新しい、うわさ
夏のホラー2024投稿用
〜とある学校の月曜日の朝〜
「おはよー! ねえねえ、聞いて聞いて!」
「なに?」
「朝っぱらから元気だね。 なに、土日でなにか良いことでも有った?」
「そうそう、そうなの! 実は秋物を探しに行ったショッピングモールでさぁ!」
「ああ、もう秋物を買わないといけない時期かぁ」
「別にギリギリで良くない?」
「いやいやいや! いい女は流行の先取りをしないとっ!」
「まあ、乗り遅れると周りから凄い目で見られるからなぁ。 面倒だよね」
「別にギリギリでセールするまで待って、安く買っても良いでしょ」
「ダメダメ、ダメなの! その頃に買うと、欲しいと思った物が売り切れてたり、買おうとした服のピッタリサイズだけ無いとか言われたりして涙を見ることになるんだから!」
「ああ、それはある」
「安く買うのだから、その位のリスクは受け入れてるって」
「私は無理! だから早め早めに買うの!」
「アンタはそうだよね」
「うんうん」
「でね、そのショッピングモールで物色してたんだけど」
「オトコを?」
「わー、肉食系だ」
「違うっ!! でも近い!!」
「やっぱり肉食系じゃん」
「貴女はいっつも男欲しいって愚痴ってるもんね」
「うるさいっ! でね? 午前中から探して、お昼ごろにお腹が減ってモールの中のお店で食べたんだよ」
「金持ちがいる」
「セールを狙って買う学生に外食できる余裕は無いから、羨ましい」
「予想外の僻みがキタッ!? いや、ね? それからお店を出たら、真正面のベンチに沢山の紙袋を持たされてるカッコイイ男の人が座ってたのっ!!」
「え? ベンチに沢山の肩にカラスを乗せた冷たいオトコの人が座ってた?」
「なにその怪談。 しかも真っ昼間のお昼頃、白昼堂々現れるとか……相当な悪霊よ、それ」
「ちーがーうっ!! どんな聞き間違え方をすればそうなるの!? て言うかわざと聞き間違えるにしてもひどすぎるっ!!
それでね、その男の人に見とれてぽけーっと見てたんだけどね? 男の人が私に気付いたのか、少しづつ顔が赤くなってきて、それがもーーーっ! 可愛かったの!! カッコイイのに可愛いって最強過ぎでしょっ!!」
「なるほど。 アンタが警戒してるのに気付いた冷たいオトコが、少しずつアカくなったと」
「ああ、その人は諦めた方が良いわね。 冷たくて共産思想に染まったなんて、民主主義国の人間と絶対に意見が合わないわ」
「怪談っぽい聞き間違いしてたのに、今度は急に別の危険な話にしないで!!?
それでね? お店の入口近くで立ってたら邪魔だって思ったから、邪魔にならない所を探して男の人を見てたの」
「アッチはアッチでヤバいけど、アンタはアンタでストーカー気質か。 ヤバすぎでしょ」
「あれ? サイコホラー話なの、これ」
「ち・が・う! それでね、男の人を見てたら今度はきれいな女の人が来て、男の人に話しかけたんだ!」
「話しかけたセリフは「悪霊退散」と見た」
「アカい霊……そんなのが実在していたのね。 これは世紀の大発見よ。 そしてそれを祓える女性の存在も凄いわ」
「いつまで引っ張るの、その聞き間違い!!
えっとね? その2人があまりにも自然な感じだったから恋人だと思っていたんだけど「待った?」「トイレが長いよ姉さん」とかって聞いてね?」
「「まだ?」「だれが成仏するものか!」って会話だったのか」
「霊との会話が聞こえたって事は、霊媒体質を持っていると……? これはこれで凄いのでは?」
「なに!? その無理な聞き間違いは!?
じゃないのっ!! そのお姉さんが「あんたは彼女を作らないの? 作らないといつまでたってもこのお姉様の荷物持ちよ?」とかって話ててっ!!!」
「ふーん「キサマはなぜ成仏せん。 成仏せねばこの責め苦はいつまでも続くぞ」と言ったと」
「その男性はかなり強い悪霊……地縛霊?なのね。 そんなに強い霊なら、この辺を通るだけで寒気がしそう」
「ねえっ! なんでそんなに心霊現象にしたがってるのっ!? いや確かにあの辺はミストクーラーとか空調とかがあって、肌寒い時はあるけどっ!
そうじゃなくてね? 私は今度またショッピングモールへ行った時に、また見かけたらアプローチしたいから、協力して欲しいって言いたいの!!」
「そう。 アンタがその強力な地縛霊を除霊しにアタックするから手伝えと。 ヤジウマ位ならしてあげる」
「除霊しに行くなら、除霊グッズをいっぱい身に着けていかないとね。 御札に数珠に十字架、消臭除菌スプレーにお香。 他にもいっぱい」
「どんな不審者だよ!? そんな格好でショッピングモールへ行ったら警備員さんに追い出されるわっ!!
いや、今私が言いたいのは、こんど一緒にショッピングモールへ行こうってお誘い!! 変なおふざけしなければ、私はこんなに疲れないのにぃ!」
「まあまあ。 アプローチがロコツで惨めにフラレる所なら見てあげるから」
「別に構わないわ。
それでさっきの話をまとめるけど、ショッピングモールのフードコーナーに凄く強い地縛霊がいて、近寄るだけで寒気がするから気を付けろっ。 寒気に気付かないと呪われるぞって事で良いわね」
「ぜんぜん違うっ!!!」
この3人娘達のじゃれ合いを聞いていたクラスメイトにより、話が噂として一気に広まった。
クラスメイトも面白半分で広めていたのだが、広めている内に面白部分が抜け落ち、その代わりに余計な尾ヒレ胸ビレ腹ビレが付いて行く。
地元のショッピングモールのフードコーナーには、近寄るだけで寒気がする強力な地縛霊がいると。
その地縛霊に呪われると恋人が出来なくなると。
既に恋人がいる場合は、別れさせられてしまう呪いになると。
この噂は学校内にとどまらず、最終的にはショッピングモールの利用者にも届き、モールの利用者数にも少しの影響を出す程になったと言う。
そこまでになってしまえば最初に広めたクラスメイト達は、元はこうなのに……なんて口に出せる空気ではなくなっていて、真相を舌に乗せることすら出来なくなる。
そうなると噂の発生源を調べていた者たちからすれば、口に出来ないナニカが本当にあったのだと勘違いし、余計に信憑性が増す。
増した信憑性のまま、偶然にも噂通りの事が起きれば、噂は本当だったとチカラを増す。
増したチカラはウソや冗談を飲み込み、全てを真実へと塗り変えて行く。
噂のチカラは、バカに出来ない。