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我々の世界

「リセット?」

 カイが怪訝そうに繰り返した。

「簡単に言えば、修正すべき事象が起きる"前"まで時間が戻るということだ。

 その間に生まれたものは存在しなくなり、無くなったものは復活する」

「アレフが生き返るってこと!?」

 楽観的なマリアは手を叩いて喜ぶ。

「どこまで戻るかは神のみぞ知る…必ずしも我々にとって都合が良い結果になるとは限らない。

 それにアレフが死んだ事実も無くなるのだ」

「あぁ~頭がこんがらがってきた」

「全てをリセットしたくなること、あるよな」

「それが神様の御業……?」

「つまりやり直しってことや」

「横暴やな」



(……セーラ)



「誰かがセーラを呼んでる……」

「そうだわ、わたしには成すべきことがあったんだ」

「セーラ?」

「ごめんねマリア。わたし行ってくるね」

「えっ…どこに? 帰ってきたばかりなのに」

「まだ魔族は生きてる。倒さなくちゃ」

「いやいやっ! もうどこにも行かないで。どうしてセーラが戦わなくちゃいけないの」

 駄々を捏ねるマリア。

「絶対戻ってくるから。約束」

 優しく声をかけるセーラ。

「やだ! あたしも行くから!」

 マリアは涙に鼻水を垂らしながらセーラの服の裾を掴んだ。

「オレも行くぜ」

 カイが臆せずに続く。

「オルドさんは?」

「行かない」

「チキン天使長…」

「私にはここを護る責任があるのだ!」

「だから、守れてないやないか」

「もうっ。みんなしょうがないなぁ」


 セーラは根負けして四枚の翼を羽ばたかせる。

 マリアとカイがセーラの身体に抱きつき、バヒュンと音を立て空高く飛んでいく。

 見上げるオルドは、眩しい陽光に目を細めながら心の中で呟いた。


「さらば、神に翻弄されたる心優しき天使よ」




 ヘルキャッスル跡地には小さな空洞ができていた。

 空洞は異次元空間になっており、中の壁は臓物のように蠢いていた。

 奥で待っていたのは、横たわる異形の魔生物とその上に座る魔導師だけであった。

     

「遅かったな、ルーテ…」

「……」

「魔導師…」

「一人か?」



 ───

 セーラたちが訪れる数時間前。

 魔導師はお父様の回復と、更なるパワーアップのために騎士たちを使おうと考えた。

 今なら二匹とも手負い。抑え込むのはそう難くない。


「この前の恨みか?」

 騎士は薄笑いを浮かべて言った。

「ガル……貴様、乱心したのか」

「これからお前たちは神の贄となる。その為に産み落とされたのだ。お父様の一部となって永遠を生きよ!」

 魔導師が呪文を唱えると、魔物たちの周囲を無数の闇の手が取り囲んだ。

「やはり、あのとき完全に息の根を止めておくんだったな」

「ガアウッ! こんなもの!」

 まとわりつく闇の手に掴まれズルズルと地面を引きずられながら、二匹の魔物は異形の魔生物の身体の中へ吸収されていく。

 吸収が終わると魔生物は四つ足となり、身体には黄金色の鱗が浮き出た。

 複数の天使の顔面の中に騎士と獅子の顔が生えてくる。

 そしてただ静寂…。無音。


 ───

 


「さあ……」

 魔導師はローブを捲り干からびた片腕を晒した。

「マリア、カイ、下がってて!」

 セーラが鉞を担いで進み出る。

「我々の世界の決着をつけようか」

 老いた魔導師は視線を落としたまま、邪悪なる暗い黒球をその身に纏った。



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