22 夜のパトロールで予想外の事態が発生した
さて。昼間たっぷりと寝たので、俺はヤマネと共に夜のパトロールに出た。
ステラちゃんとルーク、シルヴァも一緒だ。
『フクロウとかコウモリとか、夜しか会えない動物がいると思うんだ。そういう動物たちに聖獣のこと聞きたい』そう話したら、ステラちゃんがついてきてくれると言う。ステラちゃんを一人で夜歩かせるわけにはいかないと、シルヴァも同行することになった。
俺とヤマネだけでも良かったんだが、トンビに拐われたばかりだから誰か一緒じゃないとダメだって怒られた。
俺、魂だけならこのメンバーでは一番年上なのに。今は生まれたての子猫だから弱っちいのだ。
夜道のパトロールというのもなかなか楽しい。昼間と同じ町だけど、子どもはぜんぜんいない。仕事帰りっぽい人たちや、これから飲みに行くであろう人たち。
このあたりは前世の世界と似ているように思う。
街灯の灯りは、魔法の光。
人間時代に見ていた、蛾の群がるものとは違うようだ。オレンジがかった光が目に優しい。
ヤマネは俺の背にまたがり、ママからもらったつまようじをブンブン振ってゴキゲンだ。
『ハッハッハ! オイラは白馬の騎士だぜぃ! 世にはびこる悪は、このヤマネさまが斬っちまうぜぃ! はいよーしるばー!』
『俺は白馬でもシルバーでもねえ。ネコだ』
『おいおいイナバよ。ノッてたのに水をさすなよ』
調子に乗っていたというか俺に乗っていたというか。ホントに中二病だなヤマネ。
「ふふっ。ヤマネちゃんもイナバちゃんも楽しそうね」
「ボクにはなんて言っているのかわからないけど、楽しそうなのはなんとなくわかります」
言葉は交わせなくても、楽しいのは伝わっているんだな。シルヴァが歩きながら提案してくれる。
「動物に会うなら、町の中より自然がある方がいいでしょうか。公園なら野鳥や小動物がたくさんいそうですね」
「いいわね。公園に行ってみましょう」
そういうわけで公園に向かった。
公園は湖をぐるりと囲むように、遊歩道がある。この町の中でもっとも自然豊かなスポットだ。
「わぁ! 明かりが少ないから星がよく見えるのね。きれい……!」
一瞬本来の目的を忘れて、ステラちゃんが満天の星に見惚れる。無邪気な様子に、シルヴァも自然と笑顔になる。
「ステラさんは、星が好きなんですか?」
「うん。いつもは部屋の窓から見ているだけだったけど、こうして外で見ると星の海の中にいるみたいね」
「ボクもゆっくり夜空を見上げることがなかったから、こういうのは初めてかもしれません。……本当にきれいですね」
わー、なんかいい雰囲気。デートみたいじゃん。おじゃま虫になるのは忍びないから、俺はヤマネを乗せたまま先に行く。
『おおー! なんかチーズの匂いがするぞ! イナバ、そこだ! そこの茂みにいくんでぃ!』
『ほんとだ。なんか美味しいニオイが。ていうかつい最近嗅いだばかりのニオイ』
ネコになってから、夜目がきくだけでなく嗅覚がとっても鋭くなったんだぜ! ネコ最高じゃん。ありがとう浮いてるじいさん!
ニオイの元に向かうと、あれ……人の声?
「う……」
茂みの中にカイトが倒れていた。錆びた鉄に似た臭いがする。血のにじむ左腕をおさえてうずくまっている。
『て、てえへんだーー!! イナバ、早くステラを呼んでくるんでぃ! ステラに頼めば医者も呼べる。はいしどうどう!』
『わかってるにゃ! 馬扱いすんなっての!』
全速力でステラちゃんとシルヴァの元に走る。
二人は倒れたカイトを見てひどくうろたえた。昼につきまとわれて、ケンカしたばかりの相手だ。ステラちゃんも覚えていた。
「ど、どうしてこんな。……とにかく止血しないと! ねえあなた大丈夫?」
「う………なんだ、オチビちゃんじゃん。彼氏と、夜のデート? 子どもなのに、おませだねぇ」
「けが人は黙っていてください」
息絶え絶えなのにイヤミを忘れない、いい性格だ。
ステラちゃんは軽口を無視して、ハンカチでカイトの傷口より上を縛る。止血帯がわりだ。脇腹に見える傷からも血が滴っている。
「よけいな、おせわだっての。さっさと、あっち行ってくれ」
「こんなになっているのに何いってんです。ほうっておけるわけないでしょう」
「昼間に、あんなことした相手に、よく親切にできるね」
足があらわになるのも気にせず、ステラちゃんはローブとスカートの裾をさいて包帯を作る。そして乱暴にカイトの腹に巻いた。
止血したらシルヴァがカイトを背負って、すぐに病院に運び込む。
病院につく頃には、カイトはろくに口を利けなくなっていた。
なんであんなところに倒れていたのか、本人の意識がもうろうとしているから聞き取りはできない。
俺たちは夜明けを待って、再びカイトの病室に向かった。





