セーラ
気がつくと彼女はそこにいた。
ふとあたりを見渡す。
(ここはどこだろう)
そこは広々とした草原であった。
だが見渡す限り人がいそうなところはない。
彼女は見覚えのないこの土地で、どこへ向かって歩いて行けばいいのか迷っているうちに、ふと自分が何者かすらわからないことに気がついた。
(私…誰?)
だが、彼女の記憶のどこにも自分の名前はなかった。
自分が何者か、なぜここにいるのかが抜け落ちている。
思い出せるのは薄暗い城で自分の親らしき闇に包まれた魔と争い、負傷し、逃げ出したこと。
それだけであった。
(うんち)
催した彼女は自分が持っている物を調べてみた。
しかし黒い珠が一つあるだけで、手掛かりになりそうなものは何もなかった。
自分のことを思い出すのをあきらめた彼女は、長く美しい黒髪をかきあげてとりあえず歩き出した。
そこに居続けることに耐えられなかったのである。
ところが運悪く三匹のももんじゃに遭遇してしまった。
ももんじゃはある程度の武具さえ装備していれば、それほど恐ろしい敵ではない。
だが彼女は何の武器も防具もなく、ただの布の服すらない全裸というありさまであった。
彼女は危険を感じ逃げ出そうとしたが、ももんじゃに回りこまれてしまった。
ももんじゃたちは彼女に容赦なく攻撃を加える。
彼女のHPが徐々に減って行く。
しかし彼女にはなす術がなかった。
彼女が死を覚悟した瞬間、何者かが戦闘におどり出た。
一人は剣を持った大柄な戦士風の男、もう一人の男は魔術士のいでたち、そして三人目は法衣をまとった女性であった。
三人は瞬く間にももんじゃたちを倒してしまった。
「あなた大丈夫?」
法衣を着た女性が話しかけてきた。
「このあたりは弱い魔物しかでないけれど、その装備じゃ一人で出歩くのは無謀ね」
そう言いながらその女性は彼女にヒールをかけてくれた。
「あたしはマリア、この魔術士はカイ、そしてその剣士がアレフ」
「あ、あの…助けてくれてありがとうございます」
「君の名前は?」
彼女は事情を説明した。
「えー! 記憶喪失で自分の名前も思い出せないの?」
「だったらオレたちの村に来て、ゆっくり思い出せばいい」
「ああ、そうだな」
「じゃあ名前が必要ね。あたしがつけてあげる。えーとね、セーラってどうかな?」
「ありがとうございます。いい名前ですね」
「それじゃセーラ、オレたちの村へ行こうぜ!」
かくして彼女はセーラという名前をもらい、彼らの村へ向かうことになった。
村に向かいながら一行は話をしていた。
「何か思い出すような物は持ってないのか?」
「ええ、唯一持っているのがこの黒い珠だけなんです」
「黒い珠…いったい何に使うものなんだ?」
「それが…全然わからなくて…」
「うーん、まあ気長にやるさ」
やがて一行は目的地についた。
「ここがオレたちの村、アルメリアだ。旅立ちの村とも呼ばれている」
「旅立ちの村、ですか?」
「そう。この村にははるか昔魔王を倒すため、勇者がここから旅立っていったという伝説があるんだ」
みんなが入り口で話をしていると、マリアがセーラを街の中に引っ張って行った。
「さあ、中に入りましょう。セーラ、村を案内してあげる!」
「やけに張り切ってるな」
「マリアは年の近い女友達がいなかったからうれしいんだろう」
セーラはマリアの家に滞在することになった。
マリアは村長であるジムラの孫である。
その大きな屋敷にセーラは驚いた。
屋敷の中を見て回るうち、ある部屋の壁に大斧が唐突に飾られているので眺めてみる。
「その斧、あたしたちは家宝の斧って呼んでるんだけど、今まで誰も装備できた人がいないんだって。だからどのぐらいすごい斧なのかわからないの」
興味がわいたのかセーラはしばらくその斧に見入っていた。
「さてこのぐらいで大丈夫ね」
「え?」
「セーラの装備を一通り用意したの」
「マリアさん…いろいろありがとうございます」
「マリアさんじゃなくてマリア! なんか他人行儀で悲しいな」
「あの、いえ、そんなことは…」
「くすくす、冗談よ。それより本当に友達として接してくれるとうれしいわ」
「は、はい!」
「それじゃお風呂にでも入りましょうか」
そのころアレフとカイが話をしていた。
「おい、アレフ。彼女、何者だ?」
「セーラか? そんなことわかるわけないだろう」
「だけど何か引っ掛かるんだ」
「カイ、おまえは心配性だな。そんなに心配ならずっとセーラを見張っているか? ついでにマリアも見張れるぞ」
「な、何バカなこと言ってるんだ! とりあえず何事も気をつけた方がいいと言ってるんだよ」
「わかったわかった。俺も気をつけるよ」
だが二人が予想だにしないことが、この平和な村に起こるのであった。
それからカイはいつものようにマリアの風呂を覗きに行った。
覗き穴から見える脱衣所にはセーラも一緒にいて、マリアだけが全裸であった。
カイはますらおを握りしめてマリアの股間を凝視した。マリアは隠毛が濃かった。
(たまんねぇなあ…マリア)
「あら、どうして服を脱がないの? セーラ」
「そ、その…」
「女同士なんだから恥ずかしがることないわ」
マリアは巨乳をぶるんっと震わせながらセーラの衣服を剥ぎ取ろうとしていた。
「マリアさん、やめてください~!」
「いいから脱ぎなさい!」
「ああっ」
服を破かれてしまったセーラの股間には、ますらおが猛々しく屹立していた。
胸と隠部をサッと手で隠すセーラ。
「セーラ、それ…」
カイは射精しながら思った。
「やはり。あの女は何かある」
その頃、部屋で映画を観ていたアレフはただならぬ気配を感じていた。
「なんだ? やばいモンスターが街に入ったか?」
画面を一時停止してパンツを履き、装備を整える。
「ちっ! 珍しくカイの予感が当たったのか? まさかな…」
ドアを蹴破って勢いよく外に飛び出すアレフ。
平和で暖かな陽はもう暮れかけていた。
脱衣所では全裸のままのマリアが目を血走らせてセーラに詰め寄っていた。
「あなた、男の子だったの!?」
「……」
「でも胸もあるわね」
「あ、あんまり近くで見ないで」
「無駄よ。乳もちんこも手からはみ出して隠し切れてないわ」
「みんなには内緒にしてください…」
涙ぐむセーラ。
「セーラ。あなた魔族ね。抱いて」
「ごめんなさい…私わからんのです。何も覚えてないんです…えっ?」
「内緒にしてあげるから、あたいを抱いて」
≪メイス≫
ガチャリと鍵の開く音がして、ノックもせずカイが普通に入ってきた。
「そこまでだ。仔猫ちゃんたち」
(もう少し覗いていたかったが仕方ない)