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前書き

 私の祖父は度を超えた読書家でして、それも「奇書」と呼ばれるものばかり集めていました。暗号、創作言語、それから悪魔が好んで読みそうな百科事典……。数え上げたらキリがありません。思い出はいくつもありますが、そうですねぇ。祖父は私にこんなことを話してくれました。だいぶ昔の話なので細かいところは違うかもしれませんが、今になって忘れたくない言葉です。


「人はね。理解できないことを拒否しようとする。その方が安全だからだ。否定し、拒み、異質な価値を排除することで昨日と同じ人生を送ろうとする。あまつさえ、それが正義であるかのようにふるまう。それではいけない。精神的に向上心のない人生だ。伝統を守ることと新しい世界を拒否することとは違う。よく覚えておきなさい……。」


祖父はとにかく不思議な人でした。これをまだ小学校に入ったばかりの私に言うのですから。堅物と呼ばれ、頑固と呼ばれ、社会の隅の隅で隠居していた人ではありました。ですが私はそんな祖父が大好きでした。どうしてでしょうか、今でもようわかりませんが祖父には誰にもない魅力がありました。


 そんな祖父も七六で亡くなりまして、先日家族で遺品整理をしていました。……まぁ出てから出てくる奇書の山。どこで手に入れるのやら外国の古い本がズラリ。もはやどこの国の言葉かすらわかりません。父も母も呆れていましたが、私はそうではありませんでした。


 書斎の奥にある漆塗りの机には本が置いてありました。創作言語でしょうか。見たこともない文字で書かれた本とメモがありました。


「ここに書かれていることを日本語にする。私ができなければ孫がやるから、託したよ」


祖父が世を去る最期にやっていたのは翻訳作業でした。そんなことをやって何か意味があるのかと思いましたが、メモの字は力強く書き記してありました。どうしても成し遂げたい願いがそこにあるかのようでした。


 親には止められましたが、私はその本の翻訳を引き継ぐことにしました。もちろん祖父に「託したよ」と言われたのも理由ではあります。しかしそれだけではありません。世間の価値にとらわれない祖父がどうしても残したかった本を私は読んでみたかったのです。そこに書かれている言葉は著者のものですが、私にとっては祖父の言葉のように思えました。


 これから皆さんにお読みいただくのは私が翻訳した「現実とは異なる世界の探検記」です。上手に訳せなかったところは訳註を付しています。日本にない概念を表す言葉はなるべく音を拾ってカタカナで書き、分かる範囲で説明をつけました。


 最後に、この本を書くにあたって静岡県立創作言語研究所の二川研究員に大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。二川研究員に、私の祖父である大箸清光に、そしてレイアルト・アーバンにこの本を捧げます。

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