潮風とキス
私は今、11月の半ばの海にいる。
ザーっと波が一定のリズムを奏でている。
その音に耳をすませながら、砂浜に体操座りをしていた。
スカートは砂だらけになり、海風が吹いて冷たいが、今の私は熱かった。
先程、幼なじみで同級生の吉永 玲音にキスされそうになったのである。
玲音はクラスの中心人物で、勉強はまあまあだが、運動神経抜群で、特にバスケが上手い。
おまけにコミュ力も高いので、皆と仲が良い。
だが、幼なじみである私にだけ少しイジワルである。
皆には基本的に優しいが、私と二人きりになると、素直じゃなくなる。
このような対応を何年もされているので、こういうところも可愛いなと思っている。
私はそんな玲音のことが好きである。
好きだと自覚したのは、高校生になってからだ。
彼が中学生の時よりもカッコよくなり、女の子が玲音の周りに集まるようになった。
その様子を私は見ていられなかった…。
つまり、嫉妬をしていたのだった。
そこから、私は玲音のことが好きだったとわかり、彼を意識するようになった。
放課後、いつものように2人で喋っていて、私は以前から聞きたいことを冗談っぽく訊いてみた。
「玲音は私のこと好きなの?」
「は?そんなわけないし!!」と答えると私は思っていたが、
「そうだよ、悪いか?」
と答えられて、彼が私にキスをしてこようと迫ってきた。
私は頭が追いつかなくなるぐらいに驚いて、恥ずかしくなりその場から逃亡してしまった。
何も持たずに、そのまま海まで走ってきた。
学校から海までは15分程だ。
流石にアイツもここまでは来ないだろうと思い、必死に海まで逃げてきたのだ。
もう冬も近づいているのに、あまり寒く感じなかった。
さっきのことを思い出すと、恥ずかしさで全身が熱くなる。
落ち着く為に、その場に座った。
砂浜は不安定なので、座りにくかった。
だが、一旦落ち着きたいので、座りやすい位置を探しながら、頭を冷やした。
しばらく、波音と潮風を一体化していると、遠くから「紗霧!」と私の名前を呼ぶ声がした。
どんどん呼ぶ声が近づいてきて、振り返ると、玲音がいた。
彼は息を切らして、自分のカバンと私のカバンを肩にかけながら近寄ってきた。
「これ、忘れ物」
彼が私のカバンを差し出してきた。
「ありがとう」
お礼を述べて、自分のカバンを受け取った。
「さっきはごめん」
彼は小さな声で私に謝ってきた。
「え?」
「だから、さっきは急にキスしようとしてごめん」
彼は恥ずかしそうにモジモジしながら、謝ってくれた。
「わたしの方こそ、逃げ出してごめん。
だけど、急にキスされるとびっくりしちゃうから、これからはやめてね。」
「うん 」
「・・・・・・」
二人とも隣に並び、海を眺めながら、黙っていた。
この空間は波音だけが響いている。
顔は熱いが、手は寒かったからか、自然に手を繋いでいた。
彼の手は私の手より大きくて、私の手を温かく包み込んでくれている。
温かいなとしみじみ思っていると、彼が私の方を向いて、真剣に見つめてきた。
「なあ、俺たち付き合わない?」
彼に告白されて思い出したが、私たちはまだ付き合っていなかった。
手を繋いで気持ちは伝わっていたが、言葉に出されると、くすぐったい。
「はい、お願いします。」
私は顔を赤くしながら頷いた。
また私たちは黙り、手を繋ぎながら、静かに海を見つめていた。
今度は私が彼に至近距離まで近づいて訊ねた。
「ねぇ、キスしてもいい?」
「え?」
彼は困惑していた。
さっきは勝手にキスされそうになって、困っていたのに。とか思っていそうな顔をしていた。
でも、今は彼にキスをしたい気持ちでいっぱいなのだ。
「・・・・・いいかな?」
私は彼の目を覗くように見た。
「いいよ」
キスの許可を得ることに成功した。
しかし、私からしたいと言ったのはいいものの、どうやってキスしようか?と企んでいると
「早くしないの?」
彼から催促された。私はキスをしたことがないので、どうすれば上手く出来るのかと考えた。
悩んでいる姿が見ていられなかったのか、それともキスが待てなかったのか、彼が顔を近づけてきて、私の唇を奪っていった。
「遅いよ」
少し文句を言いつつ、彼の顔は綻んでいた。彼の顔を見て、自然と口角が上がっていた。
「だって、どうすれば初めてのキスを上手に出来るか悩んでいたんだもん。」
正直に話した。
「初めてだったの?」
「そうだよ」
彼はまた嬉しそうにニヤニヤしていた。
小声で「俺が初めてだったんだ。」と呟き、表情筋が緩みまくっていた。
「そんなにニヤケられると恥ずかしいんだけど」
「だって、嬉しいじゃんか!
初めてが俺なんだろ?」
「そうだよ!玲音が初めての彼氏だし、初めて手を繋いだし、キスもした。
初めてだらけだったよ。」
「そっか!そっか!」
今までで一番嬉しそうな顔をしていて、私もすごく嬉しくなった。
またしても彼は、私に優しくキスをしてきた。
次は私もからもしたいと思い、背伸びして彼の唇にキスをした。
この後も寒い海の隣で、私たちは気持ちと体を温めあっていた。
そして、今日が私にとって人生で最高の日になった。
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