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蝶々たちのエレジィ  作者: ねこじゃ・じぇねこ
3章 野良妖精たち
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5.蝶々たちの夢

 ルリジューズがいなくなってしばらく、わたしの呼吸が整うまでグリヨットたちは待ってくれていた。

 その間に、ルリジューズたち二人の足音が遠ざかるのをだいぶ待ってから、ビスキュイがグリヨットに対してそっと声をかけた。


「初めての体験だったよ。あのルリジューズって人は、良血蝶々だよね?」


 するとグリヨットは無邪気に頷いた。


「そうだよ。ノワゼットは違うけれどね。ノワゼットの方はあたしと同じ。生まれた時からここにいる。その昔、こっちに流れてきた修道蝶々の血を引いているらしいの。でも、肝心の御祈りは継承していないらしくて、小さい頃から人間のもとで先祖代々仕込まれてきたルリジューズから今は教わっているってわけ」


 そこでわたしはふと気になって、グリヨットに訊ねた。


「どうしてルリジューズはここにいるの?」


 すると、グリヨットは困ったような顔をした。


「そうだねえ。話すと長くなるんだけど、もともとはルリジューズも人間たちにちやほやされていたんだ。でも、色々と複雑なことがあって、人間たちに殺処分されることになっちゃったの」

「さ、殺処分?」


 ビスキュイが声を押し殺した。

 わたしも思わぬ単語に震えてしまった。

 せっかく整いかけていた呼吸がまた乱れてしまった。

 だが、グリヨットだけは平然としたまま頷いた。


「うん、そうなの。人間たちは無駄に伸びた枝でも斬るような感覚でいらない妖精を処分してきたからね。でも、あたしはその前に知ってしまった。知ったからには放っておけなくて、あたしがババたちに頼んで助けてもらったんだ」

「ババってさっき外にいたあの人だよね?」


 ビスキュイの問いに、グリヨットはにこりと笑った。


「そうだよ。あのおじさんね、とっても頼りになるんだよ。昔から一角獣伝説に憧れているらしくて、現代の一角獣を名乗っているの。だから、あたし達の仲間に何かあった時は、ババやフランボワーズ様にお願いすると解決するんだよ」

「フランボワーズ様?」


 知らない名前に首を傾げると、グリヨットもまた首を傾げた。


「ありゃ。良血さんたちには伝わっていないんだね。あたし達の女王様のこと」

「女王様?」


 ビスキュイが不穏そうな声で呟いた。

 同じくその響きに不穏なものを感じて互いに顔を見合わせた。


 蝶の女王といえばこの部屋のステンドグラスにも描かれているミルティーユのことを真っ先に思い浮かべる。

 現在、正式に登録されている良血蝶々はミルティーユの子孫しかいない。

 父系は彼女の最愛の息子だったという翅無の父エクレールに。母系は、ミルティーユの自慢の三人娘の誰かに。娘たちの父親ははっきりしているそうだが、息子であるエクレールの父親は分からないらしい。とはいえ、誰であろうとミルティーユの──女王の系統であることは間違いなかった。


 だが、野良妖精たちはその限りではなかっただろう。

 わたし達のように厳密に血統管理をされているわけでもないはずだし、とっくに淘汰されてしまった血が残っていてもおかしくはない。そんな環境でわざわざ女王を崇められる者がいるとすれば、それは一体どんな妖精なのか。


 グリヨットは明るい声で頷いた。


「そう、女王様。女王様は双子の姉妹でね、そのステンドグラスの女王様みたいに立派な翅をお持ちなの。あたしのような出来損ないでもないし、ノワゼットみたいなささやかなものでもないよ。もっときちんとした蝶の翅なんだ。

 知的な青い翅を持つ姉のクレモンティーヌ様と、情熱的な赤い翅を持つ妹のフランボワーズ様。このお二人がいる限り、あたし達は平穏無事に暮らしていける。そして、いつかはあの双子の女王を中心とした王国を復活させるの。それがあたし達の夢なんだよ」


 王国の復活。二百年も前に滅ぼされた蝶の王国の。

 何かとんでもない計画をうっかり聞かされたような気がして、わたしもビスキュイも困り果ててしまった。

 そんなわたし達の困惑に気づいていないのか、グリヨットは尚も話し続けた。


「クレモンティーヌ様はね、あたし達が無事に暮らすにはどうすればいいのかいつも考えてくださるの。それで、クレモンティーヌ様が大事な決定をされている間に、フランボワーズ様が槍を手にして困っている仲間を助けて下さるの。ババたちがどうしようもない事も、フランボワーズ様ならきっと」


 目を輝かせて語るグリヨットには、絶対的な信頼を感じ取れた。

 それは、わたしがフィナンシエたちに絶対的な信頼を寄せていることとは訳が違う。まるで神でも信じるかのように、グリヨットはその双子の女王を信じているようだった。

 しかし、立派な蝶の翅を持つ野良妖精だなんて。

 もしも本当にそんなものがいたら、きっと人間たちは大騒ぎするだろう。況してやそんな妖精が槍を手に活躍しているとなれば尚更のこと。

 ほんの少し聞いただけでも、わたしには言葉にしがたい危うさのようなものをグリヨットたちに感じてしまった。


 王国の復活。蝶の翅を持つ双子の女王。

 この話が人間の耳に入ったとしても、大事にならないといいのだけれど。

 良血蝶々としてはいささかお節介な不安を抱きつつも、わたしは何も言わずにグリヨットの話に耳を傾け続けた。

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