雨の日
短めです。
次の日、わたしは食欲をそそるいい匂いで目が覚めた。そういえば、昨日からタクヤがいたのだったと思い出す。以前と同じように朝食(兼昼食)を作ってくれていたようだ。
「おはようございます」
「おはよう」
「ご飯、ありがとうございます」
「そういう契約っていうのもあるけど、やりたくてやってるからね」
笑顔でそういったタクヤが、楽しそうな表情をしていることに安堵する。タクヤが作ってくれた朝食を食べて、カーテンを開けると、空がどんよりと曇っているのが見えた。今すぐにでも雨が降りそうだ。ゴードンからの依頼はすでに済ませているし、足りない薬は今のところないので、今日は家にいることにしよう。
「今日は雨っぽいな」
タクヤも外の様子に気付いたようだ。
「そうですね」
「サラは、いつも雨の日はどうやって過ごすの?」
「えーと、手元に下準備した薬草があったら、薬を作ったり、掃除したり、本を読んだり、昼寝したり、ぼーっとしたり…」
「やることけっこうあるね」
「雨の日だって大忙しなんですから!」
タクヤが笑っているのは放っておいて、今日は掃除から始めることにした。掃き掃除や窓拭き、隅にたまった汚れを拭いたりと、それなりにやることがある。
「僕は、上の方を掃除するよ」
タクヤは、わたしには到底届かないような、棚の上を掃除してくれるようだ。椅子に登って掃除する危険性や手間が省けて嬉しい。
「助かります」
掃除を始めてからしばらくすると、ザーザーと雨音が聞こえてきた。わたしもタクヤも、あまり話さずに掃除をしているので、窓や屋根に雨の打ちつける音がより大きく響いている。
2人で掃除したので、いつもよりも早く終わった。昨日のうちに、薬草は全て薬にしてしまったので、やらなければならないことがなくなってしまった。
「わたしは本を読もうと思います」
「じゃあ僕はこの本で勉強しようかな」
早速タクヤは、わたしがあげた本を手に取って読み始めた。わたしも、先日ゴードンから購入した本を手に取って、タクヤの正面に座った。
最近はタクヤのことで手一杯で、読書をしている暇がなかった。それだけ新鮮な日々を送れていたということだろう。
ザーザーという雨の音と、パラパラと本をめくる音だけが聞こえる。紙の感触も相まって、ページがどんどん進んでいった。
「…ねぇ、サラ」
遠慮がちな声に顔をあげると、タクヤが困ったような表情でこちらを見ていた。
「なんですか?」
「このサザンテとジランテって、何が違うの?」
タクヤが開いているページには、見た目がとてもよく似ている植物が2種類書かれていた。初心者が間違える薬草トップ3に入るであろうそれらは、素人ではほぼ見分けがつかない。
「見た目はほとんど一緒なんですよ。違いは葉の裏のザラザラ、それから球根の有無ですね」
「…難しいな」
「慣れてくると、見ただけでなんとなく分かるようになりますよ」
「さすがサラ」
照れた顔を見られたくなくて、ぷいと視線をそらす。さりげなく視線を戻すが、タクヤは本に夢中で、気づいていないようだ。
「こんなに似てるのに、効能は真逆なんだ」
「そうなんですよ!薬にする過程にも特徴があって…」
わたしは、さっきまで読んでいた本が良いシーンで止まっていたことも忘れて、夢中でしゃべり出した。
――しばらく、雨の日は勉強会になりそうだ。
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