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【完結版】呪縛のジオグリフ  作者: 三ツ沢ひらく
一、蜘蛛の儀式
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第1話

現在二年越しで改稿作業をしています。完結まで書き終わっていますのでどうぞお楽しみください。

「転校!?」


 放課後の教室に、女子の大きな声が響いた。


 紙パックのりんごジュースを飲みながらこくりと頷くのは、先程突然「転校する」と言い出した張本人であるもとあきら


 肩下までの長さの黒髪に、凛とした瞳を持つ、女子空手部のエースだ。


 対して晶の爆弾発言に大声を上げたのは、晶の幼馴染である梅垣うめがき瑞穂みずほ


 空手部のマネージャーで、晶と同じくもうすぐ高校二年生になる。


 瑞穂はパニックを起こしながら「どうして!?」と晶の肩をガシリと掴んだ。


「とうとう殴っちゃった」


「え……もしかして、あんたのとこのクソ継父(おやじ)を?」


「うん」


「だからって、なんで転校なんて」


「一発顎に入れただけだったんだけど、脳震盪と顎の粉砕骨折。さすがに病院で警察呼ばれちゃって……」


「そ、それで?」


「しばらく隔離。Y県のおじいちゃん家に住むことになった」


 なんでもないことのように言う晶に、瑞穂はじわじわと目に涙を溜め始める。


「晶は悪くないじゃん」


「まあでも、手を出したのは私だし」


「あのクソ継父が先に晶を家から閉め出したりスマホ捨てたりしたんじゃん!」


 そう息巻く瑞穂の言うとおり、晶は家で母親の再婚相手に嫌がらせを受けていた。


 最初はベタベタ体に触ってくる手を叩き落としたのがきっかけだった。


 以降、部活で遅くなっただけなのに、門限を破ったと言って家にチェーンロックをかけられたり、自分のものより新しいのが気に食わないという理由だけでスマホを窓から投げ捨てられたり、見ていて鬱陶しいと背中まで伸ばしていた髪にガムを付けられたり。


 晶としてはそんな子供のような嫌がらせは無視していればよかった。毎日毎日イライラしてはいたけれど、はす向かいの瑞穂の家に泊めてもらったりしてどうにか過ごしていた。


 けれども、どうしても許せないことが、ついに起こってしまった。


「あいつ、母さんを殴ったの。私の目の前で。母さんは悪くないのに。気付いたら一発入れてたよ。そしたら受け身も取れずに吹っ飛んでいっちゃって……」


「ねえ、どうにかならない? 晶が遠くにいっちゃうなんて。転校するなんて嫌。それに女子空手部はどうするの? 今年は全国狙えそうなのに」


「ごめん瑞穂……また休みの日にでも遊ぼう。空手は落ち着いたら再開したい、かな。今までいっぱい相談に乗ってくれてありがとう。離れてもずっと友達でいてね」


「晶ぁ……」


 こうして高校一年生が終わる頃、晶の転校が決まった。


 親を病院送りにした問題児のレッテルを貼られた晶を受け入れてくれたのは、伝統ある私立桜中央学園。晶の祖父の家からバスで通える位置にあり、リモートで行われた転入試験も無事に合格することができた。


 母方の祖父母は、多くを語らずとも晶のことを優しく迎え入れてくれた。


 晶は母を置いてきてしまったことに若干の後悔を抱えていたが、継父を殴り飛ばした件については、今まで積りに積もった恨みの分、とてもスッキリとした気持ちになっていた。


 だから周りからクールだとかサバサバしてるだとか、対戦相手には冷酷だとか言われるのかもしれない。


 生まれつき表情筋がやや死んでいるから、余計に。


 ただ心残りはある。瑞穂たち友人と離れてしまうこと。中途半端になってしまった部活動のこと。


 全部受け入れて、また一からやり直そう。そう心に決めて。


 毒親から解放されて心機一転。

 生まれ変わった本野晶、十六歳。

 この春で高校二年生。

 趣味は動物の動画を見ること。

 特技は空手。


 新しい学校で何が待っているのか、本人は全く表情に出さないが――この時はまだ、晶の中では楽しみが勝っていた。


 最悪の転校初日を迎えるまでは。


女主人公の学園伝奇ジュブナイルを目指して書いています。

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