表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/233

プロローグ3 11年前,7年前

 轟々と、嵐が狂泉の森の木々を揺らしていた。

 家から姿を消した娘を探しに外に出たサヤは、まだ三歳にしかならない娘が、おもちゃの弓矢を手に、扉の外で空に向かって何か叫んでいるのを見つけた。

「何をしているの!カイト!」

 サヤは娘を叱りつけた。

「とどかないの」

 泣きながら、カイトと呼ばれた娘は答えた。

「あいつにとどかないの」

 サヤは娘の指さす先を見た。

 娘が指さしているのは、雲に厚く覆われた空だった。

「カイト、あんた、嵐をやっつけようとしたの?」

 口を真一文字に結んで、娘が彼女を見る。それが娘の示した肯定と察して、サヤは思わず笑い、娘の前にしゃがみ込んだ。

「良い子ね、カイト。でも、あれは無理。だってあれは、んー、神だもの」

「かみ?きょうせんさまのような?」

「そうよ。わたしたちは嵐には叶わない。ただ、通り過ぎるのを待つだけ。狂泉様のご加護を信じてね。さあ、お家に戻りましょう」

 カイトが空を振り仰ぐ。それは決して、母親の言葉に納得した表情ではなかった。そして彼女は、母親に手を引かれて屋内に戻るまで、じっと流れる雲を睨みつけていた。


 嵐に矢を向けた幼いカイトが、狂泉の落し子と呼ばれるようになったのは彼女が7才の時である。

 父をはじめとして多くの男たちが狩りに出ていた夜に、カイトはふと、集落に誰かが近づいて来ている気配に気づいた。彼女の家の裏手。少し離れてはいるが、森の中。息の殺し方が獣のそれではなかった。カイトは他の誰にも言わず、自分の子供用の弓矢を手にした。

 翌早朝、見知らぬ男たち3人の死体が集落の外れで発見された。

 狂泉の森にも、はぐれ者はいる。掟を犯して集落を追い出された者たちは、狂泉の森を出るか、徒党を組んで流れ者となった。そうした連中が食料や女を求めて集落を襲うことがたまにあり、近隣の集落に問い合わせても3人に該当する者はなく、彼らはそうした連中であろうと推測されて処理された。

 誰が彼らを殺したのか、それはすぐに知れた。

 死体の喉には、刺さるはずのない子供用のおもちゃの矢が、深々と突き刺さっていたのである。

 父も母もカイトを褒めたが、カイトは自分が褒められる理由が判らず、むしろ眠たそうに欠伸を噛み殺していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ