そうして先生は話し始めた
「ではみなさんは、いまもっているものが壊れるのなら、
壊れてしまうと分かってしまったらどうしましょうか。
「…」
「なに、なんの話だよ…」
「…」
例えば、君の持っている鉛筆はどんなに気を使っていてもこの時間が終わったら砕けてしまう。
そうわかる。どうしますか。はい
「なにそれ意味わかんない
…,でも困っちゃうよね、次の時間に書くものなくなっちゃうし」
そうでしょう
困りますよね、そして気味が悪い。不安にもなるでしょう。あっています。
例えば、
そこの机の下でいじっているそのゲーム機が今日限りで壊れてしまう。そうわかる。
どうしますか。はい
「っんだよ、バレてんのかよ」
バレてます。やめてカバンにしまいなさい
「けっ、とりあえずセーブして…っと意味がないんだよな、壊れちまうんだから。」
そうですね、
もう明日には壊れてしまって、電池が完全につかなくなってもう遊べなくなります。
きっとあなたの力ではなおせないでしょうね。そこに費やしたお金も、時間も労力も
すべてが消えて、なくなってしまう
「…
じゃあもういいよ、まだまだ途中だからあと一日でクリアできるわけがないし、母ちゃんに頼んで同じの
を買ってもらうから、やめればいいんだろ なぁ」
そういうことが言いたかったわけではないのですが…
いいでしょう、素直にあきらめて、次を用意する…
あ、
君の場合は用意 し て も ら う でしたか。
その考えも実に理解できます。あっています。
では例えば、仲のよい友達と、明日になったら仲良くなくなってしまう。もしくは、自分の周りの人の
仲が明日になったら悪くなる。
喧嘩したわけでもないのに、誰が悪いというわけでもないはずなのに。
そうわかる。どうしますか。
そこのふたり、君たちはいつも仲良くしているようにみえます。どうでしょうか、はい。
「うちらのこと観察でもしてんのかよ、きっも。」
とうぜんです、私は君たちの先生ですから。
「…、なんでもいいけどさ、うちらチョー仲良しだからそんなことおこるわけないじゃん」
「「ねー」」
ちゃんと想像して答えてほしかったのですが、そうですか
認めることができなくて、楽観的になるしかない
わかります。あっています。
では例えば、
そんなことが生まれたときから、ほんとうにわかってしまう人がいたならば、
いたならば、
どうなってしまうでしょうか。
「…」
「…、きっと、その人はなにも信じることができなくなる。
簡単に割り切って切り捨てられるものばかりではないでしょうし、
可哀そうな人なんでしょうね。僕なら耐えられない」
「…」
可哀そうな人ですか、ふむふむ
たしかに、大事にしたものは前触れをもって失われてゆき、
それにしかっりと向き合わねばならないでしょう。
それはたいそう辛いことだということは、想像にやすい。 あっています。
そして私はそんな少女の物語を知っています。
明日からそんな少女の話をしましょう。
今日はこれまで
それとゲーム機は没収です。あと君の鉛筆も預かっておきましょう、気味の悪い話をしましたからね。
それから、明日は急ですが席替えをします。身の回りの整理をお願いします
それではみなさん、さようなら。」