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5章

清と良高は、絹の悲鳴を聞いて階段を駆け上った。

踊り場には5つの扉がある。

脇の扉は洗面とトイレだ。

2番めの部屋は絹の部屋。ピアノがある。

扉は開いていて、向かいの豊の部屋の扉も開いていた。

階段を上った真正面の部屋は絹と豊の両方の部屋と

中で繋がっている。

今は扉閉まっている。

そして1番右端の扉は、故山田吉兵衛の書斎。

扉は閉まっている。

ただし、中で豊の部屋に繋がっている。


「お母様!お母様!イヤーッ、お母様〜っ」

豊の部屋から絹の悲鳴が聞こえ、清と良高は

踏み込んだ。

そこには、血だらけの豊が!目は見開いた状態で、

ミンクのロングコートだけを纏った下着姿で倒れていた。

赤茶のペルシア絨毯の床にミンクを何匹使ったのかと思うほど贅沢で豪華な毛皮。

赤い見事な刺繍のシルクの下着の腹は血が溢れ真っ赤に染まっている。

脇には故山田吉兵衛の猟銃が夫人のバスローブに巻かれて投げ出されている。

奥の書斎には、吉兵衛のコレクションの銃が何丁も飾られている。

その中の1丁だ。

消音用サプレッサーも一緒に転がっていた。

滋賀に抜ける山科の山で狐や狸を撃つと別荘地に音が響いてしまう。

それを消すためのものだ。

これも吉兵衛のもので、書斎の引き出しにしまわれていたものだ。


絹が撃ち殺したのか?

だが、直前までピアノの音は鳴っていた。


「良高さま!良高さま〜っ」

九条の姿を見た絹が血だらけのまま、抱き着いた。

「お母様が〜」

ずっと良高が山田邸に通うようになってから嫌な予感がしてた。

それが、まさか本当に現実になってしまうとは。


父がまずスペイン風邪で亡くなり、大丈夫と言ってた母も1週間後に亡くなり、日本中で何万人も亡くなり

もう本当に1人なんだと思ったら、

おばだと豊が現れた。従姉妹まで居た。

この1年は、使用人扱いだが常に3人で生活して不思議な共同生活を清なりに楽しんでた。

なのに!

またあのパンデミック時の孤独な絶望が見えた気がした。


「じゃ、絹様が落ち着いたら正式な手続きをしますね。」

「はい、お願いします。」清は頭を下げた。

慌ただしく会社の役員や弁護士税理士が、屋敷に出入りした。

あの時、家にいた絹、清、良高と警察の取り調べがあったが、特に絹は1人だったのでかなりしつこく尋問を受けたらしい。

確かに直前までピアノの音がしてた。

それは九条良高も清も証言したが。

箱入りだった絹は精神的に参ってしまったのか、

塞ぎ込んでカーテンや鎧戸まで閉めて

部屋から出なくなった。

良高だけが部屋に入るのを許されるようで、姿がないと「良高様を呼んで」と依存が激しくなった。


庭師の親方も先週帰りにぎっくり腰をやってしまったとかで、弟子の青年が1人で週1来るようになった。

儀助と言いまだ19歳だが、ガタイが良く大人びて見える。

そうすると家政婦のタエさんが、作業する儀助の後をずっと付いて話しかけだした。

きっと前から気に入っていたのだろう。

出戻りで肩身が狭いので早く再婚したいと言っていたし。


人の出入りが激しくなって、良高も警戒したのか

あれから金庫の内鍵の話は、しなくなった。

今は良き婚約者として絹を支えている。

ように見える。

絹は、良高が居ればニコニコとハイテンションにはしゃぎ、

居ないと迷子の子供のように泣き出して安定しない。

家政婦のタエまで、情緒不安定になり、明るくなったり暗い表情になったり忙しい。

恋する女達は、変だ。

清から見ると少し不気味だ。


警察の話では

庭や外部からの侵入者の足跡はなかったらしい。


内部の人間の犯行なのだろうか?

やはり絹?

でも直前までピアノをひく音が聞えてた。

でも九条良高だって、家の中にいた。

私の部屋の前に来る前に豊の部屋に居たかも?

下着に毛皮だけを着てたのは、きっと2階から良高が

帰ってきたのに気付いていたのかも?

いや、階段は1つしかない。

それを最後に降りたのは自分だ。


「はあ〜全然分からない。」

絹は部屋から出てこないので、昼の食事を運ぶため台所に入った。

あれ?

タエさんが居ない!

見回すとタエが控室にしてる和室のふすまが閉じてる。

「タエさん?」

バタバタと中で音がして慌てたようにタエが出てきた。

「はいはい、昼ご飯ね!もう用意出来てるから!」

後手で和室を必死で隠してる。

キッチンのテーブルには2つの湯呑み。

お勝手口には儀助の足袋履きが。

ああ~そういう事ね。

清は合点した。

16歳から会社で働いてる清は19歳だが大人の世界は

良く知ってる。


タエさん、思いが通じたんだね。

ちょっと年は離れてるけど。

清は1人納得した。

「お嬢様、やはり籠もったままなのね。」

タエが着物の襟を直しながら心配そうに聞いてくる。

「はい、お部屋で良高様と一緒に召し上がるそうで」

「あら?じゃ2人分ね。

なんだか2人の距離も近付いてきたんじゃない?

前は何でもマダムマダムって感じだったけど?」


いえいえ、アイツは、まとまった金をマダムから引き出したかっただけなんですよ!

と言いたいが言えない。

九条家は借金でもあるんだろうか?


和室の中で動く気配がした。儀助さん?

「じゃ、ワインのデキャンタも付けるわね。

お嬢様も良高様と少し飲まれて、気を紛らわせれば良いんだけどね〜」

タエに追い出されるように台所を出た。


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