帰還
二つの浮遊大陸における天使の軍団と闇の魔導師たちの戦いは熾烈を極めた。
しかし、無限に増殖する魔物に押され、天使たちの勢力は少しずつ減っていった。
最後に残った能天使パワーは天を仰いだ。
「先の大戦と同じか。しかし蘇生を行える天使はもういない」
そして最後の天使パワーは獅子の魔物と対峙した。
獅子の四つ腕の爪が大きく変形し、縦横に延びて次々と地面に刺さり、獲物を逃がさないよう囲った。
パワーはその身に残っている全聖光気を解放した。
«ディスピアード・レイ»
凄まじい質量を持った光の槍が、獅子の形成した爪の檻を突き破ってその腕二本を貫き、もぎ取った。
その間隙を縫って黄金の騎士が、光速の斬撃でパワーの身体をズタズタに斬り裂いた。
獅子と相打ちの形で最後の天使パワーは息絶えた。
「手こずったな」
「グルル……なぁに、これくらいの傷」
異形の魔生物は身体が変形し、崩壊しかかっていた。
魔導師が必死で回復を試みているが、天使の何体かは身体から分離して消滅してしまっていた。
「やはり早かったな……作り直しだ」
魔導師は負傷した獅子たちのほうを振り返った。
◆
セーラは悪の尖兵として、天使たちと戦いながらも、分裂した天の魂は夢を見ていた。
天使の鉞、アイギスの鎧、天空竜の兜、エデンの盾……天界の装備に身を包んだ勇ましい自分の姿。
そしていつも隣に有った碧い珠、今は暗い灰色となった珠を握りしめた。
珠は輝きを取り戻しセーラを三度、目覚めさせる。
視界に広がった場所は遥か天空の頂上付近であった。
セーラは夢で見ていたその二対四枚の翼で宙を羽ばたき飛んでいた。
地上を見下ろすとどこもかしこも戦争をしていた。
カイやマリア、それにオルドも、魔物たちと戦っている。
「わたしだって天使だ! 加勢に行かなくちゃ」
そうセーラが意気込むと、どこからか声が聞こえてきた。
「君にはやることがある」
声の主は姿を見せず、小さな羽虫がセーラの周囲を飛んでいた。
「セーラね」
「誰ですか? 虫さん?」
「君を呪いから解き放ち再生したもの」
「再生? じゃあわたし一度死んだの? あなたは…神様ですか?」
「私は神ではないよ。君は死してなお、新しい命を持てる器だったんだ」
よく分からない話よりも、セーラは早くマリアたちのところへ飛んで行きたかった。
「君がいま一番気にかけているものは何かな」
「マリアです。わたしはマリアが一番大切…あれ?」
「その娘の元へ行きたいんだね」
「わたし。マリアに逢いたい」
「そう…」
セーラの身体に安らかな聖光気が集まり、空間転移の魔法が発動する。
「行っておいで」
オルドの塔では、凶暴化した動物の魔物をあらかた倒して一息ついているところであった。
「また一つ、天の大陸が落ちたようだ」
オルドは悔しげに言った。
「戦力の一角が死んだことに伴い、奴らは魔生物兵器"お父様"の復活を前倒して、天界へ進行を始めたのだ」
オルドは語りながら、倒した牛の魔物を丸焼きにし食事の準備をしていた。
「しかし、希望は残された」
その火によって焼却と再生をされたかのように、新しい身体を受肉したセーラがマリアたちの前に降り立った。
「セーラ!!」
マリアが目を擦りながら声をかける。
「生きていてくれたか、セーラ!」
カイは興奮している。
「心配かけて、待たせてごめんね」
涙をためて答えるセーラ。
「そうよ! あーしがどれだけ泣いたことか…」
「その装備、それに翼、魔族の呪縛が解けたのだな」
オルドが真顔で訊く。
「抑えているの。小さく小さくなった珠はわたしの中にある」
「多くの天使たちが死んでいった。セーラよ、生まれ変わり大いなる力を手にしたお前は、これからどうする、魔を討つか」
「わからない。けど少なくともわたしは天使として在りたい。ねっマリア♡」
「うん。セーラ♡」
「あっオレが蘇生呪文で……」
言いかけたカイの言葉を遮るようにマリアが割り込んだ。
「カイは箱庭を使って戦うのよね」
「箱庭?」
セーラが訊ねる。
「いや、全然あれ効果ないんだ。オレじゃ使えない」
半べそで答えるカイ。
「あれを扱えるのは神だけだ」
オルドは自嘲気味にため息をついて続けた。
「このままいけば、恐らくリセットされるであろう」
セーラの帰還で明るくなった雰囲気をオルドはぶち壊し、咳払いをしながら、小さなボソボソ声でそう語った。




