5 ステラちゃんのために、困ってる人を助けるぜ!
俺たちは、いったんステラちゃん兄妹の暮らす家に行った。
レンガ造りの素朴な一軒家は、兄妹と両親の四人ぐらし。
パパもママも、ステラちゃんが俺たち猫を連れ帰っても、怒ったりしなかった。
それだけじゃない。
なんと! 怪我をしたママンのために、籐のカゴとクッションでふかふかのベッドを作ってくれたんだ。
俺たち一家はここに住んでいいんだって。
さすが! ステラちゃんのパパとママも大天使のような優しさ!
俺はステラちゃんに、自分が知りうるこのゲームの攻略法を話す。ステラちゃんが聖女になる道を望むなら、それを手伝うのが俺の恩返しだ。
「依頼?」
『そうにゃ、にゃ。聖女になるには、国民の信頼も得ないといけないにゃ!』
俺はテーブルに乗って前足を上げ、力説する。
『聖獣は人々に愛され、信頼された乙女の前にしか姿を現さない。ステラちゃんが人々の悩みを解決することが、聖獣を探すことにも繋がるのにゃ』
俺が話すことを、ステラちゃんが訳して家族に伝える。
「へー。子猫なのにものしりだな」
ルークが感心して相づちを打つ。
俺が物知りっていうよりは、真由子がやってたから覚えただけなんだが。まあステラちゃんの役に立てるならなんでもいい。
『ふしぎねぇ。坊やは生まれて間もないのに、いろんなことを知っているのね』
『ぎくっ』
おおっと。ママンに何やら疑われているっぽい?
『これは、えと、うんと、お、お告げ! お告げにゃ! そうしろって声がするのにゃ!』
『まぁ! もしかしてこの世界の創造主さまかしら。それとも、聖獣さま? どちらにしてもすばらしいわ、坊や!』
ハハハ。もう電波系でもスピリチュアル系なんでもいいや。とにかくごまかせた!
「ありがとう、イナバちゃん。国の図書館で調べたり、学校の勉強をたくさん頑張ればなにかわかるかなって思ってたけど、それだけじゃだめなのね」
ステラちゃん、素直で物分りいい子やわ。
俺の“お告げ”を真摯に受け止めて、しきりに頷いている。
「そうと決まったら、探しに行きましょう! 今の私にできるのは、困っている人を助けることよ」
こうしてステラちゃんは、依頼を探すべく町に繰り出した。
ママンとキョウダイたちには、怪我が治るまでベッドで休んでいてもらう。
ステラちゃんに付き合うのは俺とルークだ。
ゲーム画面でなら、困っている人の上には!マークの吹き出しが出ていたけど、さすがに今の俺達にとってこれは現実。
そんなマーク見えたりはしない。
歩いている住人たちもみんな生きているし、仕事に遊びに、それぞれの生活をおくっている。
『にゃ。おお、坊や。探したぞ。母さんや他の子たちはどうしたんだい』
並木のベンチの下から、ネズミを咥えた茶トラ猫が出てきた。目が俺にそっくり。彼はパパンだ!
『ママンが貴族に蹴られたから、この子が保護してくれた』
『なんと! 母さんは大丈夫だったのか? ケガは?』
「大丈夫よ、パパ猫さん。ママ猫ちゃんは、病院の先生が、安静にしてちゃんとお薬塗っていたら一週間くらいで治るって」
驚きのあまりネズミを落としたパパンに、ステラちゃんが説明してくれる。
『お嬢さん、おれの言うことがわかるのかい?』
『ステラちゃんは、聖女候補なんだよ、パパン』
『なんと! あなたのような方が聖女になるなら、わたしも嬉しいです』
パパンが落としたネズミはまだ息があったようで、うずくまって前足で顔をおおい、シクシク泣いている。
『うう。オイラまだ食われたくねぇよ。オイラがネズミだからって、ネズミだからって。これだからネコってやつぁ…………』
なんか江戸っ子口調のネズミが哀れになってきた。マフラーかな。紫の布を首元に巻いていて、ネズミなのにオシャレだ。
茶色い毛並みで尻尾はフサフサ。たぶんネズミの中でも指折りにプリチーな容姿をしている。
直前まで俺達のご飯になるかもしれなかったネズミだけど、こんな人間じみた姿を見てしまうと、食べる気になれない。
『なぁパパン。この子俺の友だちにしていい?』
『そうは言っても坊や。せっかく生け捕りにしてきたのに』
『ネズミならほかにいくらでもいるだろ。この子は見逃して。たのむよパパン』
俺のおねだりに、パパンは根負けしてくれた。
『──だってさ。もう食べないから安心しろよ、ネズ公!』
『オイラ、ネズ公なんて名前じゃねえ。ヤマネだ! いつかはヒーローになる男さ! 忘れないように脳みそに書いとけ、ニャン公!』
『俺だってニャン公なんて名前じゃない。イナバだ!』
俺が言い返すと、ヤマネは鼻の頭をかいて笑う。
『イナバか。ネコにしては粋な名前だな。何はともあれ、助けてもらったことには感謝するぜぃ!』
ヤマネが仲間になった。
これも人助け(ネズミだけど)だよな!
『ネズミを友だちにしたいなんて、坊やは面白いことを言うなぁ』
「あの、パパ猫さん。ごはんならうちで出すので、良かったらママ猫さんやほかの子ネコちゃんたちと一緒にうちで暮らしませんか?」
そう。ステラちゃんのパパとママは、パパンも含めて世話してくれると言っていたのだ。
『そんな。いいのですか?』
「大丈夫よ。ね、お兄ちゃん」
ステラちゃんに話を振られて、ルークも賛成する。
パパンは、ルークが家族の元に連れて行ってくれることになった。パパンも含めて世話してくれるなんて。
この恩はネコ生かけて返さないといけないにゃ!