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7章

朝になり九条良高は久々九条家へ戻っていった。

絹に朝食の声掛けをしたが、やはり食堂には来ないと。

母が亡くなった部屋の向かいの部屋に居続ける方が

恐いんじゃないだろうか?

違うのか?

1階に降りて来ることが恐いのか?

なんで?


食事をタエさんから受け取り、2階の絹の部屋の

扉を叩いた。

「誰?清?」と確認してくる。

前は、こんな事聞かれなかった。

豊が亡くなってからだ!


「はい、清です。朝食をお持ちしました。」

「いいわ、入って」

良高が居なくなって取り乱すかと思ったが、

実家に戻る前にちゃんと話したのだろう。

結婚の許可を貰うために九条家に戻ると。

絹は、かなり落ち着きを取り戻してきていた。


「私、会社の事も家計も分からないから

清がちゃんと良高様に引き継いでね。

金庫の鍵も清が預かってるんでしょ?」

良高め、自分で見つけられなくて絹を使い出したか!

「はい、承知しました。

あんな事件があって不用心なので、鍵は銀行の貸金庫と会社の方に分けて預けています。」

「そうだったのね。確かに誰かが我が家に侵入したんだものね、そうか…」

絹は水の入ったグラスを見つめて考え込んでしまった。


また警察から呼ばれるかもしれない。

よぼど辛かったのだろう。

「あの…事件直後でしたので警察まで行きましたが、

イヤなら屋敷まで来て貰うよう伝えておきますよ。」

「えっ、そんな事できるの?」

「はい、任意同行ですので、絹様の任意が無ければ

警察がこちらに来ます。」

「そういうものなのね!

私、本当にモノを知らなくて…こんなので良高様の

花嫁になれるかしら?」

照れながらも頬を染めて…可愛い!

可愛い!


同じ19歳だが、絹は深窓の令嬢なのでとにかくウブで可愛い!

だけに、あんなスレた男に良いようにされるのは

納得いかない!

今朝も早朝ゴソゴソ清の部屋を探っていたのは分かってた。

見つけられなくて残念。

しかし、絹を使ってくるとは!小賢しい!


豊も亡くなってしまって、血縁は2人だけになってしまった。

何だか清の中で、絹を守らねば!みたいな意識が徐々に芽生えてきた気がする。


「捜査状況のお知らせも兼ねて、お聞きしますね。」

取り調べの話は、早々に来た。

清が、絹の体調不良を理由に任意同行を断ったので

屋敷に刑事達が2人組で来た。

絹にだけ話が聞きたいようだったが、それも医者の診断書を見せて

良高と清も同席する形にしてもらった。


「使われた銃には故山田氏の物と思われる指紋しかありませんでした。

消音用サプレッサーの入ってた机や引き出し等もご家族の指紋しかありません。

確かにずっとピアノを引かれていたんですか?」

「はい、あの時間はピアノを毎日引いてます、

小さい時から。

途中でサボると母に怒られてしまうので。」

「では、夫人の部屋の方で変な物音は聞こえませんでしたか?」

「いえ、ずっと静かでしたが、良高様が車で帰宅されたくらいから鼻歌が小さく聞えてきました。

クローゼットを開けしめする音や。

ピアノを引き出してからは集中してたので分かりません。

ただ引き終わったら、母の部屋から全く音がしなくなってて心配になって覗いたら…ううっ」

話しててフラッシュバックしたのか、絹が嗚咽を漏らして前のめりに。

涙がポロポロと玉のように溢れた。

良高が、すぐに絹の肩を支えた。


「すみません。前も警察から帰った後、気が触れたようになって、お医者様も手の施しようがないとサジを投げられ、

ずっと婚約者の良高様が朝晩関係なくなだめて下さって、やっと話が通じるまでに回復した所なんです。」


丁度タエさんがお茶のおかわりを運んでくれたので、

気付け薬を頼んだ。

「九条様も出入りしておりますし、宝珠館から

運転手も来ますし、先程の家政婦も通いです。

庭師も週1ですが、通っています。

絹様だけが容疑者ではありません。

私も住んでおります。」

従姉妹だとは、何となく名乗れなかったが可能性の視野は広げて貰いたい。


「しかし、夫人が殺された時間、屋敷に居たのは

絹さん、九条氏と清さん、あなた達だけだ。

そして2人は1階の玄関に居た。」

2人組の刑事は、事実だけを淡々と話して3人を眺めた。


「私と九条様は玄関で話していました。

ただし、その間ピアノの音は絶え間なく流れていました、1度も止まることなく。」

清も事実だけを語るしか無かった。


警察の車を見送り屋敷に入ろうとした時、タエさんが近付いてきた。

庭師のお弟子さんと良い感じで浮かれてると思ったが

その後はどうなったのだろう?

「スゴかったね。清ちゃん、前からシッカリした子だと思ってたけど、あんな刑事さん2人と。」

「いえいえ、もう必死です。

それより、アレから彼氏さんとは?」

「エッ、やだあ〜そんなんじゃ無いわよ〜」

清の背中をパンパン叩く。

やはり浮かれている。


だが急に顔を清の耳に寄せて囁いた。

「女の涙に騙されちゃダメよ。」

「エッ、どういう意味?」と聞き返した時には、もう姿は無かった。


玄関に入り、脇の自室に入ろうとしたら、今度は

良高が立っていた。

「大事な婚約者様は?」

「大丈夫!しばらく泣いてたが閉めっぱなしの窓を

開けて換気して薬を飲ませたら落ち着いた。

少し疲れたから寝たいみたいだよ。」

本当にダメ人間だが、そのホスピス能力は素晴らしい。

医者も看護婦も薬だけ出して帰ってしまった後、

ずっと付きっきりで介抱をしていた。

その性癖も本当に誰彼構わずだが、優しい。


「それより金庫の鍵!本当に無いの?」

前言撤回、やっぱりダメ人間だ。

「貴方みたいなハイエナがいるのに、屋敷に置いておける分け無いでしょ!

鍵が欲しいなら、1日でも早く結婚することね。」


「それだ!父に話したら喜んでね。兄も安心したと。」

「そりゃ、そうだろうな。

男でこれだけ美しくても意味がないし、ギャンブル狂で

性にも奔放では、家族としては1日でも早く婿入りして身を固めて貰いたいだろう!」

と心の中で九条家の皆さんに同情した。


「こんな時だから、極々内輪で。宝珠館のチャペルを借りてくれたよ、父が。」

「いや、山田家に婿入りしていただくので多分会社の

方とも話しますが、

お金や式の準備は全てこちらでさせていただきます。」

「えっ、そうなの?助かるよ〜」

「はい、良高様には宝珠館のスタッフも感謝してると

思いますよ。」

「?」


彼は自分が宝珠館の花だと自覚が無い様だ。

男も女も彼との一夜の夢を抱いて、あの迎賓館で

催しを開いて、美しい絹のドレスをオーダーし

歌い踊る。

紡績王の館なので、ドレスもタキシードも作り扱う迎賓館なのだ。

噂では、九条良高の専属衣装デザイナーが宝珠館には居て山田吉兵衛の遺言で全てタキシードは準備されているらしい。

…山田吉兵衛が淫蕩な肉体を持つ美青年を着飾らせ

あらゆる享楽を嗜ませたのだろう。


そんな話も吉兵衛亡き後、全く豊や絹の耳には入れられて無かった。

どれだけ宝珠館が会社の子会社として独立した組織だったか。


それよりタエさんの言葉が気になる。

後で聞こう、詳しく。


宝珠館と会社に九条家との婚儀の連絡をし、詳しい

打ち合わせの日取りを決めてから、

夕食の準備を手伝いに台所に行ったが、そこに

タエさんの姿は無かった。

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