31 奇跡の花に手を伸ばせ!
「ソーマ。花を探してくれ。透明な花弁の花だ」
『クァ、クァ。わかった、ソーマがんばる』
木の枝に止まって命令を待っていたソーマは、アルベルトの命令を受けて崖上まで飛んでいく。
「上の方はソーマに任せるとして、手の届く高さのところは私たちで探そう」
「はい!」
『俺に任せるにゃ! ネコになったのが役に立つときがきたぜ!』
天然の壁はデコボコしていて、ところどころに木や雑草も生えている。これなら登れそうだ。俺の中のネコの勘がそう言っている。
ステラちゃんの肩から降りて、岩に爪を立てる。
とうめいな花弁で、とんがってる葉っぱ、どこにゃ。
下を見れば、ステラちゃんとアルベルトも視線を岩場に向けながら、慎重に歩いている。
二人の背後に浮遊タイプの魔物が忍び寄るのが見えた。人の頭くらいの丸型で、耳部分にコウモリの羽が生えている。
『にあああああ! ステラちゃん、危ないにゃ!』
「甘い」
アルベルトが振り向きざま、魔術書で敵を殴った。
ギギギぃとガラスをひっかくような断末魔をあげて、魔物は灰になる。
物理で殴るってマジかよ魔法士。もしものときは杖で殴れというだけはある。
ステラちゃんは驚きすぎて口をぱくぱくさせている。
「アルベルトさま、今のは?」
「今のはチョンチョンという魔物だ。血を吸う魔物で、主に夜出没する。森の中だと昼夜問わず現れる」
本の背についた緑の血を袖で乱暴に拭って、アルベルトは講釈をおっぱじめた。
「こういう岩場もチョンチョンのナワバリだ。こいつらは弱いから、魔法を使うよりは殴ったほうが早い」
「わかりました。ありがとうございます、アルベルトさま。よーし、わたしもがんばらなきゃ! えい、えい!」
ステラちゃんは杖をしっかりと握りしめて、みようみまねの素振りをする。
うおおおぉぉぉ何してくれてんだアルベルト!
ステラちゃんが暴力ヒロインへの一歩を踏み出しちまったじゃないか! お兄ちゃん泣いちゃうぞ。
嘆いてばかりもいられない。花を探さないと。
リリーナいわく、日の出ている間しか咲かない、日没と同時に枯れる性質。
つまり日光が当たりやすい位置に……遮るものがない崖上に生えるのでは。
下の方は森の木々が近いから、光が届きにくい。もっと上にいかないとにゃ。
木の枝に飛び乗って、ぐるりと崖を見渡す。
とんがった葉っぱ、とうめいな花。日は少しずつ傾いていく。早く見つけないと。
『クァ! ソーマ、花ミツケタ、ミツケタ』
『え、まじ!? どこにゃ?』
ソーマが示したのは、俺がいる木の枝よりさらに高いところ、崖上から降りていくには危険すぎる位置にあった。
『クァ、ソラに教えてきた。あの花、とる』
『人間じゃ無理だにゃん。俺が行くぜ! ネコならあの高さでも大丈夫にゃ!』
「イナバちゃん、がんばって!」
ハラハラしたようなステラちゃんの声がエールをくれる。ゆっくり前足をとっかかりに入れて、よじ登る。
人間よりこういうのが得意なネコでも重労働にゃ。
飛び出た岩にジャンプして登ってを繰り返して、アンチドーテのもとにたどり着いた。
太陽光を透かして光るとうめいな花。花の形はユリに似ているけど、ユリではない。小さい一輪咲きの花。人間の手では採ることがとても難しい場所に生える花。
これがあれば、カイトが助かるんだ。
よいせ、根本に爪を立てて……、前足が短いから力が足りなくて取れやしねえ。
生まれて一ヶ月経ってないネコだもんにゃ。
人間捨てたことを、いま無性に後悔している。
でも、人間なら人間で、登れなくて見上げるしかできなかっただろうな。
俺はいつだって嘆くだけ。
不満ばかりでグチるだけの人生なんて前世で終わらせたにゃ!
今生ではもうあきらめないにゃ!
ここで採らなきゃカイトが死ぬ。いくら自分の命軽く見てる俺でも、誰かが不条理に死ぬのを黙ってまっているなんて嫌だった。
くそ硬えなこの根っこ。噛んじゃえ!
両前足で飛びついて根っこに食らいついたら、いきおいよく抜けた。
やったぜ、これでカイトの薬がつくれ……。
って、ああぁぁああああああ!
花を抱えてるから受け身が取れニャイ。
『ぎにゃーーーー! おおおぉーちーーるぅぅうううーー!!!!』
「きゃーー!! イナバちゃんーーーー!」
ネコになってからの日々が走馬灯となってぐーるぐーるメリーゴーランドする。
死にたくにゃいにゃーーーーーー!!





