激流の中で
「っは。…っは。大丈夫か!?」
俺は声を掛けながら子供の居る場所まで泳いでいると子供は俺の声に気付いたのか溺れながらも俺に向けて手を伸ばしてくる
「った、助けて!ゴホッ…わたしっ。泳げない!」
「すぐに、助けるから!…俺の手に、っ捕まれ!」
子供は一生懸命もがいていた身体を俺のほうへ向けると川の流れが変わったのか俺との距離が少しずつ短くなっていき、子供の場所まで辿り着くと子供の手を掴んで自分の身体へ引き寄せる
「もう安心だからな!」
俺は子供を片手で抱き抱えると子供は俺の身体にしがみついてくる。
そのせいでうまく泳ぐことが出来ないが、川の流れが早いので子供を離すことはできない
流された影響か岸際を見ても祐司と誠の姿は見えない
俺は子供を抱き抱えながら岸際まで進もうと泳ぐが慣れない体勢のせいかなかなかうまく進まない
「…っは、っは、うぐっ!?」
子供を抱えたまま無理をして泳いだせいか流された場所に隆起していた岩に背中を強打する
酒を飲んだせいもあって身体の動きがいつもより重いし、強打した背中が痛すぎてうまく泳ぐことが出来ない。
まずい、このままだと後方にある渓谷の激流地帯まで流される。あそこは岩肌が剥き出しのうえ川の流れがジグザグに入り組んでいるのでそこまで行くともう助かる気がしない。
酒は抜けたと思っていたが、動いたせいか酔いが回り始めているのも感じる。
ふと、子供の顔を見ると川の水を飲んでしまったのか、顔色が青くなっている。このまま流されるのはマズい。
だが、泳ぐも泳ぐも岸際との距離は縮むことはない。
これが溺れている人を助けようとして自分も溺れることになると言うやつか。
流されながらも冷静に考えることは出来るようで身体に岩や流木が当たらないように体勢を変えながら泳いでいると後方から激流地帯のゴォーッという川の音が聞こえてくる
「…っく。もうそこまで、君はこれを付けて!」
「っぷは。…こ、これって?」
「ライフジャケット!」
「つ、付け方わから…っない!」
「俺が付けるから大丈夫!少し、痛いけど我慢してな!」
俺は自分が付けている腰に付けるタイプのライフジャケットを
外して子供の股下から肩に掛けて付け替え、限界まで調整金具を締め付ける。そして、ひき糸を引いてライフジャケットを膨張させる。
「いいか。俺が合図したら息を大きく吸って、息を止めるんだぞ!」
「う、うん!」
俺は後方を確認して激流地帯の入り口に入る寸前で子供を庇うように抱きしめる
「よし、息を吸って!ハーッ…っ止めて!」
「ハーッ…っんぐ!」
俺の合図に合わせて子供も息を吸って、息を止める
そして、激流地帯へと突入した。
激流地帯に入ると一気に川の流れが変わり、激流の勢いに呑まれるように身体が水の中へと引き込まれる
激流の中で体勢を掻き回されながら流されていくと自分が今何処を向いてるのかすら分からなくなる。
そして、その勢いのまま身体の節々を岩や流木に打ち付けられて鋭い痛みが俺を襲った。
俺は痛みに悲鳴をあげるが、それでも子供には岩や流木が当たらないように子供を抱きしめる力を強めた。
激流という名の暴力にされるがまま流されること少し
激流の中でも河床勾配が急な滝のような箇所へと吸い込まれる
「ッ…く、グガッ!?」
激流に流された勢いのまま滝から投げ捨てられた俺は水飛沫をあげながら岸際の浅瀬へと落下した。
そして、俺は川底の岩肌へ後頭部を勢い良く打ち付ける。
あぁ…これは、ヤバい…
意識が遠のいていく…
「ゴホッ…ゴポゴホッ…」
俺の腕の中では子供が落下の衝撃で意識を取り戻したのか飲み込んだ水を吐き出しているのが見える
滝から落ちた勢いで浅瀬に投げ出されたのが良かったのか、
もう流されることもなくなったようだ。
子供が助かってよかった。
ただ、俺の身体はもう動かない
指先に力を入れて動かそうとするが、少しも動くことがない
少し無理をし過ぎたようだ。
…まことと、ゆうじは、まだ来ないのか
まったく。俺がこんなに頑張ってんのに…
アイツらが戻ってきたら飯でも奢ってもらうか。
キャンプも再開しないといけないし…
釣った…虹鱒も…食べな……い……と………
そして、俺はそのまま意識を失った。
秋葉 夕葉 余命28歳
キャンプ場近くの河川で遊んでいた少女が誤って川に落ちた際、男性が少女を救う為に川へと飛び込み、少女を無事に救助しました。その男性は救助時に後頭部を強打し、脳出血の為、亡くなりました。
翌日の朝のニュースで全国にこの情報が流れることとなった。