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1章

今から100年ほど前、スペイン風邪インフルエンザが

世界的流行しコロナと同じ様に何十万人と亡くなった。

そんな時代の京の都で起きた大富豪家で起きた連続殺人事件の話ー


京都東山の屋敷から八坂の別邸に向かう車に

なぜか清も乗せられた。

運転手の横にメイド服のまま。

後ろには美しく着飾った叔母の豊と従姉妹の絹が

不機嫌そうに乗っている。

むせ返るような香水の匂いが車内に充満している。

「本当にお父様が、そんな約束をあの伯爵としたの?」

絹が苛立つように豊に聞く。

「さあ、宝珠館の離れの倶楽部ハウスの話だから

男達しか聞いてないのよ。」


話しは、今は亡き豊の夫、京都の紡績王山田吉兵衛が生きていた時の事。

公家の末裔と言われる貴族院の九条伯爵の子息を

吉兵衛が大変気に入り、自分の娘、絹と結婚し

山田家を継いでほしいと言っていたらしいと。


亡くなって1年が過ぎようと言うタイミングで

その話しが出てきたのだ。


絹は、たまにしかパーティーに来ない、政治の話ししかしない九条伯爵が苦手だった。

家柄は申し分ない。

紡績王と呼ばれても、父は平民の出。

貴族院にはなれない。

政治に口が挟めないと、仕事もスムーズに進まない。

しかし、他にも華族の知り合いは沢山いるのに!

なぜ九条伯爵家なのか?


「とにかく、そのご子息から話を聞かないことには

何も分からないわ。

どうせもう貴女も18だし、探さないといけないし。

華族の方が良かったし、手間が省けたわ。」

清の母の妹、豊は後妻だし、あまり上流社会に

馴染めない内に40も年の離れた吉兵衛に先立たれ

娘の縁談を頼める相手もなく困っていた。

だから、内心ホッとしていた。

絹と豊に温度差があるのは仕方ない。


前の席で2人の話を聞きながら、なぜ自分まで

連れてこられたのか?

清は困惑していた。

清の両親は流行り病のスペイン風邪で去年亡くなってしまった。

世界的な流行で罹ったものは瞬く間に亡くなるらしい。

父は天涯孤独だったが、母には妹が居たと亡くなって

初めて知った。


派手な身なりの豊が突然現れて、清を引き取ると

言ってきたのだ。

すでに19歳で貿易会社の経理事務をしていた清は

迷ったが、

幼い頃から親戚など知らなかったので、叔母や従姉妹の存在に好奇心が抑えられなかった。

両親を一気に亡くして、人恋しかったのもあるだろう。


しかし、実際山田家に入ったら辞めさせたメイドと執事の代わりに人手が欲しかっただけ!

従姉妹の絹は、清をただの使用人としか思ってないし。

豊は、後家で目の上のタンコブだったメイドと執事を

夫が亡くなったタイミングで追い出し

一応身内の清を屋敷に招き入れ、自分の思い通りに

山田家を動かしたかっただけだった。


今日も別邸の迎賓館に連れて行かれるのは、また何か

面倒な仕事を押し付けるためなんだろなあ〜と

諦めにも似た気持ちで疎水の流れを車窓から

眺めていた。


車は、八坂神社の暗い森の中に入り、しばらく進む。

八坂神社は平安時代に出来た社で疫病払いの神様スサノウノミコト他の八百万の神々が奉られている古い

巨大な神社である。


夜の闇に浮かび上がる明るい色の煉瓦作りの巨大な屋敷に近づいた。

山田家の別邸であり、迎賓館宝珠館だ。

紡績王の財力を注ぎ込み、東京の鹿鳴館を凌ぐ社交場を作るのが絹の父、吉兵衛の野望だった。


まさか軌道に乗った矢先に流行り病スペイン風邪で呆気なく亡くなるとは。

80歳を越えた老体だったし、仕方ない。

宝珠館は、運営を全て会社の部下達が取り仕切っている。

紡績会社の一部なのだ。

奥方と令嬢と言えども、お客様扱い。

つまり部外者なのだ。


「奥様、お嬢様

ようこそいらっしゃいました。」

宝珠館の使用人や会社の社員も総出で迎える。

豊は辺りを見回し主賓の迎えが無いことに気付く。

「九条様は?」

「はい、ご子息はお見栄ですが、九条伯爵様はまだ

貴族院からお見えではありません。」

「あら?人を呼びつけておいて。

まあ、良いわ。今日の仮装パーティーの主催はあちらなのよね?」

恭しく総出で迎えられたが、詳しい情報は何も知らされてない。


清は、自分はどうすれば良いのか?

まごついていると、運転手は車で去り、豊と絹は

スタッフと共に中に入ってしまった。

美しい夜会のさざめきが一瞬見えたが、その扉は

清の前で閉じられた。

「お付の人?ソコに立ってたら邪魔だよ。裏手に回って!」

門番が次の車の誘導がてら、手で清を追い払った。


「裏手って、どこですか?」

「山田家の使用人だろ?知らないの?」

「はい、旦那様が亡くなってから入ったもので」

「ああ、親戚の。あっちだよ。」

もう次の車を迎えに行き出した門番は、扉の脇の暗闇を一瞬指して行ってしまった。


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