我々の世界
「リセット?」
カイが怪訝そうに繰り返した。
「簡単に言えば、修正すべき事象が起きる"前"まで時間が戻るということだ。
その間に生まれたものは存在しなくなり、無くなったものは復活する」
「アレフが生き返るってこと!?」
楽観的なマリアは手を叩いて喜ぶ。
「どこまで戻るかは神のみぞ知る…必ずしも我々にとって都合が良い結果になるとは限らない。
それにアレフが死んだ事実も無くなるのだ」
「あぁ~頭がこんがらがってきた」
「全てをリセットしたくなること、あるよな」
「それが神様の御業……?」
「つまりやり直しってことや」
「横暴やな」
(……セーラ)
「誰かがセーラを呼んでる……」
「そうだわ、わたしには成すべきことがあったんだ」
「セーラ?」
「ごめんねマリア。わたし行ってくるね」
「えっ…どこに? 帰ってきたばかりなのに」
「まだ魔族は生きてる。倒さなくちゃ」
「いやいやっ! もうどこにも行かないで。どうしてセーラが戦わなくちゃいけないの」
駄々を捏ねるマリア。
「絶対戻ってくるから。約束」
優しく声をかけるセーラ。
「やだ! あたしも行くから!」
マリアは涙に鼻水を垂らしながらセーラの服の裾を掴んだ。
「オレも行くぜ」
カイが臆せずに続く。
「オルドさんは?」
「行かない」
「チキン天使長…」
「私にはここを護る責任があるのだ!」
「だから、守れてないやないか」
「もうっ。みんなしょうがないなぁ」
セーラは根負けして四枚の翼を羽ばたかせる。
マリアとカイがセーラの身体に抱きつき、バヒュンと音を立て空高く飛んでいく。
見上げるオルドは、眩しい陽光に目を細めながら心の中で呟いた。
「さらば、神に翻弄されたる心優しき天使よ」
◆
ヘルキャッスル跡地には小さな空洞ができていた。
空洞は異次元空間になっており、中の壁は臓物のように蠢いていた。
奥で待っていたのは、横たわる異形の魔生物とその上に座る魔導師だけであった。
「遅かったな、ルーテ…」
「……」
「魔導師…」
「一人か?」
───
セーラたちが訪れる数時間前。
魔導師はお父様の回復と、更なるパワーアップのために騎士たちを使おうと考えた。
今なら二匹とも手負い。抑え込むのはそう難くない。
「この前の恨みか?」
騎士は薄笑いを浮かべて言った。
「ガル……貴様、乱心したのか」
「これからお前たちは神の贄となる。その為に産み落とされたのだ。お父様の一部となって永遠を生きよ!」
魔導師が呪文を唱えると、魔物たちの周囲を無数の闇の手が取り囲んだ。
「やはり、あのとき完全に息の根を止めておくんだったな」
「ガアウッ! こんなもの!」
まとわりつく闇の手に掴まれズルズルと地面を引きずられながら、二匹の魔物は異形の魔生物の身体の中へ吸収されていく。
吸収が終わると魔生物は四つ足となり、身体には黄金色の鱗が浮き出た。
複数の天使の顔面の中に騎士と獅子の顔が生えてくる。
そしてただ静寂…。無音。
───
「さあ……」
魔導師はローブを捲り干からびた片腕を晒した。
「マリア、カイ、下がってて!」
セーラが鉞を担いで進み出る。
「我々の世界の決着をつけようか」
老いた魔導師は視線を落としたまま、邪悪なる暗い黒球をその身に纏った。




