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遺言

 一行はハムルという村にたどり着いた。

 中に入ると子供たちが花畑で遊んでいる。

 のんびりとした村のようである。

 村の奥に行こうと歩き出したカイは、何かにつまずいて転んでしまった。

「いてて……」

 見ると何かが地面に刺さっている。

 それは錆ついたカギであった。

「何だこの古ぼけたカギは」

 カイは錆びたカギを思い切り投げ捨てた。


 情報集めに村人たちの話を聞いてみる。

 ある女性が言うには、夜になると近くの廃屋の前に犬のような魔物が現れるそうである。人は襲わないものの気味が悪いので、早く退治して欲しいと言っていた。

 また、ある老人からも詳しい話が聞けた。

「昔ゴンじいと呼ばれる老人が、犬のペスタとこの村に住んでいたのじゃ。しかしゴンじいは人嫌いで、ほとんど外には出てこんでな。噂では何か宝物を持っていて、それを守っているのじゃろうと言われておった。あるときゴンじいは亡くなったのじゃが、それ以来ペスタが宝物を守るように、家の玄関の前に座っていたんじゃ。今ではそのペスタも死んでしまったがのう」

 一行は礼を言って老人と別れた。

 さらにゴンじいには孫がいて、今はどこかに引き取られたという情報も得られた。


 カイが切り出す。

「今までの話をどう思う?」

「魔物ってやっぱりペスタじゃない? だとしたら退治するのはかわいそうね」

「問題はゴンじいが何を守っていたかだ」

「それじゃ、これからゴンじいの家を見に行ってみるか」


 だがゴンじいの家は既に廃屋になっていた。

 一行は中に入ってみる。

「うわっ 蜘蛛の巣だらけだ」

「床もごみがいっぱい」

 一行は家の中を念入りに探したが、何も見つからなかった。

「何もなかったな」

「噂は噂ってことか」

「きゃっ。体中蜘蛛の巣だらけ! セーラ、お風呂行きましょ!」

「はーい!」

「アレフ、オレたちも……あれ?」

 アレフはどこかへ行ってしまっていた。

「まあいいや。後から来るだろ」

 三人は宿へ向かった。


 そのころアレフは聞こえてくる悲しげな歌が気になり、花畑の方へ来ていた。

 そこには花を摘んでいる、儚げな美少女がいた。

 細絹のような金の髪を伸ばし、その肌は透けるように白い。

 アレフに気づいた少女が話かけてきた。

「こんにちは。わたしはレナ。あなたは?」

「オレはアレフ。別の大陸のアルメリアという村から来た旅の者だ」

「アルメリア……それではあなたも……」

「え?」

「あ、いえ。ごめんなさい」


 近くで子供たちが遊んでいる。

 しかしその一人が転んでケガをし、泣きだしてしまった。

 レナはその子供にプチヒールをかけてやる。

 ケガはすぐ治り、子供はレナにお礼を言ってみんなのところへ駆けていった。

「君は僧侶の魔法が使えるのか」

「ええ。でもわたし、二つしか呪文が使えないんです」

 アレフはもう一つの呪文が何か聞こうとしたが、それより先にレナの叔父が彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、ごめんなさい。わたし行かなきゃ」

 レナは自分の家へぱたぱたと駆けて行き、アレフはその後ろ姿を眺めながら思った。

(……足速いな)


 しばらくしてアレフは宿に戻った。

「どこに行ってたんだ?」

「ああ、ちょっとな」

「そういえばマリアやセーラと話したんだが、今夜はもう疲れたので明日また調べようと言ってたぞ」

「家を守っている魔物の件か。じゃあ明日行こう」

 横になりながらアレフはレナのことを考えていた。

レナの憂いを帯びた表情で歌う悲しい曲が頭を離れなかった。


 さて朝になったので、一行はまず買い物に出かけた。

 途中偶然レナに出会う。

「やあレナ」

「あ、アレフさんこんにちは」

「今日はどうしたんだい」

「ええ、叔父に買い物を頼まれたので」

 他の三人は顔を見合わせた。

「アレフ君、オレたちのことも紹介してくれないかな?」

「ああ、左から順にセーラ、マリア、カイだ」

「レナです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね」


「ところでレナ、君は夜になると廃屋の前に魔物が出るという噂を知っているかい?」

「はい。だけど怖いので見たことはありません」

「実はオレたち今日の夜その魔物を確認しに行くんだけど、よかったら一緒に来てくれないかな?ぐへへ…」

「おい、カイ!」

「だってオレ達だけで行くよりも、地元の人にも確認してもらった方がいいだろ」

「う、うむ……」

「わかりました。わたし一緒に行きます」


 夜になるのを待ってセーラたちは廃屋へやって来たが、魔物はどこにも現れなかった。

「おかしいですね。毎日誰かが見たという話をしていたと思うのですが……」

「実際は毎日出るわけではないのかも知れない。しばらく通って様子を見ることにしよう」


 一行は毎晩廃屋の様子を見に行った。

 だが件の魔物は一向に現れなかった。

 その間、四人はレナにいろいろ街を案内してもらった。

 レナも同年代の友達ができ、嬉しそうであった。


「そういえば村の隅に頑丈そうな蔵があるけど、あれって何がしまってあるんだい?」

「あれは開かずの蔵なんです。なんでも普通はとても手に入らないようなものがあそこに保管されているという言い伝えがあるのですが、カギがないので中を調べられないのです」

「蔵を壊してみたら?」

「ええ、それも試したそうです。でもとても頑丈で穴さえ開けられなかったとのことです」


 そんなある日、再び魔物が現れたという話が聞こえてきた。

 その夜、四人はレナを連れて廃屋へ向かった。

 家につき確認すると、確かに一匹の魔物が家の前にいる。

「あの魔物に見覚えは?」

「いえ……」

 だが魔物はこちらに気づき向かってきた。

「危ない!!」

 しかし魔物は犬の姿になり、レナの顔を舐めまわした。

「ペスタ!?」

 レナは驚いたが、犬は嬉しそうにしっぽを振っている。

 魔物は犬のペスタだった。


「ペスタ……あなた魔物になって、この家を守ってくれてたのね」

 ペスタはオォンと鳴くと家の中に入って行く。

 それを一行は追って行った。

 ペスタはある部屋で立ち止まり穴を掘り始めた。

 なんとそこには隠し階段があった。

 階段を降り部屋に入ると宝箱があり開けてみる。

 中には魔力を帯びたカギが入っていた。

 レナはそれを手にとってみる。

 するとペスタはうれしそうに一声鳴くと消えて行った。

「ペスタ! ペスター!」

 しかしレナの声はもうペスタには届かなかった。


「ぺスタはこれを君に渡すために、この家を守っていたんだろう。ところでよければ、なぜ君がペスタを知っていたのか教えてくれないか」

 一同はレナの話を聞こうと身を乗り出すのであった。

 レナは話を始めた。

「この家に住んでいたゴンじいという人は、わたしのおじいさんなんです。わたしはこの家に生まれました。そしてわたしが少し大きくなったとき子犬のペスタがこの家に来ました。

 わたしは毎日ペスタと遊んでいました。そのころはまだおじいさんやわたしの両親もいて一番幸せなころでした」


 一行はレナの話に聞き入っている。

「でもその幸せは長く続きませんでした。ある時わたしの両親が魔物に襲われたのです。わたしにはやさしかったおじいさんも、それからはあまり他の人とは話さなくなりました。

 そしてわたしは今の叔父さんのところへ引き取られました。その数年後おじいさんは亡くなり、ペスタも死んでしまいました」

「ぐすん…」

 もうセーラは泣き始めている。


「宝物の噂があったので、叔父さんは家中を探しました。だけど何も出てきませんでした。でも宝物を狙う泥棒たちに家を荒らされ、このような廃屋になってしまいました。それからいつしか夜になると魔物が出るようになったのです」

「それがペスタだったのね」

「でもこれは一体何のカギなんだい?」

「ゴンじいがこれだけを守っていたとは思えんな」

「そういえば、わたしが小さいころおじいさんによく連れて行ってもらった場所があります。そこに何か手掛かりがあるかもしれません。よろしければ明日ご案内します」

「ありがとう。お願いね」


 翌朝、出かける前にふとアレフが思いついた。

「そうだ。あのカギで開かずの蔵の扉が開かないだろうか」

 レナはアレフにカギを渡した。

 アレフは蔵を開けようとしたが、魔法のカギでも蔵を開けることはできなかった。

「やはりそううまくはいかないか」

 アレフは舌打ちをして諦めた。


 それから一同はレナの案内で丘にやってきた。

 大変眺めがよいところである。

 セーラたちがあたりを探すと、祠が見つかった。

 中には格子扉があり先に進めない。

「こんどこそこのカギが……」

 レナは魔法のカギを使った。

 なんと格子扉が開いた。


 一行は中に入り、さらに階段を降りる。

 下の階には宝箱があった。

 開けてみると、中には煌びやかな鎧が入っていた。

そのとたん、セーラの碧い珠が輝き出し、鎧も光り始めた。

「ゴンさんはこれを守っていたのね……」

「セーラさん、その光は……?」

「天使の装備が近くにあると珠が光り出すの」

「それじゃあなたが……」


 宝箱の中には手紙が入っていた。

『レナ、おまえがこの手紙を読んでいるということは、おそらく私はこの世にはいないだろう。おまえには話していなかったが、この鎧は私の家に代々伝わるアイギスの鎧なのだ。

 私はこれを守っておった。私からの最後の願いだ。おまえもこの鎧を守り、天使様が現れた時は、この鎧を差し上げてくれ。頼んだぞ』


 手紙を読んだレナは呟いた。

「おじいさん……わかりました」

 そしてセーラに話しかける。

「アイギスの鎧は天使様しか装備できないと聞きます。セーラさん、この鎧を装備してみてください」

 セーラはうなずき鎧を着込む。

 光り輝く鎧はセーラの体に合うよう変形した。

 セーラはアイギスの鎧を手に入れた!

「これでおじいさんやペスタも浮かばれると思います。その鎧を皆さんの旅に役立ててください」


 セーラたちはレナを送るためハムルへ向かった。

 だが途中、村の方向から黒々とした煙が立ち上るのを見た一行は、いやな予感がして村へと急いだ。

 村に着いた一行は愕然とした。

 なんと村は全滅していた。


「叔父さん!」

 レナが叔父を探すが、あたりには何も残っていない。

 すると突然後ろから声が聞こえた。

「遅かったな。待ちくたびれたので村を焼いておいたぞ」

 見るとだらしなく舌を垂らした大型の巨人がいる。

「俺の名はゴルドラだ。天使製の鎧が見つからんのでおまえらを泳がせておいたところ、本当に見つけて来るとはな。手間が省けた礼にこれをやるぞ」


 ゴルドラはいきなり襲いかかってきた。

 ゴルドラはよだれを振りまいて叫んだ。身の毛もよだつような大声が辺りに響き渡る。

 天空竜の兜が光の膜を作り出し、セーラを守る。

 だがセーラ以外の3人は身体が麻痺して、動けなくなってしまった。

 更にゴルドラの瞳が妖しく光り、セーラも深い眠りに落ちてしまう。

 そしてパーティーの中に攻撃できるものがいなくなった。


 魔物の攻撃はまだ続く。

 ゴルドラは異界魔法を唱えた。

 天空から流星が降り注ぎ、敵味方全員のHPが1になってしまった。

 自分まで瀕死になってしまったゴルドラはヒールを唱えた。

 セーラたちの命はもはや風前の灯火であった。


「フハーハッハッハ、これでもう何もできまい。次の攻撃でおまえたちは全滅だ!」

「もう……ここまでなの? どうしてこんな卑劣な魔物に勝てないの?」

 悔し涙を浮かべ、マリアが叫ぶ。

 その瞬間、レナが戦闘におどり出た。


「わたし、自分がなぜこの呪文を使えるのかずっと不思議に思っていました。でもやっと今わかりました。みなさんをここで救うためだったのですね」


 レナは呪文を唱え始めた。

 その呪文にカイとマリアが反応する。

「マリア! この呪文は!?」

「レナ! やめて! やめてー!!」

「ええ? ど、どうしたんだ!?」

 マリアとカイはレナを止めようとしたが、体が麻痺して動けない。

 しかもセーラはまだ眠っている。


「誰か! 誰か早くレナを止めて!」

「小娘、目障りだ。先に片付けてやる」

だが、ゴルドラの体にいつの間にまとわりついた黒い影が、ゴルドラの動きを封じた。

「な、何だこれは!? うぐっ」

 ゴルドラは沈黙した。


「みなさん、短い間でしたが仲よくしてくれてありがとうございました。本当に楽しい毎日でした。これからのみなさんの旅に神の御加護がありますように」

 レナは祈るように、静かに呪文を完成させた。


«テスタメント»


 ゴルドラは瞬時に凍りつき砕け散った!

 そしてレナは力尽きた…………。


 全員の麻痺と眠りが解けた。

 アレフがマリアに詰め寄る。

「マリア! どうにかして助けられないのか!?」

「以前おじいさまから、千年に一度咲くという世界樹の花の話を聞いたことがあるわ。それを使えば死んだ人を生き返らせることができるって」

「それはどこにあるんだ! ちくしょう!」

 マリアは首を振った。

「それじゃあ、今すぐ世界樹の花を探しに行こう!」

「少し落ち着けよアレフ。おまえらしくもない。どこにあるのかさえわからないのに、千年に一度の花だぞ。今年が咲く年じゃなかったらどこにもないじゃないか」

 アレフはうなだれて呟いた。

「あんな美少女だったのに…」

 一行はあきらめるしかなかった。


 セーラはあまりにも悲しすぎる結末に涙を浮かべた。

 そしてレナが天国で家族やペスタとみんなで幸せに暮らせるよう祈るのであった。

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