝く身体の周りには光虫が飛び回っている。
魔導師は暗黒魔法を唱えた。
«フォビドゥン»
ドロドロとした瘴気の塊がセーラを襲う。
しかし光虫の展開する結界で無効化される。
セーラは魔導師の身体へ天使の鉞を打ち下ろした。
黒球の中の魔導師のマントを切り裂く。
「お前は我の一部から生まれた、そのお前が我を滅ぼせばどうなるか、わかるか?」
魔導師の黒球がぼやけ崩れ出す。
「お前も共に滅びるのだ」
「……」
「例えそうだとしても」
セーラは再び鉞による打撃を魔導師に加える。
「わたしは貴方を討つわ!」
セーラの攻撃に魔導師の干からびた片腕が吹き飛ぶ。
光の追加効果が魔導師の再生能力を奪う。
魔導師は、セーラの素早い打撃を躱せず、両脚、あばら骨、内蔵と次々にその身体を失ってゆく。
顔だけになっても空中に浮かびながら語りかけをやめない魔導師。
その様を見て嘔吐するセーラ。
「オェぇぇ…気持ち悪い。死なない、どういうこと……」
「そのような…方法では、滅びはせぬ」
「くっ…どうすれば」
「ルーテよ、共に、我が創り上げた…神と同化、するのだ…」
「冗談じゃないわ!」
魔導師の頭部は神と呼ばれた異形の巨大生物と融合しかかっていた。
「オレ達だってサポートはできる!」
カイは攻撃力上昇の魔法をセーラに唱えた。
「私もよ」
マリアはヒールをセーラにかけまくる。
「駄目、引っ張られる…!」
セーラの身体も魔導師と共に異形の神に取り込まれてゆく。
「セーラ!!」
マリアが叫ぶ。
「吸収されちまった…セーラが」
カイが呆然と見つめる。
セーラの身体は、魔導師の纏う黒球と共に歪みぼやけ、やがて完全に溶けて消えた。
異形のお父様の体内。
「ここが、本体ね……」
吸収された他の天使や魔物の亡骸を次々薙ぎ払っていくセーラ。
そこには自分とそっくりなルーテの顔面もあった。
魔導師の意識は途切れかかっていた。
彼は暗闇にいた。
寒い。我は……我はもはや手足を感じられない。我は……。
我は無へとゆっくり進んでいる。ゆっくりと…。
ルーテ…お前への贖罪をずっと考えていた。たが全てはもう戻らぬこと、ならば。
「我が呪われし魂よ、滅びゆけ!」
魔導師は天の使いに頼みをした。
天の光虫は訝りながらも承知した。
そして魔導師の頭をひと撫でし消えた。
セーラは異形の父に最後の一撃を加えた。
「ルー……テ…」
「ぎゃおわおわおわお~!」
「グルガラルグガガッカ……」
異形の神は崩壊し、雲間から陽の光が差す。
その向こうには闇の月が暗く佇んでいた。
カイとマリアは肉塊の山の中にセーラを探したが、ついに見つける事は出来なかった。
魔は滅びカイ達は安堵と失意のなか、故郷アルメリアに帰る。
オルドは箱庭の解明を追って、これからも戦い続けるであろう。
そしてセーラは……。
◆エピローグ
「やり直しだ」
天の者の眼前にあるモニターには、オルドの塔の中でノートパソコンに向かうオルド、そして消滅したはずのセーラの姿があった。
「おかしい」
「まだ終わってないという事?」
天の者らはどよめきだす。
「オルド、あのキャラクターだ。あいつは勝手にデータへの干渉を試みていた…」
「ただのバグじゃないか?」
「あの四つ羽根の天使がイレギュラーを起こした」
箱庭の大部分が操作を受け付けなくなる可能性がある。
そうなる前に、我々はあの2人のキャラクターデータを抹消しなければならない。
「実験は失敗であった」
天の者の一人が呟いた。
to be continued...




