7 いじめられっ子ステラちゃん、王子様と出逢う
パパンとルークを見送った俺たちは、現在パン屋の配達手伝いをしている。
ここはステラちゃんの友だち家族が営む店なのだ。
友だちのココアちゃんは、たれ耳うさぎの獣人ちゃんだ。ピンクの髪を肩まで伸ばしていて、たれた瞳は緑色。赤いふんわりスカートのワンピースを着ている。
「ありがとうねぇ、ステラちゃん。今日はいつもよりお客様と配達注文が多くて。あたしらだけじゃ手が回らなかったの」
「ううん。私で力になれることなら、いつでも言ってね、おばさま、ココアちゃん」
パン屋のおかみさんが、バスケットにパンをたくさん詰め込んでステラちゃんに渡す。パン屋の娘ココアちゃんは、ステラちゃんが渡されたのよりもひと回り大きなかごを抱えている。
「手伝ってもらってごめんね。ステラちゃんは聖女候補のお勉強もあっていそがしいはずなのに」
申し訳なさそうに言うココアちゃんに、ステラちゃんは笑顔を見せる。
「大丈夫よココアちゃん。少しでも役に立てることがあるのが嬉しいの」
バスケットを腕にさげ、もう片方の手には配達メモ。
配達ついでに、聖獣について知っていることはないか聞いて回る。一石二鳥だ。
三軒配達して、残りは一軒となったところで、どこからか石が飛んできた。石はステラちゃんの鼻先ギリギリを掠めて家の壁に当たって落ちた。
『ひええ。大丈夫か、ステラ! 怪我はねえか!?』
ステラちゃんの帽子の上で青ざめるヤマネ。ステラちゃんは震えながら頷く。
「おいおい。嘘つきステラがパンなんて運んでいるぜ。あんなもん食ったら嘘つきが伝染る」
石を投げたのは、ステラちゃんより少し年上に見える少年だった。三人組で、ニヤニヤ笑いながら新たな石を放る。
「ちょ、や、やめて。私、嘘つきじゃないわ」
「嘘つきだろ。動物の声が聞こえるなんて嘘ついて人の気をひこうとしてさあ。そんなやつが聖女候補なんて世も末だなぁ」
何が楽しいのか、いじめっ子モブABCはステラちゃんが目に涙を浮かべると、さらにヒートアップする。
「おー。ステラが泣くぞ。女ってのは泣けば済むと思ってんだよな」
「嘘つきの上に泣き虫とか」
『す、ステラちゃん! こんな奴ら放っておいて、パン屋のおばちゃんから頼まれた配達しよう?』
『そうだぜぃ! あんな男の風上にも置けねぇやつら相手にすんな!』
気を紛らわせようと俺とヤマネが声をかけると、ステラちゃんは無理やり笑顔を作って頷く。ステラちゃんには確かに俺たちの声が聞こえている。嘘つきなんかじゃない。
「どこ行こうってんだよ、嘘つき」
「ど、どいてください。私、仕事の途中なんです」
目に涙をためながらも、ステラちゃんは気丈に振る舞う。いじめっ子Aは歯ぎしりして、突き飛ばそうとした。
けれど、風が二人の間に吹き抜けて、それをはばむ。
次の瞬間、ステラちゃんといじめっ子Aの間に金髪隻眼の少年が立っていた。
「無抵抗なものに暴力を振るうなんて、男らしくないな。お前たち、それでもエスペランサの民か」
身にまとうのは上等な絹の衣服で、態度もどこか偉そうで。しかも魔法が使える者なんて、庶民にはまずいない。
俺の記憶では、王子クラウド。
庶民が会うことはまずないから、ステラちゃんやいじめっ子ABCは知る由もないけど。
貴族相手にこれ以上のことができるはずもなく。いじめっ子たちは不利を悟って逃げ出した。
クラウドは振り返り、ステラちゃんを気遣う。
「大丈夫だったか」
「あ、あの。ありがとう、ございます」
突然のことに驚きながらも、ステラちゃんは涙をぬぐって頭を下げる。
「そんなに弱いのに、一人で男に食って掛かるなんて、無茶をする」
「う。気をつけます……」
しゅんとするステラちゃんの頭にそっと手を乗せて、クラウドは歩き去る。
しばらくぼうっとその後ろ姿を眺めて、ステラちゃんは配達途中だったことを思い出して走り出した。





