10 元社畜ネコの俺、鬼シリアについて考察してみた
ネコに転生して一週間経った。
俺は今日も今日とて、キョウダイたちとママンのおっぱいをもみもみチューチュー。
ネコミルクがこんなにうまいなんて知らなかったぜ。
そしてネコだからか、布を一枚もまとってないのに羞恥心が微塵も起こらない。パンツもないから丸出しなのにな。
ヤマネは、ママさんが分けてくれたマカロンに抱きついてご満悦だ。体長七センチくらいしかないから、マカロンとほぼ同じ。
それから学校に行くステラちゃんとルークを見送る。
キョウダイたちは、ママンの眠るバスケットのなかに一緒に入って眠っている。
俺はやりたいことがあるから、ヤマネと一緒に町に出た。(ネコだから全裸で歩いていても職質されない。ヤッタネ! 日本だったら逮捕されてるぞ!)
ぽかぽか陽気で、家々の花壇にはチューリップやいろんな花が植えてある。あいにくと俺は花に詳しくないから、チューリップくらいしかわからない。
ちなみにこのゲーム世界は、現実に似ていて、三六〇日で一年が成り立っている。
一ヶ月が三十日。四月始まりで春夏秋冬各三ヶ月ずつ。ゲーム初心者にもとっても親切な設定だ。
俺の頭に座っているヤマネが言う。
『さてイナバ。今日はどうするんでぃ?』
『パトロールだ。町の動物たちに、人の性格が変わってしまうことについて聞きたいんだ。誰か一人くらい、そういう魔法があるとか知ってるかもしれない』
『おう。もう一人の聖女候補の、キシリアだったか。そいつが何かに憑かれてるみたいなんだろ?』
『たぶん』
俺は屋敷から戻ったあと、ステラちゃんたちにキシリアのことを話した。鬼島が入っていることや俺の前世のことは言えないから、ざっくりと『何かに憑かれているのか、聖女候補に選ばれてから人が変わってしまった』と説明した。
あながち間違っていないと思う。
鬼シリアは、鬼島の精神が入り込むまでキシリア嬢だったのだ。
『ステラちゃんが学校の図書室や国立図書館を調べてくれるって言ってくれたから、俺たちは動物にしかできないことをしようぜ』
『そうだな。オイラたちはトショカンに立入禁止なのが悔しいぜぇ』
まあ普通ペット連れ込み禁止だよな。そういうところばっか現実的なんだから、やんなっちまうぜ。ネコだから、図書館に近寄ったら敷地から追い出された。
いつか人間に生まれ変わることがあったら、図書館に近づくネコには優しくしてやろうと思ったぜ。
鬼シリアから、鬼島の魂を引き剥がすことができるなら、そういう方法があるのなら、キシリア嬢をもとに戻してあげることができるかもしれない。
ただ、鬼島の魂がどこにいくかが問題だ。
あのじいさんにまた会うことができるなら、聞くこともできるんだろうけれど、会う方法を知らない。ネコに転生したとき向こうから会いに来たんだもん。一方通行である。
町を練り歩き、ノラネコやネズミなんかにきいてまわる。
憑かれたようになった人を見たことあるか? 治す方法を知らないか?
俺は子猫だからあんまり遠くまでは移動できないけど、子猫なりにできることをしたい。聖女候補の試験期間は一年しかないのだから。
のんびりしていたら、ステラちゃんが鬼シリアの策略で追い込まれてしまうかもしれない。
鬼島は邪魔と思えば新人だろうと陥れる気質だから、ステラちゃんみたいにか弱い女の子相手でも容赦はしないと思う。
ステラちゃんが迎えるエンディングによっては、キシリア嬢は破滅する。場合によっては命を落とす。そんなの鬼島が受け入れるわけがない。
この世界を夢だと思い込んでるみたいだけど、鬼島はたとえ夢でも目下の人間に負けるのが嫌いだろう。
『とにかく、動物しか知らないこともあるだろうし、がんばろうぜ、ヤマネ!』
『おうよ!』
気合を入れて、俺たちは町を走る。全てはステラちゃんに聖女になってもらうために。キシリア嬢を助けるために。





