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熱気球

 魔物たちの住む古城では、強力な部下を立て続けに失った事でいくぶん動揺していた。

 ヘドロスライムは不在であった。


「ガルガル…あのスライムはどこに行ったのだ」

 獅子の魔物は苛立ちを隠さずに聞いた。

「彼女は人間たちに恐れをなして逃げたんじゃないかな、バルガもいないし」

 黄金の騎士が答える。

 老いた魔導師は祭壇を仰ぎ、呪文を唱えて儀式を行っている。

「おい。お父様はいつになったら復活なさるんだ?」

 騎士がぶっきらぼうに声をかけると、魔導師は儀式を中断した。

「魔物たちの絶対量が不足してきている」

 探るような目つきで騎士が呟く。

「あと少しだ。しかしまだ天使の血が足りぬ」

 魔導師が答えると獅子の魔物が割って入った。

「今度はオレが一人で行くグルル」

「そうだね、あの半天使の実力は分かった。魔導師くんには悪いが、キミがカタをつけてもいいだろう」

 騎士の言葉に魔導師がピクっと反応する。

「まったく、天使どももその辺を歩いてりゃもっと楽なんだがな。ガルッ」

 獅子がそうぼやき、騎士がハハハと笑う。


(いよいよか…)


 魔導師は一点を見つめたまま何も語らなかった。


 セーラたちはレムリア城の城下街に来ていた。

 この街には空飛ぶ装置の研究をしているトムという男がいるらしい。

 四人はその男を訪ねてみた。

 トムはセーラたちを歓迎し、熱気球の説明をしてくれた。


「こう、ろうそくの火の上に紙の袋をかぶせるだろ。すると袋が上へ飛んでいくんだ。この原理を応用して気球を作ろうと思うんだけど、こいつには欠点があってね。紙や布は燃えやすいから危ないんだ。ああ、どこかに燃えなくて軽い布はないものか」


 燃えない布と聞いてマリアは水の羽衣を思い出した。

 あれの布地を使えば気球が作れるのではないかと思ったのである。

 しかし布地がどこで入手できるのかはわからなかった。

 四人は気球製作を手伝うべく、調べてみることにした。


 とりあえず織物の村ロマーナに行ってみる。

 村の人に尋ねると、水の羽衣はエルフの里でしか入手できないとのことであった。

 しかし村の人もエルフの里がどこにあるのかはわからなかった。


 一行が出かけようとすると、村長が声をかけてきた。

「お主たち、エルフの里に行ったらこのエルフのルビーを返してきてもらえないだろうか。これは昔人間とエルフのいざこざがあったとき、人間が持ってきてしまったのだ。エルフの宝はエルフに返すのが筋だと思う。お願いだ。頼まれてもらえないか」

 セーラは快く引き受けた。


 一行は以前妖精のリサに会った花畑に来た。

 マリアが大声でリサを呼んでみる。

 なんとリサが現れた。

「何か御用でしょうか?」

「リサ、ああよかった。突然だけどあなたエルフの里の場所を知ってる?」

「ええ、知っていますがご案内しましょうか?」

「本当に!? お願いするわ」

 あまりにも簡単に事が運んだので拍子抜けしながらも、一行はリサにエルフの里まで連れて行ってもらった。


 エルフの里は近くの森の中にあった。

 まずエルフの女王に会い、エルフのルビーを返す。

 そして防具屋に行くと確かに水の羽衣を売っている。

 誰が織っているのか聞くとエルフのアンという女性であるとのこと。


 早速アンを探し出し、布地を織ってくれるか聞いてみる。

 素性を話すと彼女は快諾してくれた。

 しばらく時間がかかるといい、アンは織り始める。


 せっかくなのでマリアは水の羽衣を買ってみた。

 アレフも竜の装備を買い、身を固める。

 これで炎と吹雪に対する耐性ができた。

 水の羽衣を着たマリアの艶やかな尻を見て、カイは思わず触ろうとした。

「何するのよ!」

 マリアに拒絶されたカイは自分も水の羽衣を着て我慢しようと考えた。

 察したマリアは全力でやめさせようとしたが、彼の熱意に負けてしまった。


 三日後、ようやく布地は完成した。

 聞けばアンは来月結婚するのだという。

 しかも相手は人間だそうである。

 一行はアンに感謝と祝福の言葉を述べ、レムリアに戻りトムに布地を届けた。

「おお、ありがとう! これが水の羽衣の布地か。これさえあれば気球が完成するだろう。君たちすまないが、明日またここに来てもらえないか」


 翌日トムのところに行くと気球がある。

 感謝の印に第一号機をプレゼントしてくれるのだそうだ。

 セーラが素朴な疑問を投げかけた。

「あれ? ろうそくはないんですね」

「ああ、実際にはろうそくじゃなく燃えるガスを使うんだ。それが一番軽いからね」


 トムはガスを燃やし、一行は乗り込んだ。

 気球は徐々に空へ舞い上がり、手を振るトムの姿がどんどん小さくなっていく。

 セーラは熱気球を手に入れた!

 これがあれば、今まで通れなかった岩山の上を飛び越えて行ける。

 また一つ世界が広がったのであった。


 四人はしばらく気球で空の旅を楽しんだ後、レムリアへ戻ってきた。

 すると城の中が何か騒がしい。

 近くの兵士に聞いて見ると、メイ王女が何者かにさらわれたとのこと。

 また別な者に聞くと、姫をさらった輩は東の森の方へ逃げていたという。

 一行はメイ姫を助けに向かった。


 そのころ誘拐犯の二人組は東の森の中にいた。

「へへっ、意外と簡単だったな」

「魔物からは半金をもらいやしたし、後はこのお姫さんを人質に城から金を引き出させれば大金持ちでやんすね」

「さて、残りの半金を渡しに魔物が来るはずだが……」


 話をしているとアークデーモンが空から降りてきた。

「おまえたちご苦労だったな」

「へへっ、それじゃ残りの分を……」

「おまえたちにはこれをやろう。遠慮せず持っていけ」

 そう言うとアークデーモンは炎を吐いた。

 普通の人間である二人にはひとたまりもなかった。

 そしてアークデーモンがメイ王女を抱え空へ飛び立とうとしたところ、セーラたち一行と鉢合わせた。

 セーラの斧がアークデーモンの翼を引き裂いた。


「き、きさま、俺の翼を!」

「なぜその二人を殺したの」

「用が済んだから消えてもらっただけだ」

「お姫様をさらってどうするつもり?」

「それはそのうちわかる」

「それはどういう……」

 話してるうちに、城の方からドーンという大きな音が聞こえてきた。見るとゴーレムや魔物たちが城を襲っている。


「ハッハッハッ、人間に王女を誘拐させたのは陽動だ。おまえたちにはもっと犯人を探し回ってもらうつもりだったのだがな。仕方がない。後の時間稼ぎはオレがやってやろう」

「みんな! お城に向かって!」

「おまえらの相手はオレだと言ったろう」

 アークデーモンは爆裂呪文を唱えた。

 だがセーラは引かない。


 アークデーモンは今度は激しい炎を吐く。

 エンシェントマターの装備によって敵の炎や呪文攻撃が軽減され、セーラはじりじりとアークデーモンに近づいていく。

「そ、そんなばかな!」

 アークデーモンがひるんだ隙に、セーラは斧で敵を引き裂き肉塊にした。

 アークデーモンを倒した。


 四人はメイ姫を連れてレムリア城に戻ったが、時すでに遅く魔物たちは去った後であった。

 王が無事だったので話を聞くと、魔法気の指輪を奪われたという。

 魔法気の指輪とは天界の聖なる力である聖法気を魔の力・魔法気に変えるものらしい。

 魔物たちが何のためにその指輪を持って行ったのかはわからない。

 だが魔物たちの父たる存在に使うためであることは想像できた。

 おそらく近いうちに敵はセーラを狙って大掛かりな襲撃をしてくるに違いない。

 その前にこちらから敵の本拠地を襲った方がいいのではないだろうか。


 幸い気球が手に入ったこともあり、一行は魔物の本拠地を探しに出かけようとした。

 ところが隣の大陸にある街が、かつてないほど強大な力を持った獅子の魔物に滅ぼされたという知らせが入ったため、セーラたちは急きょその街に向かうことにしたのである。



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