41 聖獣についての手記と、予想外のお客さま。
学校が休みの日。
シルヴァが、ステラちゃんの家に古い手帳の山を持ち込んだ。
載せられた木製テーブルが軋むレベルの量。
俺はテーブルに飛び乗って、手帳の山を眺める。
「これ全部、シルヴァくんのご先祖さまが書き記したの?」
「ええ。ボクのひいひいひいおばあちゃんが先代聖獣さまと聖女さまにお仕えしていたときの手記です。聖獣さまを探すのに役に立つと思いまして」
『よくこんなに持ってこれたにゃ』
人間のときの俺でも、運ぶのに三往復はしないといけなさそうな量だ。山から崩れてきた一冊が、俺の前に落ちる。
その落ちてきた一冊をステラちゃんが取って、広げる。
「とにかく、読みましょう。先代の聖獣さまがどこにおられたのか、聖女さまの話もどこかに書いてあるかもしれないものね」
「はい。ボクもお手伝いします」
「僕も手伝うよ」
「ありがとう。シルヴァくん、お兄ちゃん」
三人は一冊ずつ黙読しはじめる。
これだけの量だし、できるなら手伝いたい。でも俺は猫だから、手帳のページをめくれないんだよな。
『へっへっへ! オイラがめくってやろう』
『ページ、めくれるのか、ヤマネ』
『オイラはヒーローだからな! できねぇこたあねえぜ!』
ヤマネがつまようじをフリフリ胸を張る。
実際、手帳はその名の通り小さめだから、ヤマネでもめくれないこともなかった。ページとページの間につまようじを差し込んで、器用にめくる。
『フムフム。──初めて謁見した聖獣さまは、とても愛らしいお姿をしておられた。清らかな白い翼につぶらな瞳。なんて神々しいのでしょう。聖女様がおっしゃるには、聖獣さまがお好みなのは甘酸っぱい果実とのことなので、早急に取り寄せようと思う』
あの爺さんがチート能力かなんかくれたのかねぇ。間違えてこっちの世界に生まれ変わっちゃったお詫びに、向こうに帰るとき力をやるとかなんとか言ってたし。
「聖獣さまは白い翼があるの? イナバちゃん、開いている冊子、わたしが読んでいい?」
『どうぞにゃ』
ステラちゃんは自分が開いていた手帳を閉じて、俺たちが開いていたものを手に取る。
もしかしてこの一冊が当たりか!? と思ったけど、そううまくは行かないもんで。白くて翼があって、果実が好き。それ以降は箝口令でもしかれていたのか記述がないみたいだ。
手帳を開いては閉じ、新しいものを開いては閉じを繰り返していたら、昼下がりになっていた。
軽いノックの音が来客をつげる。
ステラちゃんが手帳を閉じて応対に向かう。
「はーい。すみません、お客さま。パパとママは仕事だから今いなくて………って! カイトさん!?」
予想しなかった客人に、ステラちゃんだけでなく、ルークとシルヴァもびっくりだ。
「退院したんですね」
「まあね。でも傷はまだ塞がってないから、もうしばらく大人しくしてろって上からのお達しでさ。復職する前に、君にお礼をしとかなきゃと思って」
「お礼?」
「ああ。手当して、オレを病院まで運んでくれただろ。解毒薬まで見つけてもらってたのに、何も礼をしないなんて先祖に顔向けできないよ」
軽い口調でおどけてみせているけど、カイトの表情はいたって真面目だ。
「それに、オレが回復したら言いたいことがあったんでしょ? ジムさんから、オレが倒れてからのこと聞いたよ。何でも聞くよ」
「………いじわるするつもりで来たわけじゃなく? 記事にもしない?」
最初会ったときには散々からかわれていたから、ステラちゃんはちょっと警戒している。
「いじわるしないし、記事にもしない。ね、ケーキおごるから、ちょっと外で話そうよ」
『行ってみたらいいんじゃないかにゃ。ステラちゃん、根詰めすぎて疲れただろ?』
カイトのお礼したいって気持ちに、偽りはない気がした。だから助け舟を出す。
「行ってきていいよ、ステラ。あとは僕とシルヴァが調べるから。甘いものでも食べて疲れを取ればいいよ。………ただし、カイトって言ったか。妹に何かあったらただじゃおかないからな!」
「大丈夫大丈夫。オレはこう見えて超マジメだから。命の恩人に変なことしないって」
ルークは、ステラちゃんが旅でいっぱい大変な思いをしたから、存分に甘やかしてくれている。シルヴァにも行ってらっしゃい、と言われ、ステラちゃんはカイトの誘いに乗ることにした。





