表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/29

契約

これも短めです。

「タクヤさん?!」


「やぁ、サラ」


「なにしてるんですか?街に行ったんじゃ…」


「うん、そうなんだけどね」


「ここじゃ寒いですし、とりあえず中に入ってください」


「ありがとう」



 * * * * *



 タクヤを家に入れたあと、お湯を沸かして温かい飲み物を淹れる。2人で座ったところで、やっと落ち着いて話すことができた。


「どうしてここに戻ってきたんですか?わたしは街で暮らすものだと思っていました」


「だって、あそこにはサラがいない」


 タクヤが何かを呟いたが、わたしは聞き取ることができなかった。


「えっ?」


「なんでもない。サラに勧められたのもあったけど、この世界のことをもう少し知っておきたいなって思って、ゴードンさんと一緒に街へ行ってみたんだ。すごくいい人たちばかりだった」


「じゃあ、どうして…」


 それならなんの問題もないだろうに。


「でも、サラのことが気になって、心配で…、サラに会いたくなった」


 会いたくなった、なんて言われたことがなかったので、妙にドキリとしてしまう。


「ゴードンさんと一緒に来たほうがいいかな、とも思ったんだけど、その日まで待ちきれなかったから、ここに戻ってきた」


「…どうやって1人で戻ってきたんですか?」


 戻ってきた、なんて軽く言っているが、迷いの森から我が家にたどり着くのは、容易なことではない。


「ゴードンさんに相談したら、これを持ってたら迷わないから、大丈夫だって言われたんだ」


 タクヤがポケットから出したのは、わたしの魔力を込めた勾玉だった。迷子防止アイテムとしてタクヤに渡してから、回収するのをすっかり忘れていたことを思い出す。


「サラが嫌じゃなければ、ここにいたいなって思ったんだけど、ダメかな?なんでもするよ」


「なに言ってるんですか?!」


 びっくりして大きな声を出してしまった。落ち着かせるために、一呼吸おいてから話し始める。


「ここには何もありませんよ。街に行けばいろいろありますし、豊かな暮らしができます」


「むこうでしばらく、その暮らしをしてみたけど、サラといる時間が1番楽しかったんだ。……僕がいると迷惑かな?」


 そんなはずはない。むしろ、いてくれて良かったとさえ思っている。わたしだって、この家に誰かがいるのが懐かしくて、楽しくて仕方なかった。でも―――


「迷惑じゃないけど、ダメです」


 タクヤがわたしのところにいても、彼のためにはならない。


「それは、サラが僕に隠していることと関係ある?」


 大アリである。


「サラが隠したいなら、それでもいい」


 よくない。短期間なら頑張れるが、隠し切れるわけがない。わたしが魔女だとバレたら、きっとタクヤは怯えた顔をして、逃げ出すように出て行くのだろう。慣れてからよりも、今の時点で切り捨てられた方がマシだ。だって、傷は浅い方がいいもの。



「―――わたし、魔女なんです」



 さぁ、怖がって今すぐ出ていきたいと思えばいい。



「……魔女って、すごい!本物?!」


 タクヤはどうして、喜んでいるの…?



 * * * * *



 それからわたしは、タクヤに魔女や迷いの森に関する伝説、魔力について伝えた。


「気味悪いでしょう?」


「どうして?僕の傷が早く治ったのも、サラの薬のおかげなのに」


「それは……」


 タクヤが特殊例であるため、なんと答えていいものかと悩んでいると、話がまた進んでしまった。


「それに、サラにしかできないことなんでしょ?かっこいいよ。大事なことを教えてくれてありがとう」


「かっこいいだなんて…。わたしは恐ろしい存在なんです」


「恐ろしくないさ。僕がいた世界では、魔女は架空の存在だったんだ。会えて嬉しいよ!」


 ゴードンの言っていた通り、やっぱりこの人、頭がおかしいのかもしれない。忌み嫌われている魔女に会えて嬉しいなんて、ちょっと、いや、だいぶ変だ。


「サラが優しいことは分かってる。優しいから、魔力を人のために使ってるし、僕のことも助けてくれた」


「買い被りすぎですよ」


 魔力は、使い方を知らないだけだし、タクヤを助けたのだって、たまたまだ。


「本当になんでもやる。働くから、ここにいさせてください」


 正直、わたしはタクヤにいてほしい。タクヤがいると仕事の効率が上がるため、売り上げも上がる。タクヤがいるから生活費が無くなった、という事態にはならないはずだ。


「本当にいいんですね?」


「うん」


「分かりました。じゃあわたしと契約をしましょう」


「契約…?」


 わたしは引き出しから紙とペンを取り出して、机の上に置いた。紙に魔力を込めた後、契約書という書き出して、内容を書き記していく。




 契約書


 1.わたしが魔女であることを誰にも話さない

 2.犯罪をしない

 3.料理をする

 4.力仕事を手伝う



「この紙には魔力が込めてあるので、一度名前を書いてしまえば、違えることは絶対にできません。それでもよければ、ここにサインしてください」


「…こんなことでいいの?」


「はい。わたしは料理が苦手なので、タクヤさんがやってくれると助かります。もちろん、予算内でお願いしますね」


「うん」


「それと、力仕事を手伝ってくれたら十分です」


 他の項目は、念のために書いたものだ。タクヤが悪い人じゃないことは、一緒にいればわかる。


「この内容で契約しないなら、今すぐ出て行ってください」


 いてほしいというのはなんだか悔しくて、少し冷たい言い方になってしまった。


「もっとすごいこと書いてくるのかと思ったのに…。このくらいなら全然いいよ」



 タクヤがペンを手に取る。名前を書き終わると、紙が一度だけ光った。これで契約完了だ。



 ―――こうして、わたしたちの奇妙な同居生活が始まったのである。


お読みいただき、ありがとうございました!

結局すぐ戻ってきましたね。やっと契約しました。


もしよろしければ、評価・ブックマーク等していただけると嬉しいです(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ