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12 わたしにできること feat.ステラ

 わたしは今日の授業が終わると、クラスメートへのお別れもそこそこに教科書をカバンに詰める。


「ステラ。これから王城の魔法士さまの講義だろ。がんばるんだぞ」

「いってらっしゃいステラちゃん。明日、お城の話聞かせてね!」

「ありがとう、お兄ちゃん、ココアちゃん。いってきます」


 お兄ちゃんとココアちゃんに背中を押されて、学校を出る。

 王城は本来庶民のわたしが入れるようなところじゃない。

 聖女候補に選ばれたから、特別に入城の許可をいただけたの。講義も王城の、魔法訓練施設の一角をお借りすることになりました。 

 

 わたしが動物と話せるのは魔法の力。正しく魔法を使いこなせるようになるため訓練と知識が必要だと、女王陛下からお話がありました。


 ただの庶民のわたしが、本当にここにいていいのかな。

 城門を前にして、恐れ多すぎて足が震えてしまう。

 二回目でも緊張するものはする。今後も慣れそうにない。

 イナバちゃんやヤマネちゃんがいたら落ち着くのにな。でも王城に連れてきてはいけないし。

 うう、深呼吸、深呼吸。こんな弱音吐いてちゃだめよね。がんばろう。


 大きく息を吸って、警備している騎士様たちにあいさつします。


「おっ、お初にお目にかかります。聖女候補ステラ、アルベルトさまの講義を受けるため参りました」

「ああ、君が。話は聞いているよ。魔法訓練施設の場所はこの突き当りを右にいったところだ。二階の座学用の部屋で待っているそうだ。会えばすぐにわかると思うよ」


「わかりました。ありがとうございます!」


 教わった方に行こうとして、右手右足が同時にでちゃう。うう、はずかしい。手足がカチコチ。

 通路だけでも学校の廊下よりも幅が広くて、突き当りまで結構歩く。真っ白な石造りで、歩くごとにカツンカツンと足音が鳴る。


 これだけ広いと、少しでも道をそれたら迷子になってしまいそう。


挿絵(By みてみん)



「ええと、突き当りを右。右……」


 突き当りを言われたとおり右折すると、開けた場所に横長なレンガの建物が見えた。入り口に鍵はかかっていなくて、そっと中に踏み込む。

 魔法の光が等間隔に壁に設置されていて、屋内はとても明るい。


挿絵(By みてみん)


「君がステラか。予定より早かったな」


 階段の上から、手すりに持たれるようにしてお兄さんが片手をあげていた。この方がアルベルトさまでしょうか。

 二十歳になるかならないか。

 深い青の御髪に、髪と同じ色の瞳。背が高くて、きっちりと着こなした白いローブがとてもよく似合っています。


「は、はい! はじめまして! ふつつかものですが、本日からよろしくお願いします。あなたがアルベルトさまですか?」


 勢い良く頭を下げる。貴族さまにお会いするときは粗相のないように、最上級の礼をはらいなさい、とママから教わった。


「いかにも。私がアルベルト・ローエングリンだ。ではステラ。さっそく座学から入ろうか。上がってきてくれ」


 アルベルトさまは素っ気なく言って、部屋に入っていく。機嫌が悪い……わけではない、みたい。

 促されるまま、階段を上がって正面にある部屋に入る。


 奥の壁面は上から下、右から左まで一面本棚で、びっしり本が詰まっている。もしかしてこれ全部魔法の本なのかな。


「さ、座ってくれ。確認するが、ステラの学校に魔法学はないんだな」

「はい」


「では貴族の学校一年が習う初歩から学んでもらおう」


 アルベルトさまは後ろの本棚から厚手の本を四冊持ってきて、テーブルに置く。ドスン! とかなりの重さを感じさせる音がした。


「これ全部、学校で習う分ですか?」

「いいや。これは一年生の前期の分だ。後期はこれの二倍ある。一年の分を学び終えたら二年と三年の分もある」

「これでまだはじめのほんの少しだけなんですね」


 一年生の半分でこの量。魔法はわたしが思うよりもずっとずっと奥が深いのね。


「ある程度基礎を身に着けたあとは、君の魔法適性を調べて実技訓練をしよう。適性がなければできないが、まず使ってみたい魔法や興味のある魔法はあるか?」


「あ、あの。魔法の中に人の性格を変えてしまうものってありますか? お友だちの一人が、まるで人が変わったようになってしまっていて」

 

 イナバちゃんの話によると、『キシリアお嬢様は何かに憑かれたように変わってしまった。と、屋敷の人たちは言っていた』らしい。

 わたしも不思議に思っていた。


 初めて王城に招かれたのは十日前。女王陛下に招かれたとき。キシリアさまも一緒だった。

「お互い切磋琢磨して聖獣さまをお迎えしましょうね、ステラ」と、握手してくれた。

 キリッとしていて背筋もまっすぐで、お優しい方なのだと思った。


 なのに、イナバちゃんの家族に暴力を振るっていたキシリアさまは、わたしを全く知らない様子だった。


 本当に、心だけ全く別の人になってしまったかのように。


 魔法の専門家である魔法士さまなら、なにかわかるかもしれない。なんの知識もないのにおこがましいかもしれないけれど、かなうならキシリアさまを助けたい。

 

「治す魔法があるなら、教えてください。その方を助けたいんです!」




挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けられるんなら、助けたいねぇ。
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