表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

お風呂

 翌朝、窓から差し込む光で目が覚めた。なんだかふかふかしたものに寝ている気がする。


 ん?わたし、布団に寝てる……?


 そんなはずがない。だってベッドにはタクヤが寝ているはずだ。寝ぼけていた頭が覚醒し、勢いよく起き上がる。


「おはよう、サラ」


「……おはようございます。って、なに起きてるんですか?!」


 いつのまにかタクヤが起きており、目の前の椅子に座っていたのだ。しかも、あの見慣れない服から、昨日買った服に着替えている。


「動いても全然しんどくないから、サラをベッドに運んだんだ。もし嫌だったならごめんね」


 いろいろとツッコミどころしかないが、運んでもらったことは嫌ではなかったので、素直にお礼を言う。


「全然嫌じゃないです!運んでくれてありがとうございました」


「お礼を言うのは僕の方だよ。ずっとベッドを使わせてくれてありがとう」


 本当に元気になったみたいだ。初日に比べて、顔色もずいぶんと良くなった。


「助けてくれたのがサラで良かった。どんなに感謝しても足りないくらいだ」


「そんなにすごいことはしてないです」


 なんだか、タクヤに過大評価されている気がする。


「助けてもらった分も、ちゃんと働くからね」


 働くといっても、タクヤはまだ病み上がりだ。


「まずは、朝ごはんを食べましょうか」



 * * * * *



 今日の朝食…、時間的には、ほぼ昼食なのだが、パンと干し肉、山菜を挟んだサンドイッチを作った。


「今日、薬草を取りに行こうと思うんです。そんなに遠くに行くつもりはないんですけど…」


 わたしが続きを言い淀んでいると、意図を汲んでくれたタクヤが代わりに話し始めた。


「うん、ついていくよ。知らないやつを家に置いておくのは不安でしょ?寝てるのも飽きちゃったし」


「すみません。ありがとうございます」


 あまりのんびりしていると、季節が限られている薬草が、どんどん枯れてしまうのだ。また、薬草として使える時期を逃してしまう場合もある。


 朝食を食べたあと、タクヤにもカゴを持ってもらって、早速出発した。


「これを持っておいてください」


 わたしは、タクヤに魔力を込めた勾玉を渡した。これがあれば、わたしとはぐれても我が家までたどり着ける。魔力を込めたものを持っていると、迷いの森の影響を受けないからだ。ゴードンも同じものを持っているので、我が家まで迷わずに来ることができる。


「なにこれ?」


 タクヤが勾玉を光にかざしながら、珍しそうに眺めている。


「お守りです。絶対に失くしちゃダメですよ」


 タクヤに魔力のことは言えない。


「それから、体がおかしいなと思ったり、しんどくなったりしたら、すぐに言ってくださいね」


「わかった」


 ゆっくり歩いて数分もすれば、1番近い薬草ポイントに到着する。今日はここで薬草を取って、すぐに帰る予定だ。


「これがファルサです。葉っぱの先が赤いものを採ってください。緑のものや、葉っぱ全体が赤くなってしまっているものは使えません」


「こんな感じの葉でいいかな?」


 タクヤが指さした葉は、葉先が程よく赤に染まっていた。


「それです!今しかないものなので、見つけたらどんどん採っちゃってください」


「了解」


 薬草探しなんて初めてであろうタクヤには、分かりやすい1種類のみを任せた。ファルサを採ってくれている間に、タクヤから離れないよう気をつけながら、キソウ、アカゴタ、マトマトなどを探す。誰も手入れをしないと、どんどん草木が生い茂ってしまうが、薬の材料として採取すれば問題ないので、森にとっても、わたしにとっても、嬉しい関係なのである。

 そう言いつつも、さすがにわたし1人の力ではとても採取しきれないので、放置されている箇所も多いし、わたしが踏み入ったことがないところも、それなりにはあるのだが……。



 お互いのカゴに山盛りの薬草を摘んだところで、今日の収穫は終了だ。普段なら、帰り道に薪として使えそうな木をいくつか拾って、引きずりながら帰るのだが、今回はタクヤが少し手伝ってれた。最初はわたしがすべて持っていたのに


「その木、持てるから任せてくれていいよ」


「ダメです!病み上がりの人にそこまでさせられません!」


 この押し問答を続けて、根負けしたわたしが3分の1だけお願いした。これがわたしの妥協点である。


 ところが、その帰り道…


「いっ」


 木がなにかに当たるザッという音と、タクヤの声がほぼ同時に聞こえた。


「伸びた枝で擦っちゃったみたいで…」


 タクヤに腕を見せてもらうと、大きな擦り傷ができていた。


「ちょっと待ってください」


 持っていたカゴの奥から、傷薬と包帯を取り出す。念のために入れてきて正解だった。タクヤがいる間は持ち歩こう。


「薬塗りますね」


 タクヤの腕に薬を塗り、包帯を巻いた。これで明日には良くなっているはずだ。


「ありがとう。もう痛くない」


「いえいえ。これが仕事ですから」


 もちろん、タクヤが持っていた木はわたしが回収し、家まで持って帰った。



 * * * * *



 家に戻って、持って帰ってきた木を、家の裏にある薪スペースへと運び込む。簡易的な屋根と風よけがあり、残りのスペースは大きな布で覆われている。布を外すと、まだ薪割りをされていない木がゴロゴロと転がっている。今日拾った木も、同じように転がしておいた。


 晩ご飯には少し早いし、タクヤが汗をかいていたので、お風呂に入ってもらうことにした。


「タクヤさん、お風呂に入ってください。傷があるところだけ気をつければ、問題ないと思います」


 すると、タクヤがキョトンとしてこちらに問いかけてきた。


「え、この世界にお風呂あるの?」



 * * * * *



 家に戻り、タクヤにタオルや着替えを持たせて、お風呂へと送りだす。



 タクヤがお風呂に入っている間に、晩ご飯の野菜スープを作ることにする。母がいた頃は、もう少し料理のレパートリーがあったのだが、わたしはそこまで食に興味もないし、面倒なので、野菜スープかサンドイッチしか作らない。たまに、川でとった魚を焼くこともあるが、極端に面倒なときは、木の実だけで済ませてしまうこともよくある。さすがにタクヤもいるので、木の実だけというメニューはやめておいた。




 タクヤが、かなり楽しそうな表情でお風呂へ向かっていたので、どんな顔をして出てくるのかワクワクしながら待っていると、見たことないほどの笑顔で戻ってきた。


「お風呂、すっごくいいよ!」


 タクヤはお風呂が好きらしい。今までのタクヤの中で1番といってもいいくらい、表情が明るい。


「広々としてて最高だった!あんなに広いお風呂、珍しいんじゃない?」


「そうなんですかね?あんまり他と比べたことなくて…」


 あんまりどころか、一度もない。


「肩まで浸かって、足を伸ばしてもまだスペース余るんだよ?」


 全然知らなかったが、タクヤの話だと、我が家のお風呂は、世間一般的には広い方らしい。



 * * * * *



 今日はすごく働いてくれたし、お腹を空かせているだろうと、タクヤの分にだけ、肉を追加することにする。


「昨日と同じメニューですみません…」


「いやいや。美味しいよ、ありがとう」



 野菜スープを飲んだあと、疲れているであろうタクヤをベッドに寝かせる。


「もうだいぶ元気になってるし、サヨがベッドで寝た方がいいよ」


「わたしは屋根裏で寝るので、タクヤさんはここで寝てください」


 屋根裏の話は、半分ウソだ。屋根裏部屋はあるが、ベッドはなく、冬用の布団や衣類をしまうのに使っている。たしか、わたしが寝転がるスペースくらいはあったはずだ。それに、先にタクヤに寝てもらわないと、薬を作ることができない。


 なんとか納得してもらい、タクヤが寝入ったところで、わたしもお風呂に入る。そしてまた、昨日と同様に作業を始める。今日採った薬草で、ゴードンさんのメモで依頼されたパスカルさんの点眼薬や、吐き気止めなどを作っていった。今日はカゴ2つ分の薬草があるので、1つは明日やることにする。


 道具を片付けたあと、はしごを登り、屋根裏へと向かう。そこには冬用の衣類や布団が置いてあった。わたしの予想通り、丸まれば寝られる隙間があったので、そこに寝転がり、たまたまそばに畳んであったタオルケットをかける。


 少し肌寒さは感じたものの、目を瞑れば、自然と眠りに落ちていた。



お読みいただき、ありがとうございました!

もしよろしければ、評価・ブックマーク等していただけると嬉しいです(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ